表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/23

11時間目 オレが…こいつを変えたんだよな……

 それからあっという間に三日。

 ようやくナギがやる気になったこともあり、イベントの準備は急ピッチで進められた。

 ナギやイベント関係者は、あっちに行ったりこっちに行ったりと大わらわ。不足の事態に備えて、できるだけスケジュールを巻きたいらしく、それこそ血反吐を吐きそうな目まぐるしさで働いていた。

 そうやってピリピリとした慌ただしさで駆け回る彼らには非常に言いにくいのだが、自分はというとこれでいいのかと思うくらい穏やかな日々を過ごしている。

 自分とナギを創立祭の準備から外すことは、なんとレードル自らがクラスにお触れを出した。理事長直々のお触れとあっては誰も逆らうことなどできず、その情報は瞬く間に全校に広まっていき、おかげで自分を取っ捕まえにこようとする生徒は今やゼロである。

 とはいえ、自分の仕事はあくまでもナギのコントロールだけ。最初はもう少し手こずるかと思っていたその仕事も、蓋を開けてみればそんなことはなかった。

 ご褒美が相当嬉しかったのか、ナギは自分が同じ空間内にいるだけで面白いくらいにきびきびと動く。誰もが別人ではないかと目を瞠るレベルだ。

 なので、自分が特別働きかける必要が全くの皆無。

 正直、くそがつくくらい暇なのである。

 半日でそれを理解したので、暇な時間にイベントの資料は全部読破させてもらった。余計な世話かと思いはしたが、自主的に会場設営を手伝ったり、打ち合わせで差し障りがない程度の発言をさせてもらっている。

 周りの反応を見る限りでは、特に邪魔になっているわけではないはずだ。昨日なんてナギにあらかじめ読ませておいてほしい資料を託されたので、逆に頼りにされ始めているのではないかと思う。

 創立祭まであと四日。この調子でいけば平和そのもののはずだ。

「……大丈夫ですって。そこまで心配しないでも、粗相のないように首絞めときますよ。それじゃ、失礼します。」

 今日何度目かも分からない電話に応え、ユキは辟易とした表情で携帯電話を下ろす。

「またジェイドさん?」

「そう。お前が相手に失礼をしないよう、しっかり見張ってくれとさ。ほんとに心配性なんだから。」

 実はこれからゲスト出演者の一人と打ち合わせ予定なのだが、いつもは同伴するジェイドが今回はおらず、自分とナギの二人だけで特攻することになってしまったのだ。

 理由はイベントの総指揮を採るジェイドがどうしても席を外せないことが一つ。

 そして、件のゲストが打ち合わせには自分とナギの二人だけでいいと言ったからだ。

 ジェイドはわりと自分を厚く信頼してくれているっぽいのだが、それでもナギの自由奔放ぶりの方が心配でならないのだろう。

 まあ、今回の打ち合わせに関してだけは、心配無用だと断言できるのだが。

「さてと。さっさと行くぞ。」

 ポケットに携帯電話をしまったユキは廊下を進む。

「ねぇ、ユキ。」

 ユキの後ろについていくナギがふと口を開いた。

「なんかさ、最近機嫌いいよね。」

「んー? そうか?」

 別にそんなことはないと思うのだが。

 これといって思い当たる節がないユキはそんな風に生返事をするが、ナギは迷わずに首を縦に振った。

「うん。特に打ち合わせの時とか、すっごく生き生きしてない?」

「え、面白くないか? 普段聞けない話、いっぱい聞けるんだぜ?」

 ユキはきょとんとしてナギを振り返った。

 断りようがなかったので引き受けた仕事だったが、今は素直にレードルに感謝している。

 ナギのアシスタントとはいえ、自分はイベント本番に参加するわけではない。

 なので、ゲストを含めた打ち合わせには参加できないと踏んでいたのだが、ナギがゲストに失礼なことを言わないように見張れと打ち合わせに放り込まれたのだ。

 おかげで雲の上の存在のような方々と直接顔を合わせることができたし、彼らの話を聞くのは非常に有意義で面白かった。時間が許すなら、彼らの講演会に全部出席したいくらいだ。

