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I'll  作者: ままはる
第一章
10/114

10.入隊試験④

 ━━グラウンドの隅。剣士たちに解散しろと追い払われてから、キリーはこっそりと戻ってきていた。物陰から顔だけを覗かせ、グラウンドの様子を窺っている。


「あの人……ウィルと一緒にいた人……」

「キリーの知り合い?」

「うわぁ!?」


 突然背後から声がして、キリーは思わず悲鳴を上げた。


「驚かせてごめんね」

「なんだ、リズちゃんか……」


 キリーの後ろにいたのは、同じ年頃の女だった。白い肌に、紫色に染めた髪を垂らした美しい女だ。


「あの人……寄生虫に寄生されてる。動いて喋ってるけど、もう手遅れね」


 キリーと同じように物陰に隠れながら、リズと呼ばれた女が言った。


「ウィルと同期の練習生よ」

「ウィルって、さっきの男の子?」

「うん」

「そっか……」


 キリーとリズは口を閉ざし、ことの成り行きを見守った。



「しししげん゛……試験、を゛はじめ、ま゛ず」


 カストは握っていた腕を放り捨て、剣を両手で握った。腕の主から奪ったであろう真剣だ。


 武器庫に走った剣士たちは、まだ戻っていない。受験生たちは模造刀しか持っていないが、部隊長たちは真剣を帯剣している。だが第二部隊長と元帥は、まるで何事も起きていないかのような顔で椅子に座り続け、事態を傍観しているばかりだった。


 ブラッドフォードも剣を抜く様子はなく、ライトだけがどうすべきか決めあぐねている。ブラッドフォードが指揮を取ると言った手前、勝手なことはできない。


「一応言っておく。逃げたい者は逃げろ」


 ブラッドフォードの言葉に、数人の足が動いた。そのほとんどが練習生だった。


「カストさん……アイザック……」


 イアンは逃げ出していないものの、その場で泣き崩れている。ウィルもその場に留まったが、まだ理解が追いつかず立ち尽くしているだけだった。


「ブラッドフォード殿。剣士たちが戻るのを待つより、私がやった方が早い」

「それは無論、その通り。だが折角なので、こうしましょう」


 ブラッドフォードは残った受験生たちに告げた。


「あれを倒してみろ」


 カストがこちらに向かって走り出した。異様に速い足で、外部受験生の一人に迫る。


「くっ!」


 躊躇なく振り下ろされた剣を、模造刀で受け止めた。重なり合った剣を弾き返そうと両腕に力を込めるその腕に、首を伸ばしたカストが噛みついた。


「う……うぁぁぁぁ!」


 肉を噛みちぎられ、男は模造刀を投げ捨てて逃げ出した。


「腹、へっだな゛ぁ」


 別の受験生に視線を向ける。剣を無茶苦茶に振り回しながら、不規則な動きで近づいていく。


「こ、こんなの、倒せるわけないだろ!?」


 また何人かが逃げ出した。カストは逃げる者を追う様子はない。


「喉が、かわ゛いだな゛ぁ」


 首をあり得ない角度に曲げて、イアンを見る。戦意を喪失したイアンは、模造刀を握ろうとも、逃げ出そうともしない。


「イアン! お前も逃げろ!」


 咄嗟にウィルが模造刀を構え、イアンとカストの間に滑り込んだ。カストの剣を受け止める。すると先ほどと同じように、腕に噛みつこうと首を伸ばしてきた。だがその胴体を蹴り、間合いを取る。


「ウィル……やめろよ……それ、カストさんだぞ……?」

「っ!」


 カストはまたすぐに剣を振り上げてきた。肩も肘も関節が外れており、切っ先の軌道が読めない。それでも、なんとか剣を受け流す。


「おっちゃん……俺、あんたのお陰で筆記試験受かったんだよ」


 ウィルの首筋に噛みつこうとする横顔を、剣の柄で殴りつけた。


「あんたとアイザックのお陰で、本気で俺、剣士になってもいいって……思ったのに……!」


 カストの脛に模造刀の刀身を叩き込む。ボキンと嫌な音を立てて骨が折れたが、カストの表情は変わらない。


「ブラッドフォード殿! もういいでしょう!? もう見ていられない!」


 剣の柄に手をかけ、ライトが声を上げる。


「この少年なら倒せそうではありませんか。このまま戦わせ――」


 ブラッドフォードが否と告げるより早く――ウィルの視界が突然、紫色に染まった。


「……っ!」


 紫色の、髪だ。ウィルとカストの間に、紫の髪の女が立っている。その手には一振りの刀。刀は真っ直ぐ、カストの心臓を貫いていた。


「リズ……」


 ライトの声に、リズが振り返る。


「たまたま通りかかったんですけど、魔物を発見したので駆逐しました」


 ニコリと笑って言い、その笑顔をブラッドフォードへ向ける。


「何かの訓練だったのならすみません。私は何も指示を聞いていなかったもので」

「……もういい。下がれ」

「おいで」


 リズはウィルの手を取り、その場を離れた。

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