22.洞窟
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ウィルたちがオーガを倒した場所からもうしばらく獣道を進んでいくと、山肌にポッカリと空いた洞窟を発見した。
「真っ暗ですね」
中を覗いたウィルの声が反響する。まだまだ奥へ広がっていそうだ。
「お宝とか眠ってそうじゃね?」
「宝ならいいけど、魔物がうじゃうじゃいるかもね」
背負っていたナップサックから、ランタンを取り出すリズ。明かりを点けて中を照らしてみる。横幅は大人が五人横に並んで歩けるほど広いが、天井は二メートル程度と、それほど高くない。
「私とラリィで見てくるから、ウィルはここで待機しておいて」
「了解でーす」
万が一魔物がいた場合、ウィルの守護剣では戦えない。ラリィを連れて洞窟の中へと入っていくリズを見送ると、ウィルは手近にあった岩に腰掛けた。
木々の隙間から覗く空は青く、気候も穏やかで気持ちがいい。ほとんど寝ていないウィルに、一気に睡魔が襲ってきた。
(ちょっと目を閉じるだけ……)
落ちてくる瞼の重さに耐えきれず、ウィルは少しだけ目を閉じた。
――それが十秒だったのか、十分だったのか、ウィルにはわからない。
「見つけた」
「っ!?」
すぐ耳の横で聞こえた声に、ウィルは咄嗟に目を開いた。
「誰……あっ!」
ウィルの目の前に立っていたのは、知らない男だった。
黒い服に黒い髪、異様に印象に残る金色の双眸――その男の手に、見慣れたネックレスが握られている。ウィルは慌てて自分の首元を探ったが、指先には何も触れない。
「それ、俺のだろ! 返せよ!」
ウィルがいつも身につけている、銀の指輪を鎖に通したネックレスだ。男は口元に薄く笑みを浮かべた。
「違うよ、僕のだ」
「はぁ? 意味わかんねぇ! 俺のだよ!」
ウィルは男の手からネックレスを奪い返す。男は笑みを浮かべたまま、微動だにしない。
「なんなんだよ、気色悪ぃ奴だな。この辺り、今は立ち入り禁止だ。魔物が出るぞ」
「魔物……?」
男は洞窟に視線を向けた。
「魔物じゃないよ。ただの失敗作だ」
「あ?」
男の言葉の意味がわからず問いただそうとした時、洞窟の奥の方でラリィの声が聞こえた気がした。
「おい、お前! この洞窟が何なのか知って――」
「目が母親によく似ているね」
「!?」
反射的にウィルは男と距離を取り、手の中に守護剣を出現させた。男はチラリと守護剣を見る。
「それ、君が持ってるんだ?」
「母さんを知ってるのか……?」
「どうしようか。面白くなってきちゃった」
「答えろよ! 俺の親を知ってるのか!?」
ウィルの中で、何かが叫んでいる。全身が、本能が――この男は危険だと報せるように、嫌な汗が噴き出した。
守護剣を、男に向けて構える。
「ははっ。そうやってると、父親にそっくりだ」
男は嗤った。
「――すぐに死んだけどね」
「てめぇっ!!」
一瞬も躊躇することなく、ウィルは剣を振り下ろした。だが、何の手応えもない。
「ほら、早くあっちの援護をしてあげないと。仲間も死んじゃうよ?」
「っ!」
ウィルの背後から男の声がした。いつの間に後ろに回ったのか、まったく見えなかった。洞窟の中のラリィの悲鳴が、こちらに近づいてくる。
「その指輪、大切にしてね。もう少し君に預けてあげる」
「お前……お前が殺したのか!? 俺の親……っ! お前が!」
「ウィル!! 避けて!」
リズの声と同時に、洞窟の奥からリズとラリィが転がるように出てきた。続いて燃え盛る炎が二人を追って現れる。
「っ!?」
「熱っ! あっっつー!!」
「魔物! すぐに出てくるから斬って!」
「え、あ、でも……」
ウィルは男の姿を探した。だが。
(いない……逃げやがった!)
「くそっ! なんなんだよ!」
ウィルは剣を構え、洞窟の方へ意識を移す。まるで火炎放射器を最大火力で噴射しているような、凄まじい炎。その炎の出所は――鬼火。