「ええー、俺はつまんないよー。経済成長とか、顧客第一とか、どうでもいいもーん。」

 ナギは心底不服そうだ。

「だからお前は、ああいった人たちに気に食わないと思われんだよ。」

 ユキは深々と溜め息をつく。

 昨日までに四人のゲストと打ち合わせをしたのだが、彼らには面白いくらいに共通した二つの思考があった。

 一つは、天才と囃し立てられているナギが気に入らないという点だ。

 天の才能に頼らず地道な努力で道を切り開いてきた彼らは、なんの努力もなしに成功を収めることなど不可能と確信していた。故に、絶対と謳われるナギの能力に疑問を抱いているようだったのである。

 しかし、そこはあのナギだ。打ち合わせ開始時になってようやく資料を読み始め、打ち合わせ終了時にはきっちり全部を暗記してしまった彼を前にしては、ゲストの方々もその能力を認めざるを得なかったようだ。

 だからか余計に、努力のどの字も知らないようなナギの態度は、ゲストの不快感をいたく刺激していたように見えた。最低限失礼に当たる言葉は禁止しておいたので表立って揉めることはなかったものの、態度までは自分も完全に操作はできない。経験豊富な彼らは、きっとナギが自分たちの話に興味がないことなどお見通しなはずだ。

 そして、もう一つの共通点。

 それは彼らが総じて、ユリア高校やセントラル大学に否定的であるということだ。

 議員・閣僚たちの出身がセントラル大学に偏りすぎていること。そしてセントラル大学の学生の六割以上がユリア高校の卒業生であること。

それはつまり、国家的な依怙贔屓なのではないか。血の滲むような努力をしている他の子供たちの未来を、国家が潰しているのではないか。

 それが彼らの言い分だった。

 いやはや、まったくもってその通り。実際に生徒が権力者たちばかりという内情を知っている手前、彼らがそう思うのは当然だと思った。

 ただ、彼らが勘違いしている点が一つ。

 それはひとえに、ユリア高校の成績評価においては一切の贔屓がないということだ。

 毎年何人の生徒が成績不振による退学を言い渡されていることだろう。その中には、有名な大御所の孫や子供も含まれている。むしろ雑草根性で突き進んだ庶民組は、ほとんど退学処分を受けていないのが実情なのだ。

 とはいえ、彼らにもユリア高校やセントラル大学の恩恵にあずからずに成功したプライドがある。学校関係者が懇切丁寧に弁明したところで、ちょっとやそっとじゃ認めないだろう。

