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I'll  作者: ままはる
第一章
11/114

11.入隊試験⑤

 ウィルは引かれるがまま、リズについて歩く。


「趣味が悪いにもほどがあるわ。あれが第一部隊長だなんて、信じられないよね」


 グラウンドを横切り、資材倉庫の陰にあるベンチまで連れて行かれる。ここなら人目につかない。ウィルを座らせ、その隣にリズも腰を下ろした。


「頑張ったね」

「……っ」


 リズの手がウィルの頭に触れた瞬間、今まで堪えていたものが一気に溢れ出した。


 涙が次から次にこぼれ落ち、嗚咽が漏れる。リズは何も言わず、ただウィルの頭を撫で続けた。


 ――どれくらい泣いていたのか、ウィルにはわからない。思う存分泣くだけ泣くと、急に頭がスッキリとした。そして今度は、突如として恥ずかしさが込み上げてくる。


「あの……ごめんなさい。えと、俺、すげぇカッコ悪い……」

「私はリズ。よろしくね、ウィル」


 ふわりと笑った顔がとても綺麗で、心なしかウィルの顔が赤くなった。


 そう言えばこの女、刀を持っていたはずだ。だが今、ここにそれはない。カストの胸に刺したままだったのだろうか。


「リズ……さん。まさか、剣士じゃないっすよね?」


 気恥ずかしさから、自然と敬語になるウィル。


「そのまさか、だけど」

「嘘だろ……」


 ふと、カストに聞いた話を思い出す。


「十八歳くらいの美人女剣士……」


 強烈に覚えているその特徴。


「……守護剣士?」


 リズは自分の左手の甲をウィルに見せた。そこには青色の紋様が刻まれている。それが一瞬白く光ったかと思うと、次の瞬間にはリズの手に一振りの刀が現れた。ウィルが見た、カストを貫いたあの刀だ。


「これが守護剣? 刀?」

「村雨っていうの。持ってみる?」

「いいんですか?」


 少し笑って、リズは刀をウィルに手渡した。


 が。


「無理無理無理無理!」


 とてもじゃないが、持っていられないほど重い。両手で持ち上げようとしても、地面に落とした刀を拾い上げることさえできない。


「守護剣ってね、所持者以外は重くて持つこともできないの。不思議でしょう」


 ひょいと片手で刀を拾い上げると、リズは再び手の甲の紋章を光らせ、刀を消した。


「便利ですね、それ。重い剣を持ち歩かなくていい」

「まぁね。でも頼りすぎると筋力が落ちちゃうから、気をつけてるのよ。ウィルも守護剣、欲しい?」

「そりゃ、まぁ。でも……」


 正直、今は剣士になりたいとは思えない。アイザックもいない。カストもいない。それにまた、誰かを失うかもしれないと思うと、気持ちが鉛のように沈んでいく。


「――どこまで行くおつもりですか」

「ここよ、ここ。そこのベンチ」


 話し声が近づいてくる。リズは立ち上がり、声の主が現れると頭を下げて一歩横へ退いた。


 ――グリーンヒル専属剣士隊の元帥だ。そして彼を案内してきたのは、キリーだった。


「もう一度確認しますが……正気ですかな?」

「失礼ね。正気じゃないように見える?」

「キリー? あー……えーっと?」


 さすがのウィルでも、元帥相手にタメ口をきく気にはなれない。だがキリーの方は、まるで気にする様子もなかった。


「ウィル=レイト、だったな?」

「は、はい……」


 元帥はため息をついた。気が進まない。ひどく気が進まない。だが元帥に、この決定を覆すことなどできはしないのだ。


「守護剣がお前を所持者に選んだ」

「はい……?」

「……やっぱり、やめませんか? 十四歳ですよ? いくらなんでも若すぎます」


 やはり気が進まないのか、元帥はキリーに縋るように言う。


「四年経てば十八歳よ。問題ないわ」


 きっぱりと言い放つキリーを見て、ウィルはあの日の違和感を思い出した。初めてキリーに会った時に感じた、あの違和感。その正体が今、わかった。


 彼女には影がない。地面のどこを探しても、そこにあるはずの影が見当たらないのだ。


「ウィル。これからよろしくね」


 キリーが右手を差し出した。反射的にウィルも右手を差し出し、その指先が触れようとした瞬間、キリーの体が白く光り、そして消えた。


「ど、どこに……?」

「ウィル」


 リズが自分の手の甲の紋様を見せる。ウィルは自分の手の甲に視線を落とした。


 リズと同じ紋様が、そこにあった。


 ――史上最年少。十四歳の守護剣士の誕生である。

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