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I'll  作者: ままはる
第二章
13/14

ようこそ愛の巣へ

入隊式は簡単に終わった。


元帥からの短い挨拶と、各部隊長の紹介。その際に第一部隊長ブラッドフォードがウィルを睨むような目で見ていたような気がしたが、ウィルは気付かないふりをした。


新たな剣士十八名に記章が手渡され、そこで所属先も言い渡された。


「ウィル=レイト。第三部隊一班」


ラリィが言っていた通りで、内心ガッカリする。願わくば、ただの通りすがりの変な人であって欲しかったのに。


残りの十七名は、ことごとく第三部隊の地方支部に配属された。


「グラウンドに各自配属先の班長が待機している。後は班長の指示に従うこと。では━━解散」


第三部隊長ライトの号令で、それぞれがグラウンドに向かって歩き出す。


「ウィル=レイト」


訓練場の出口で、ウィルはブラッドフォードに呼び止められた。


「守護剣士に選抜されたそうだな」


「……はい」


魔物と化したカストと受験生を戦わせたことで、ウィルはこの男に淡い嫌悪感を抱いていた。短い返答にその色はわずかに隠しきれておらず、ブラッドフォードの眉がピクリと跳ねる。


「実技試験は見事であったが、あまり調子に乗るなよ。ただでさえ守護剣士が子供ということで、その価値が汚されたのだ。せめて素行には気をつけろ」


棘のある言い方に、なぜ先ほどから彼が自分を睨んでいたのか理由がわかった。

ウィルが守護剣士になったことが、気に入らないのである。


(部隊長の肩書きを持った大人がダセェな)


心に思ったことをそのまま口に出そうとした時、ウィルの右手が誰かに引かれた。汗臭い訓練場には似合わない石鹸のいい匂いが、ウィルの鼻腔に届く。


「お話し中失礼します。彼に書いてもらう書類が沢山あるので、もういいですか?」


「あ……リズさん」


「……行け」


ブラッドフォードは苦い顔で片手を振る。

リズはウィルの手を握ったまま小さく頭を下げて、訓練場を出た。


「権力を持った相手には、下手に口答えしない方がいいよ」


不貞腐れた顔のウィルに、リズは笑いかける。


「第三部隊部隊一班へようこそ、ウィル。私が班長のリズ」


「あんた……あ、いや、リズさんが?」


「まずは寮に案内するね。付いて来て」


これはウィルにとって嬉しい予想外だった。リズとはこの間会ったきりだが、嫌な感じのしない人だと思っていた。

女だが、カストとウィルの間に一瞬で入り込んだ瞬発力と、急所を一撃で捉えた正確さは見事だった。守護剣士ということはやはり剣の腕もいいのだろうし、何よりも優しくて美人だ。


「あそこに見えるのが男子寮。こっちが女子寮。どちらも基本的に、異性や部外者の立ち入りは禁止」


リズが指をさしたのは、三階建ての大きな建物が三棟と、二階建てが一棟。低い方が女子寮である。


「向かって一番右の男子寮の一階が食堂。ここは食券を買えば誰でも食事ができるの。唐揚げが美味しいから、今度試してみてね」


「はい」


ニッコリと笑うリズに、少し赤い顔で頷くウィル。


「ウィルの部屋はその棟の一番上。今日は特別に中まで案内するわ」


寮の入り口で管理人と思しき男とやり取りをした後、リズは男子寮の中に入って行く。


「そう言えば、あれから守護剣は出してみた?」


寮の廊下を歩きながらリズが尋ねた。

薄暗くて古い練習生の宿舎とは違い、しっかりとしたコンクリートの壁は白くて明るい。掃除も行き届いていて、清潔だ。


「いや、なんか……よくわからなくて」


色々なことが同時に起きすぎていて考える余裕がなかったことに、ウィルは今更気付く。そう言えば、一体キリーはどこへ消えたのだろうかと、ふと頭をよぎった。


「そうよね。落ち着いたらコツを教えてあげる。……早く出してあげないと、怒っていそうだし」


「?」


リズの言葉の意味がよくわからず、ウィルは首を傾げた。


「それから、先にひとつ謝っておくね」


「なんですか?」


部屋に着いたのであろう。リズはひとつのドアの前で足を止めた。


「この寮、ふたり部屋なの。基本的に班のメンバーと同室なんだけど……ごめんなさい。私は一応反対はしたのよ」


言いながら部屋のドアを開ける。

それと同時に、パンッと何かが勢いよく破裂する音がして、ウィルの目の前にカラフルな紙吹雪が舞った。


「いらっしゃーい♪ ようこそ、オレたちの愛の巣へ!」


部屋の中にいたのは、パーティー用のクラッカーを構えたラリィの姿だった。


「嘘だろ……」


頭を抱えて床に崩れ落ちるウィル。


「あれ? 既に顔見知り?」


「リズ♡ 男子寮にリズがいるなんて、なんかイケナイ感じだなぁ」


「……ラリィ。私の質問に答えなさい。既に顔見知りなのか、って聞いてるの」


ウィルはぎょっとしてリズを見上げた。今のセリフとドスのきいた低い声は、リズの口から出たものなのだろうか。


「だって、どんな奴なのか待ちきれなかったんだもん」


「ウィルに何をしたの? どう見てもあんたと同じ部屋でショックを受けてるんだけど? あんたとの初対面はインパクトがあるから、絶対にひとりで会いに行くなって言ったよね?」


「何もしてないって。道案内してやろうか、って声を掛けただけし」


「ウィル、本当に何もされなかった? こいつ異常に小さい子供が好きだから心配なんだけど……」


「オレは小さくて可愛い、リボンの似合う女の子が好きなだけだぞ」


「気持ち悪い……っ」


さっきまでの女神のようなリズはどこへやら、吐き捨てるように言ったその目は、心の底から軽蔑しているそれだ。


「とにかく、こいつに何かされたらすぐに私に報告してね」


「は、はい……」

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