 これがある側面から見たこの高校の評価。

それはそれとして、きちんと受け止めるべきだ。

 ……と、素直にそう思ったのがもろに顔に出ていたらしい。

『君は、自分がいる学校を否定されても動じないのだね?』

 とある打ち合わせで問いかけられ、突然話の矢面に引きずり出された時は肝が冷えた。

 まさかナギとユリア高校に敵意を持った雲の上の方々が、自分などを見ているとは思わないじゃないか。

『まあ、ユキも高校はともかく、セントラル大学の入試制度は気に入ってない感じだもんねー。なんか、この人と言ってることそっくりー。』

 動揺から立ち直る前に、ナギが余計な一言をあっさりと。

 それで本格的に興味を持たれてしまい、ずるずると自分が片親であることだったり、特待生試験を突破してここに通う庶民であることを吐かされてしまった。

 そしてその情報は瞬く間に他のゲストへと流され、ひどい時は打ち合わせの大半の時間を自分への質問攻めで使われる羽目になったことも。

 ナギやユリアが嫌いならそれでいいじゃないか。

 何故イベントへの出演を引き受けたのだ。

 余計なことを言うなという関係者。

素直にこの高校の粗を吐けというゲスト。

双方の圧力に挟まれ、何度会議室から逃げたい衝動に駆られたことか。

 まあそんな心臓に悪い経験も、今は世の中を引っ張る大物と触れ合えた貴重な経験だと思うことにしている。

 そしてそんな苦い経験があったからこそ、今から向かう打ち合わせの相手を考えるとなんと気楽なことか。

「失礼しまーす。」

 ノックをして打ち合わせの場所に指定された部屋のドアを開けると。

「ユッキー‼」

 ……これはまたお熱い歓迎で。

 部屋の中に入ってきたユキは、瞬く間に白衣を来た人々に囲まれてしまった。

「うわ、噂どおりバッサリ!」

「おおおー、前に会った時と全然違うなー!」

 髪を切ったユキの姿にわいわいとはしゃいでいた彼らは、ハッとして表情を一転させる。

「じゃない、じゃない! それは後! 助けて!」

「さっきから教授が全然動かないの!」

「また充電切れてんですか……はい、どうぞ。」

 ユキが差し出したのは、ずっと手に持っていたトートバッグ。

「ありがとう! さすがユッキー‼」

 ユキの手からトートバッグをひったくっていった彼女は、すぐさまそれを部屋の隅にあるシンクへと運んでいった。

 それからしばらく。

「うまー♪ 生き返ったよー。ありがとね、ユッキー。」

 ユキお手製のアップルパイを口に運びながら、ダニーは幸せそうに頬をほころばせた。

「それはどうも。あと、ユッキーはやめてくださいって何度も言ってるじゃないですか…。」

「ユッキーはユッキーでしょ?」

「恥ずかしいんですよ、その呼び方…」

「えー、いいじゃない。私はユッキーって呼び方好きだけどなー。」

 複雑な表情で微かに顔を赤くするユキの前に紅茶を置きながら、活発そうな雰囲気の女性が軽やかに笑う。

 彼女の名はリディ。現在セントラル大学経済学部の修士課程一年生で、数少ないダニー助手を勤めている強者である。

「はい、どうぞー。……って、ユキ君が持ってきてくれたやつだけど。私たちの分までありがとね。」

 彼女の後ろにあるテーブルでは、他の人々がダニーと同じようにアップルパイを頬張っているところだった。

「いい差し入れになったならよかったです。」

「当たり前じゃない。今日ユッキーが来るって聞いて、あいつらこれ目当てに待ってたようなもんよ。」

「ははは…。お気に召してもらえたなら何より。ほらよ。」

 リディからアップルパイが乗った皿を受け取り、ユキはそれを隣のナギに渡す。

「なんか甘い匂いするなって思ったら、正体はこれだったんだ。いつの間にこんなの作ってたの?」

 ぱちくりと瞼を叩いてアップルパイを見下ろすナギ。

「昨日、ちょくちょく準備から抜けさせてもらってただろ。そん時から仕込み始めてた。」

「ふーん。それにしても、結構大量に焼いたね。どのくらい用意したの?」

「五ホール。」

「そんなに?」

 ユキの答えを聞いたナギが思い切り目を見開いた。

「教授がどのくらい食うか分からなかったからな。多めに作っておいて損はないんだよ。」

 ユキは大きく息を吐き、ホールごとアップルパイを食べ進めるダニーに目をやった。

