11.入隊試験⑤
ウィルは引かれるがまま、リズについて歩く。
「趣味が悪いにもほどがあるわ。あれが第一部隊長だなんて、信じられないよね」
グラウンドを横切り、資材倉庫の陰にあるベンチまで連れて行かれる。ここなら人目につかない。ウィルを座らせ、その隣にリズも腰を下ろした。
「頑張ったね」
「……っ」
リズの手がウィルの頭に触れた瞬間、今まで堪えていたものが一気に溢れ出した。
涙が次から次にこぼれ落ち、嗚咽が漏れる。リズは何も言わず、ただウィルの頭を撫で続けた。
――どれくらい泣いていたのか、ウィルにはわからない。思う存分泣くだけ泣くと、急に頭がスッキリとした。そして今度は、突如として恥ずかしさが込み上げてくる。
「あの……ごめんなさい。えと、俺、すげぇカッコ悪い……」
「私はリズ。よろしくね、ウィル」
ふわりと笑った顔がとても綺麗で、心なしかウィルの顔が赤くなった。
そう言えばこの女、刀を持っていたはずだ。だが今、ここにそれはない。カストの胸に刺したままだったのだろうか。
「リズ……さん。まさか、剣士じゃないっすよね?」
気恥ずかしさから、自然と敬語になるウィル。
「そのまさか、だけど」
「嘘だろ……」
ふと、カストに聞いた話を思い出す。
「十八歳くらいの美人女剣士……」
強烈に覚えているその特徴。
「……守護剣士?」
リズは自分の左手の甲をウィルに見せた。そこには青色の紋様が刻まれている。それが一瞬白く光ったかと思うと、次の瞬間にはリズの手に一振りの刀が現れた。ウィルが見た、カストを貫いたあの刀だ。
「これが守護剣? 刀?」
「村雨っていうの。持ってみる?」
「いいんですか?」
少し笑って、リズは刀をウィルに手渡した。
が。
「無理無理無理無理!」
とてもじゃないが、持っていられないほど重い。両手で持ち上げようとしても、地面に落とした刀を拾い上げることさえできない。
「守護剣ってね、所持者以外は重くて持つこともできないの。不思議でしょう」
ひょいと片手で刀を拾い上げると、リズは再び手の甲の紋章を光らせ、刀を消した。
「便利ですね、それ。重い剣を持ち歩かなくていい」
「まぁね。でも頼りすぎると筋力が落ちちゃうから、気をつけてるのよ。ウィルも守護剣、欲しい?」
「そりゃ、まぁ。でも……」
正直、今は剣士になりたいとは思えない。アイザックもいない。カストもいない。それにまた、誰かを失うかもしれないと思うと、気持ちが鉛のように沈んでいく。
「――どこまで行くおつもりですか」
「ここよ、ここ。そこのベンチ」
話し声が近づいてくる。リズは立ち上がり、声の主が現れると頭を下げて一歩横へ退いた。
――グリーンヒル専属剣士隊の元帥だ。そして彼を案内してきたのは、キリーだった。
「もう一度確認しますが……正気ですかな?」
「失礼ね。正気じゃないように見える?」
「キリー? あー……えーっと?」
さすがのウィルでも、元帥相手にタメ口をきく気にはなれない。だがキリーの方は、まるで気にする様子もなかった。
「ウィル=レイト、だったな?」
「は、はい……」
元帥はため息をついた。気が進まない。ひどく気が進まない。だが元帥に、この決定を覆すことなどできはしないのだ。
「守護剣がお前を所持者に選んだ」
「はい……?」
「……やっぱり、やめませんか? 十四歳ですよ? いくらなんでも若すぎます」
やはり気が進まないのか、元帥はキリーに縋るように言う。
「四年経てば十八歳よ。問題ないわ」
きっぱりと言い放つキリーを見て、ウィルはあの日の違和感を思い出した。初めてキリーに会った時に感じた、あの違和感。その正体が今、わかった。
彼女には影がない。地面のどこを探しても、そこにあるはずの影が見当たらないのだ。
「ウィル。これからよろしくね」
キリーが右手を差し出した。反射的にウィルも右手を差し出し、その指先が触れようとした瞬間、キリーの体が白く光り、そして消えた。
「ど、どこに……?」
「ウィル」
リズが自分の手の甲の紋様を見せる。ウィルは自分の手の甲に視線を落とした。
リズと同じ紋様が、そこにあった。
――史上最年少。十四歳の守護剣士の誕生である。




