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I'll  作者: ままはる
第二章
23/114

23.魔剣士

「鬼火の火力じゃねぇだろ!?」


 小さな手のひらサイズの鬼火が、あり得ないほどの炎を吐き出しているのだ。

 ウィルはその小さな的を狙って剣を振り下ろす。だが鬼火はピタリと炎を吐くのを止めると、高速で動いてウィルの斬撃から逃れた。


「洞窟の外に出したら山火事になるわ!」


「そんな事言ったって、速すぎて斬れな……ぅおっ!?」


 捕らえきれない速さで逃げていた鬼火は、ウィルに向かって炎を吐き出した。

 外に逃げて木々に燃え移ると大惨事になる。ウィルは洞窟の中に逃げ込んだ。


「ウィル、駄目! 中にもまだいるの!」


 洞窟の奥から、肌を焼く熱気と共に鬼火が2匹姿を現した。

 ーー挟まれた。

 リズがウィルの後の鬼火に刀で斬りかかるが、刀身が届く前に避けられてしまう。


「ウィルが丸焼けになっちゃうー!?」


 ラリィが悲鳴を上げたと同時。


 ドンッ!


 と、短い音と共に稲妻が鬼火に直撃した。

 鬼火が纏っていた青白い炎は消え失せ、ごろんと地面に転がり落ちる。


「何だ? ……魔法……?」


 更に続いて2回。

 小さな落雷の衝撃を受けて、次々と鬼火が撃ち落とされる。


「……無事、か?」


 静かな男の声。

 ウィルは知らない、しかしリズとラリィはよく知っている声だ。


「ゼン!」


 洞窟の脇に、男が立っている。

 ラリィにゼンと呼ばれた、癖毛混じりの男である。


「助かったわ、ゼン。ありがとう」


「ん……」


 ゼンはリズに小さく頷いてから、洞窟の中に入った。

 口の中で小さく何かを唱えると、彼の手の中に明るい光の球が出現する。


「ゼン……魔剣士の?」


「……」


 ウィルの呟きに、ゼンは目だけを動かしてウィルを見た。しかし何かを言うことはなく、地面で焼け焦げている鬼火に光を翳す。


「……ただの鬼火、だな」


「見た目はね。でも、火力とスピードが異常だわ」


「……」


 無言で鬼火を観察するゼンに、ウィルが1歩近付いた。


「あの、ありがとう……ございました。丸焼けになるところでした」


「……」


「えっと、ゼン先輩……ですよね? 俺、この前この班に配属されたウィル、です」


「……」


「入院してたって聞いて……もう大丈夫なんスか? なんか、毒にやられたとかって」


「……?」


「?」


「……」


「……」


 沈黙に耐えかねて、ウィルはラリィのところへ向かった。


「おいぃぃ!? なんだよ、あの人! 全っ然喋らねぇじゃん! 俺の声、聞こえてる!?」


「ちょっと人見知りしてるのかもしれねーな。でも大体あんな感じだから大丈夫だぞ!」


「……毒、とは、食中毒のことか……?」


 ややあって、何かを思いついたように言ったゼンの隣で、リズがおかしそうに笑いを堪えている。


「おー、それそれ! ウィルの入隊式の前日、ナマモノ食って病院に運ばれたんだよな!」


「あれは……死ぬかと思った……」


「王様にもゼンはどうしたのかって聞かれたのだけど、さすがに生牡蠣に当たったとは言えなかったわ」


「な、生牡蠣……」


 ウィルの中で、希少で最強の魔剣士のイメージがガラガラと崩れていく。


「退院当日……部隊長が、お前たちが心配だから追って合流しろと言われて来たが……」


 ゼンは静かに目線をウィルに向ける。


「さっきのあの男……誰だ?」


 そう言われてウィルは、静まっていた感情が再燃した。


「そうだ、あいつ……っ! あの男、どこに行ったかわかりますか!?」


「……消えた」


「どこに!?」


「言葉通り。空間に溶けるように……消えた」


「あの男って?」


 ラリィが尋ねる。


「あいつが俺の親を殺した犯人かもしれねぇんだ! 早く見つけなきゃーー」


「ちょっと待って。ウィル、落ち着いて」


 リズがウィルの背中に手を添える。


「ゼン。姿を消す魔法というのは可能なの?」


「……理論上は。しかし……それが出来る人間は聞いたことがない」


「なら、普通の人間ではないわね。だったら今、私たちがその男を探し出せるとは思えない」


「けど……!」


 リズは静かに首を横に振る。


「それからこの洞窟の奥。何かの実験をしていたみたい」


「魔物の実験って感じだったぞ。魔物の死体とか、何かの液体とか。檻もあって、色んな魔物が閉じ込められてた」


「周辺にいた魔物たちの出所は、十中八九ここね」


「魔物の実験……」


 ウィルの脳裏に、さっきの男の言葉が蘇る。


「ここにあるのは、失敗作だって言ってました」


 ゼンは洞窟の奥をじっと見据えた。

 ーー魔力を持つ者は、他者が放つ魔力が視える。視え方は色や大きさ、抽象的な何か……とにかく人それぞれ違って、様々な視え方をする。ゼンの場合はなんとなく感じる程度。


「消えた男と……この奥。同じだな……」


 ロックウェル・バレーに到着した時、ゼンはこの妙な魔力を感じ、それを辿ってここへ来たのだ。


「一度アトレストに戻って、部隊長に報告するわ。今は深追いしたくない。いいわね?」


「……はい」


 絞り出すように返事をするウィル。

 ゼンはそんな彼の頭にポン、と手を置いた。


「俺は、ゼン=ハーニアス。お前の話は……部隊長から、聞いている」


 淡々と、表情を変えることなく喋る。


「……あの男の気配は覚えた。焦らず、待て」


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