 見てのとおり、ダニーは無類の甘いもの好き。彼とまともに話をしたいなら、スイーツなくしては不可能というほどだ。

 研究や執筆に没頭すればするほど甘いものしか受けつけなくので、先ほどのように空腹で動かなくなることもしばしば。

 しかも、ただ甘いものを与えればいいというわけじゃないから困る。

〈今の教授の気分は、レーズン入りでシナモンがきつめのアップルパイらしいのでよろしく! ついでにメープルシロップとホイップクリームもセットで!〉

 一昨日もらったリディからのメールの内容がこれだ。おかげで閉店間際のスーパーに駆け込んで材料を買い漁り、調理室のオーブンをフル稼働させることになったじゃないか。

 まったく、そういう細かい指定があるのなら、専任のパティシエでも雇えばいいものを。

「教授…あんまり偏食が過ぎるのも体によくないですよ。倒れた時に誰にも見つけてもらえなかったらどうするんですか。」

「大丈夫ー。」

 何度目かも分からない苦言を呈するも、ダニーには全然響いていない様子。

「来年からはユッキーもいるし、倒れることも減るんじゃないかなぁ?」

 このお方は何を言っているんだか。

 ユキは苦虫を噛み潰したかのように渋い顔をするしかない。

「オレを今から研究室の頭数に入れないでくださいよ。」

「だってユッキー、どうせ経済来るでしょ?」

「そりゃあ……まあ…」

「だったら平気平気。多分リディが逃がさないもん。」

「うん。逃がさない♪」

 すかさずリディがお茶目な仕草でダニーの言葉を肯定する。

 ユキはさらに顔をしかめた。

「オレをなんだと思って…」

「教授の便利屋♪」

「またえげつない言い方を…」

 とうとうユキが眉間を押さえて項垂れる。

 これだから、ダニーの研究室とはある程度距離を置いているのだ。数回片づけを手伝っただけなのに、すでにここまでロックオンされている状況。もし彼女たちの誘いを受けるまま研究室に通っていたとしたら、今頃何をさせられていたことやら。

「……ああ、ナギ。ここはいつもこんな感じだから、お前も適当にくつろいどけ。」

 一人状況に追いつけていないナギが目をしばたたかせていることに気づいたユキはそう言うと、自分の言葉を体現するようにソファーに深く背中を預けた。

「え…?」

 昨日の打ち合わせまでとはまるで態度が違うユキに、ナギが困惑顔で固まってしまう。

 ユキはひらひらと手を振る。

「いいんだって。どうせ今日はこれを届けに来ただけなんだ。打ち合わせなんて、最初っからする気もないよ。」

 その口から飛び出したのは驚きの言葉。

「え? ……ええっ?」

 ナギかおろおろとし始める。

 そんなナギを見つめて、早くも一皿目のアップルパイを胃に収めたダニーが不思議そうに眼鏡の奥の瞳を丸くした。

「あれ? ユッキー、何も言ってないの?」

「わざわざ言わなくても、昨日渡した資料に目を通してくれてりゃ、ある程度は察してもらえたはずなんですけどねー。」

 ダニーの質問に答えつつ、ユキは呆れた溜め息を一つ。

 今年のイベントに参加するゲストの中で、セントラル大学関係者はこのダニーだけだ。友情出演でイベントへの参加が定着しているのもあるが、彼の講演はとにかく評判がいい。最早ゲストから外すことができなかったのである。

 ならば、もう勝手知ったるイベントだし、今さら大袈裟な打ち合わせも要らないだろう。

 実は契約書にサインをしたその日の内に、ダニーにそう打診してあったのだ。

 彼の答えは案の定のイエス。なので彼との打ち合わせは、あらかじめメールで資料のやり取りをしてさくっと終わらせておいた。

昨日ナギに渡した資料は、彼との打ち合わせ内容をまとめたもの。あれさえ読んでおけば当日は困らないというマニュアルだ。

 今日の打ち合わせが自分とナギの二人だけの参加になったのも手はずの内。先んじてジェイドの予定をダニーに流しておき、ジェイドが絶対に席を外せない時に打ち合わせ時間を指定してもらったのだ。

 だって打ち合わせなんてとっくに終わっているのだから、ジェイドの同伴など不要じゃないか。あれだけ心配していたジェイドにはナギに渡してたマニュアルを提出すれば、その心配などどこかへ飛んでいくだろう。

