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I'll  作者: ままはる
第一章
11/12

入隊試験⑤

ウィルは引かれるがまま、リズに付いて歩く。


「趣味が悪いにもほどがあるわ。あれが第一部隊長だなんて、信じられないよね」


グラウンドを横切り、資材倉庫の陰にあるベンチまで連れて行く。ここなら人目につかない。

ウィルを座らせて、その隣にリズも座った。


「頑張ったね」

「……っ」


リズの手がウィルの頭に触れると、今まで堪えていたものが一気に溢れ出した。

涙が次から次にこぼれ落ち、嗚咽が漏れる。

リズは何も言わず、ただウィルの頭を撫で続けた。


━━どれくらい泣いていたのか、ウィルはわからなかった。思う存分泣くだけ泣いたら、急にスッキリした。そして、突如として恥ずかしさが込み上げてきた。


「あの……ごめんなさい。えと、俺、すげぇカッコ悪い……」

「私はリズ。よろしくね、ウィル」


ふわりと笑った顔がとても綺麗で、心無しかウィルの顔が赤くなる。

そう言えばこの女、刀を持っていたはず。しかし今ここに、それは無い。カストの胸に刺したままだったのだろうか。


「リズ……さん。まさか剣士じゃないっすよね?」


気恥ずかしさから、自然と敬語になるウィル。


「そのまさか、だけど」

「嘘だろ……」


ふと、カストに聞いた話を思い出した。


「十八歳くらいの美人女剣士……」


強烈に覚えているその特徴。


「……守護剣士?」


リズは自分の右手の甲をウィルに見せた。そこには青色の紋様が刻まれている。それが一瞬白く光ったかと思えば次の瞬間、リズの手に一振りの刀が姿を現した。

ウィルが見た、カストを貫いた刀である。


「これが守護剣? 刀?」

「私の守護剣はね。村雨っていうの。持ってみる?」

「いいんですか?」


少し笑ってリズは刀をウィルに手渡した。

が。


「無理無理無理無理!」


とてもじゃないが、持っていられないほど重い。

ウィルが両手で持ち上げても、地面に落ちた刀を拾い上げることが出来ない。


「守護剣て、所持者以外は持つことも出来ないの。不思議よね」


ひょいと刀を拾うと、また手の甲の紋章を光らせて刀を消した。


「便利ですね、それ。重い剣を持ち歩く必要がなくて」

「まぁね。でも頼りすぎると筋力が落ちちゃうから、気をつけているのよ。ウィルも守護剣、欲しい?」

「そりゃ、まぁ。でも……」


正直、今は剣士になりたいとは思えない。

アイザックもいない。カストもいない。それにまた、誰かを失うかもしれないと思うと、気持ちが鉛のように沈む。


「どこまで行くおつもりですか」

「ここよ、ここ。そこのベンチ」


話し声が近付いてきた。

リズは立ち上がり、その声の主が現れると、頭を下げて一歩横に退いた。

━━グリーンヒル専属剣士隊の元帥。そして彼を案内してきたのは、キリー。


「もう一度確認しますが……正気ですかな?」

「失礼ね。正気じゃないように見える?」

「キリー? あー……えーっと?」


さすがのウィルでも、元帥相手にタメ口をきく気にはなれない。しかしキリーには全く気にする様子はなかった。


「ウィル=レイト、だったな?」

「は、はい……」


元帥はため息をつく。

気が進まない。酷く気が進まない。

しかし元帥には、この決定を覆すことなどできないのだ。


「守護剣がお前を所持者に選んだ」

「はい……?」

「……やっぱり、やめませんか? 十二歳ですよ、まだ子供ではありませんか」


やはり気が進まなくて、元帥はキリーに縋るように言う。


「五年経てば十七歳よ。問題ないわ」


キッパリと言い放つキリーを見て、ウィルはあの日の違和感を思い出した。

初めてキリーに会った時に感じた違和感。その正体が今わかった。

彼女には━━影が無い。地面のどこを探しても、そこにあるはずの影が見当たらないのだ。


「ウィル。これからよろしくね」


キリーが右手を差し出した。反射的にウィルも右手を差し出し、その指先が触れようとしたその瞬間、キリーの体が白く光り、そして消えた。


「ど、どこに……?」

「ウィル」


リズが自分の手の甲の紋様を見せる。ウィルは自分の手の甲に視線を落とした。

リズと同じ紋様が、そこにはあった。


━━史上最年少。十二歳の守護剣士の誕生である。

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