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I'll  作者: ままはる
第一章
10/11

入隊試験④

━━グラウンドの隅。剣士たちに解散しろと追い払われてから、キリーはコッソリと戻ってきていた。

物陰から顔だけを覗かせて、グラウンドの様子を窺っている。


「あの人……ウィルと一緒にいた人……」

「キリーの知り合い?」

「うわぁ!?」


突然背後から声がして、思わずキリーは悲鳴を上げた。


「驚かせてごめんね」

「なんだ、リズちゃんか……」


キリーの後ろにいたのは、同じ年頃の女だった。

白い肌に紫の髪を垂らした、美しい女だ。


「あの人……寄生虫に寄生されてる。動いて喋っているけど、もう手遅れね」


キリーと同じように物陰に隠れながら、リズと呼ばれた女が言う。


「ウィルと同期の練習生よ」

「ウィルって、さっきの小さな男の子?」

「うん」

「そっか……」


キリーとリズは口を閉ざし、ことの成り行きを見守った。


⭐︎


「しししげん゛……試験、を゛はじめ、ま゛ず」


カストは握っていた腕を放り捨て、剣を両手で握った。脚の主から奪ったであろう、真剣である。

武器庫に行った剣士たちは、まだ戻っていない。

受験生たちは模造刀しか持っていないが、部隊長たちは真剣を帯剣している。

だが第二部隊長と元帥は、まるで何事も起きていないかのような顔で椅子に座り、この事態を傍観しているばかり。

ブラッドフォードも剣を抜く様子は無く、ライトだけがどうするべきか決めあぐねている。しかしブラッドフォードが指揮を取ると言っていた手前、勝手なことは出来ない。


「一応言っておく。逃げたい者は逃げろ」


ブラッドフォードの言葉に、数人の足が動いた。そのほとんどが、練習生である。


「カストさん……アイザック……」


イアンは逃げ出していないものの、その場で泣き崩れている。

ウィルもその場に留まったが、まだ理解が追い付かず立ち尽くしているだけ。


「ブラッドフォード殿。剣士たちが戻るのを待つよりも、私がやった方が早い」

「それは無論、その通り。だが、折角なのでこうしましょう」


ブラッドフォードは残った受験生たちに告げる。


「あれを倒してみろ」


カストがこちらに向かって走り出した。

異様に早い足で、外部受験生のひとりの前に迫る。


「くっ!」


躊躇いなく振り下ろされた剣を、模造刀で受け止めた。

重なり合った剣を弾き返そうと、両腕に力を込める。その腕に、首を伸ばしたカストが噛みついた。


「う……うぁぁぁぁ!」


肉を噛みちぎられ、男は模造刀を投げ捨てて逃げ出す。


「腹、へっだな゛ぁ」


別の受験生に視線を向けた。

剣を無茶苦茶に振り回しながら、不規則な動きで近づいてくる。


「こ、こんなの、倒せるわけないだろ!?」


また何人かが逃げ出した。

カストは逃げる者を追う様子はない。


「喉が、かわ゛いだな゛ぁ」


首をあり得ない角度で曲げて、イアンを見る。

戦意を喪失しているイアンは、模造刀を握ろうとも、逃げ出そうともしない。


「イアン! お前も逃げろ!」


咄嗟にウィルが模造刀を構え、イアンとカストの間に滑り込んだ。

カストの剣を受け止める。すると先ほどのように、腕に噛みつこうと首を伸ばしてきた。だがその胴体を足で蹴り、間合いを取る。


「ウィル……やめろよ……それ、カストさんだぞ……?」

「っ!」


カストはまたすぐに剣を振り上げてきた。肩も肘も関節が外れており、切先の軌道が読めない。

それでもなんとか剣を受け流す。


「おっちゃん……俺、あんたのお陰で、筆記試験受かったんだよ」


ウィルの首筋に噛みつこうとする横顔を、剣の柄で殴打する。


「あんたとアイザックのお陰で、本気で俺、剣士になってもいいって……思ったのに」


カストの足の脛に模造刀の刀身を叩き込んだ。ボキンと嫌な音を立てて骨が折れたが、カストの表情は変わらない。


「ブラッドフォード殿! もういいでしょう!? もう見ていられない!」


剣の柄に手をかけて、ライトが声を上げる。


「この少年なら倒せそうではありませんか。このまま戦わせ……」


ブラッドフォードが否を告げるより早く━━

ウィルの視界が突然、紫色になった。


「……っ!」


紫色の、髪だ。

ウィルとカストの間に、紫の髪の女が立っている。

その手には一振りの刀。その刀は、真っ直ぐにカストの心臓を貫いていた。


「リズ……」


ライトの声に、リズが振り返る。


「たまたま通りかかったんですけど、魔物を発見したので駆逐しました」


ニコリと笑って言い、その笑顔をブラッドフォードに向ける。


「何かの訓練だったならすみません。私は何も指示を聞いていなかったもので」

「……もう良い。下がれ」

「おいで」


リズはウィルの手を取って、その場を離れた。


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