「ええ……じゃあ、なんで今日ここに来たの?」

 ひととおり種明かしをすると、ナギは未だにピンときていない様子で首を傾げた。

「休憩時間の確保。」

 ユキは端的に結論を述べる。

 そして次に、ユキは勢いよくナギの頭を片手で掴んだ。

「お前な、やる気になるのはいいことだけど、もう少しバランスよく動け。なんでもかんでもできるって言って余計な仕事引き受けやがって。ゼロか百でしか動けんのか? ええ?」

「いてててて! なんで俺、急に怒られてるの⁉」

 突然こめかみ辺りを痛いくらいに圧迫され、ナギが目を白黒させる。

「ユッキー…それじゃあ、意図が何も伝わらないよ。」

 二皿目のアップルパイに手をかけながら、ダニーが苦笑いをする。

「つまりね、君のことを休ませてあげたかってこと。」

「俺のこと…?」

 訊ねるナギに、ダニーはこくりと頷く。

「このままだと頑張りすぎた君がガス欠を起こすから、僕との打ち合わせ時間は君を休ませてあげる時間にしてもらえないか。それがユッキーの相談だったんだよ。僕の研究室なら他の人の目もないし、ゆっくりくつろげるでしょ? 僕が引き留めたってことにすれば、ちょっと多めに時間を取っても怒られることもないし、不自然でもないしね。いやぁ、おかげで楽チン楽チン。わざわざユリアに出向く必要もないし、ユッキーのお菓子も食べられるし、ついでに打ち合わせもかなり楽に済んだし~。まだ読んでないなら、帰ってからユッキーの資料見るといいよ。すごく分かりやすいから。」

「……ユキ、ほんと?」

 ダニーの解説を受けたナギが、驚きを隠せない様子でそろそろとユキを見る。

「別に。オレは理事長から振られた仕事をこなしてるだけだ。準備でバテて本番で使えないんじゃ本末転倒だろうが。」

 そんな風に、ものすごく感動してますみたいな顔されても…

 気恥ずかしさから、つい反射でそんなことを言ってしまうユキだったが。

「素直じゃないなぁ。心配だったって言えばいいのに。」

 ダニーの一言が全てを台無しにしてしまった。

「ナギ君。いい友達ができてよかったね。」

 ナギの視線から逃げるように顔を背けるユキに微笑みつつ、ダニーは穏やかな口調でナギにそう語りかけた。

「ユッキーは仕事だーなんて言うけどね、この休憩時間を作るために打ち合わせを水面下で終わらせておくなんて、そうそうできることじゃないよ。周りを見て先を読んで、そして何より君を見ていないと。」

「俺を…」

「そう。だからね、ユッキーのこと大事にしなよ? 君の目、去年までとは全然違っていいものになってるように思う。それってきっと、ユッキーと友達になれたからでしょ? 自分を成長させてくれる友達なんてなかなか見つかるもんじゃないから、せめてユッキーくらいはないがしろにしないようにね。」

 ユキは複雑な心境でダニーの言葉を聞くしかなかった。

(いい目になってる、か…)

 ダニーの言葉に真剣に耳を傾けているナギ。

きらきらと輝くその目は、確かに悪いものではないのだろうと思う。

 口ぶりから察するに、ダニーとナギは何度も顔を合わせ、時には言葉も交わす間柄だったのだろう。

 そんなダニーの目からも、ナギは去年までと明らかに違って見えているのだ。

 そして彼は迷わずに、それはナギが自分と友達になれたからだと言った。

(オレが…こいつを変えたんだよな……)

 改めてその現実を噛み締める。

 それは当たり前のように自覚していて、幼なじみであるトモの目からも明らかなことで。

 今さらどうと思うことでもないはずなのに。

 

 ―――なんだか、この現実を妙に重たく感じてしまう。

 

「………」

 ユキは黙ってティーカップに手を伸ばすと、その中身を一気に飲み干した。

 そうすることで、胸にわだかまるこの不快感を洗い流してしまいたかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