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I'll  作者: ままはる
第一章
3/57

実地訓練

「これから入隊試験までは、真剣を使った稽古と、近隣の魔物討伐へ向かう剣士隊への同行及び実地訓練となる」


練習生たち一人に一本、真剣が行き渡ったところで、部隊長が言った。


「当然ながら、真剣での私闘は言語道断。即刻ここから叩き出す」


視線をアイザックとウィルに向ける。二人は静かに視線を宙に向けた。


「昨今、グリーンヒル周辺に厄介な魔物はほとんど出ないが、油断は禁物だ。魔物に遭遇した場合は直ちに剣士に報告すること。討伐は剣士に任せれば良いが、可能であれば駆逐しても良い。が、間違っても死ぬな」


練習生が大怪我を負ったり、万が一命を落としたとしても、何の補助金も保険金も出はしない。骨折り損の犬死にである。


「いいか。些細なことでも、何かあれば必ず同行している剣士に報告しろ。絶対に、だ」


語尾を強め、部隊長は再度注意を促した。


「……やっぱり、少し緊張するな」


カストを含めて数人、真剣を初めて握った者たちは、その手に感じる重みに内心ヒヤリとする。


「二つのグループに分ける。先発隊として、さっそく明日の実地訓練に向かいたいという希望者はいるか?」


迷わずウィルは挙手する。真剣の素振りをしているより、絶対に実地訓練の方が楽に違いない。

ウィルの挙手を見て、アイザックも手を挙げた。

他にも手が挙がり、計六名。

アイザックはチラリとカストを見たが、さすがにいきなり実戦は無理だと判断して手は挙げていなかった。


「部隊長。実地訓練に出没する魔物は?」

「スライムとゴブリン。稀に飛蛇が出ると聞いている」

「雑魚ばっか」

「ウィル。そうやって油断している奴ほど、足元を掬われるんだぞ」

「へいへーい」


部隊長は大きく息を吐く。本当にこの幼い少年に、真剣を握らせて良いものだろうか。これまでに何度も自問自答を繰り返した。そしていつも辿り着く答えは、自分にはこうすることしかできないのだ、ということ。


「それでは、挙手した六名は、明朝六時に剣士隊のグラウンドに集合。剣士隊第二部隊七班と八班と共に現地に向かってもらう」

「第二部隊?」


ウィルがカストに問う。


「専属剣士隊は第三部隊まであって、第一部隊は、グリーンヒル・シティ内が管轄。第二部隊がグリーンヒル近郊。第三部隊がそれ以外の国内だね。各地に支部隊もあるけど、所属は第三部隊になるんだ」

「つまり、第三部隊より第二、第一の方が偉い奴らの集まりってことか」

「入隊したばかりの剣士はほとんど第三部隊に配属されるらしいよ。第三部隊でも首都の配属ならいいけど、地方の支部となると……場所によっては辛いなぁ」

「ちなみに、あのオッサンは?」


と、ウィルは目の前の部隊長を指差す。

部隊長はわざとらしく咳払いをした。


「私は第三部隊の部隊長だ。こうして練習生の様子を見に来るのも仕事のうちだ」


普段、主にウィルたちに剣技の稽古をつける師範は別にいる。また、基礎知識を身につける座学の講師も然り。部隊長は月に一度程度やってきて練習生の様子を見たり、時にはこの間のように稽古をつけてくれることもある。


「第三部隊って、暇なん?」

「誰が暇だ!」


⭐︎


━━明朝。


集まった練習生六人と、第二部隊七班の五人、八班の四人は、二台の馬車に分かれて移動した。

ウィルとアイザック、それからイアンという名の練習生の三人は、八班の四人と同じ馬車だった。

特にお互い自己紹介も無かった為、ウィルは心の中で『日焼け』『傷痕』『筋肉ハゲ』『金髪』とあだ名をつけた。見たままの特徴である。


「あのぉ……剣士のお仕事ってどうですか?」


馬車が走り始めてしばらくしてから、イアンが遠慮がちに、剣士たちの中の誰という誰ともなく尋ねた。

どの剣士たちも鍛え抜かれた体つきで、大きい。その雰囲気だけでも、どこか近寄りがたく圧倒される。


「どう、とは?」


日焼けした男が眉を顰める。


「その……思っていたよりも楽だなぁとか、逆にしんどいなぁとか。剣士になって良かったこととか、何でもいいんですけど」

「そうだなぁ……思っていたよりも死にかけることが多い、だな」

「え」


凍りついたイアンをよそに、剣士たちが口々に口を開く。


「特に第三部隊にいた時はきつかったよなぁ。俺は入院二回で済んだけど」


そう言ったのは顔に大きな傷痕のある男。


「あれだろ? オークにぶん投げられて、粉砕骨折」

「俺は人狼を相手にした時、腹から腸を引き摺り出された時はさすがにもうダメかと思ったわ」

「あと遠征も地味にしんどいよな。馬車で二日、三日ならまだしも、一週間とか」

「足場の悪い雪山もあったよな」


そんな事もあったよなー、と笑う金髪の男。

剣士たちの昔話に花が咲くにつれ、どんどんとイアンの顔色が青ざめていく。


「今回の練習生は全部で二十人だろ? 外部からくる奴も合わせて、入隊試験を受けるのは五十人くらいか。まぁ、三十人は受かると思うぜ」

「その……根拠は……?」


聞かなくても答えはわかったが、聞かずにいられないイアン。


「三十人は死んだからだ。減った駒は補充しねぇとな?」


やっぱり、とイアンは絶句する。

就職活動に失敗したからと、軽い気持ちで剣士の練習生になってみたものの、稽古の辛さにニヶ月で嫌気がさした。そこからなんとか自分を騙し騙しここまで来たが、今は猛烈に後悔している。


「それで、そっちのガキは何の冗談だ?」


筋肉隆々のスキンヘッドが、ウィルに視線を向けた。

ウィルは馬車の窓からぼんやりと外を眺めたまま、返事をしない。隣に座っていたアイザックが、肘でウィルを小突いた。


「おい、クソガキ。指名されてんぞ」

「新人をビビらせて楽しんでるような奴らのことなんかほっとけ」

「おま……っ!」


慌ててアイザックは両手でウィルの口を押さえ付ける。


「す、すみません! こいつ、礼儀とか常識を母親の胎内に忘れてきたみたいで!」

「ふぬーっ!」

「ちっ。今年の練習生にガキが紛れ込んでるって噂は聞いてはいたが、実地訓練までノコノコやってくるとはな」

「ガキのお守りなんかまっぴらゴメンだからな。せいぜい泣き出さないよう、あんたら練習生がおんぶでもしてやれよ」

「あ、あ、あの! でもこの子、一応根性があるっていうか、そこそこ強いんじゃないかなぁって、俺たち練習生の間では一目置いてるんですよ! な? アイザック!」

「はっ。口の悪さと素行の悪さと不遜な態度には一目置いて……で、でべぇっ! ぐびをじべるな!」


押さえつけた口を放さないアイザックの首を、ウィルが締め上げる。


「ごちゃごちゃうるせぇ!」


アイザックの手を振り解き、ついでに首を絞めていた手も放す。


「年齢なんかどうでもいいじゃねぇか。要は魔物を殺すか殺されるか、それだけだろ」

「肝が座ってやがる」


筋肉男がニヤリと笑う。


「お手並み拝見といこうじゃねぇか」


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