第十九話 5章エピローグ
文化祭は盛況だった。
視界は人で溢れ、隙間もない。
清条ヶ峰のネームバリューもあるのだろうが、とても学園祭と思えない大成功ぶりだ。
「ほんとすごいねー。目がまわってきちゃう」
すっかり回復したフリーネの発言に、和也は苦笑した。
「今更だなぁ。最初からずっとこんな感じじゃないか」
「だって朝から楽しかったんだもん。周りなんてほとんど見てなかったもん」
「はは、フリーネさんらしいね」
「あー笑ったなぁ!」
フリーネは頭をぐりぐりと和也に押し付けた。
「これからどうする?」
「あたしはお化け屋敷にいきたいなー。皆はどう?」
彼女が子ども達を見渡すと、全員笑顔で頷いた。
フリーネに影響されているのか、怖いもの知らずらしい。
和也がこのくらいの年だった時は、お化けはとても怖かった。
(確かここのお化け屋敷って本物も混じっているんだっけ)
三年E組の先輩が数人、参加していると聞いている。
先程前を通り過ぎた際は、外まで悲鳴が届き、大行列ができていた。
まるで本物みたいだった、と言う感想も聞こえていたが、本当に本物だから怖いに決まっている。
しかも飛び入りで他の妖怪生徒も加わったらしく、恐怖にも磨きがかかっている模様だ。
妖怪様様である。
「ねーねー、お姉ちゃん。向こうのマジックショーも見に行こうよ」
「いいね! お姉ちゃんもさっき見に行ったけど面白かったよ!」
少女がフリーネの袖を引っ張った。
マジックショーとは異能者によるパフォーマンスのことだ。
タネがさっぱり分からない、と評判になっている。
本物の超能力なのだから、タネも何もない。
妖怪も異能者の、人間の祭りに自然な形で混ざっている。
多くの人々は異形がいること自体知らない。
それが良いことなのか悪いことは別として、こんな風に、当たり前のように馴染めるのは素晴らしいことだ。
和也のような存在でさえ、受け容れられる土壌がある。
それだけで、体が軽くなる気分だ。
楓みたいな特殊例も、きっと近いうちに溶け込めるはずだ。
(そういえば、立花さんは今どうしてるんだろう。朝から会ってないけど)
ふと和也は思った。
開会式を堂々とこなした姿以来、楓の姿を見ていない。
あれだけ頑張っていれば、余計なお世話かもしれないが、入学当初の楓を知っているだけに、不安がある。
そんな保護者のような気持ちになりかけている和也の視界に、辺りを右往左往する男の子が目に入った。
行き交う人にぶつかりそうになりながらも、不安そうに周囲を窺っている。
おそらくは迷子だ。
こんな大勢が集まるイベントでは、うっかり家族とはぐれてしまってもおかしくはない。
和也は人混みの間を通り抜け、少年に声を掛けようとした。
しかし口を開いただけで、声が出ることはなく、そのままの形で固まってしまった。
「君、大丈夫?」
和也の前に、楓が少年に話しかけていた。
不安を煽らないように、膝を折って視線を合わせ、柔らかな口調だった。
表情もどことなく優しげだ。
「……ううん、お母さんと来たんだけど、お母さんがいないの」
「大丈夫。お姉さんも一緒に探してあげるから。お名前は何て言うの?」
「かずや」
「かずや君。格好いい名前だね」
「ほんとに? 別に普通だと思う」
「世界で一番格好いいよ。私が保障する」
楓はそう言って、少年の手を握った。
そして少年を連れて、母親を探し始めた。
母親も子どもがいなくなって探しているだろうから、別の場所に移動していなければ、付近にいる可能性が高いのは明らかだ。
「どうしたのカズくん?」
「ちょっと待ってて。すぐ終わるから」
和也は神経を研ぎ澄ませ、音を探り、目で一人ひとりを追った。
すぐにお目当ての人物は見つかった。
慌てた素振りであちこち走り回っていたから、容易に発見することができた。
少年のいた場所とは真逆の方向だ、五○メートルは遠くにいる。
どちらかというと、和也に近いところだ。
人混みに攫われて、あれよあれよという間に、離れていってしまったのだろう。
素早く人の群れを抜け、母親と思しき人物と接触する。
「向こうで、お子さんを見ましたよ」
「それほんとでしょうね! 一哉は無事なの?」
「はい。うちの学生に保護されてるので、大丈夫だと思いますよ」
和也が言い終わる前に、女性は走って行った。
付いていったほうが無難かもしれないが、子の名前を叫びながら近づいていっているので、助けは逆に邪魔になりそうだと思った。
実際、親子は流星の速度で合流していた。
そしてほっとしたのか、微妙に真顔が崩れている少女を見た。
首に手を当て、和也は頬を緩ませた。
「何見てんのカズくん」
「いや、何でもないよ。皆は焼き鳥食べる? 今から買いに行こうと思ってたんだけど」
「うんっ、食べる!」
フリーネと子ども達に視線を戻し、明るい口調で言った。
「全部俺が奢るから。好きなだけ頼んでいいよ」
「おお! 太っ腹!」
晴れ晴れとした笑顔で、フリーネは言った。
ただで食物にありつけるから、と大喜びだ。
和也は財布を手で弄びながら、焼き鳥屋に向かった。
無一文になったのは、言うまでもない。
5章はこれで終わりですが、すぐに5章の裏編に繋がります
再来週には更新する予定です




