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アフターヒーロー  作者: 望月
第三章 帰還した勇者と紅蓮のドラゴン 前篇
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第六話 魔王は闘志を燃やす

「ふむ。不躾な雑魚共の駆除は完了したようだ。いいぞ、帰宅しても」

「……ご配慮どうも」


 あれから数十分経ち、テレビの大画面に映された大殺戮劇を鑑賞した。

 テレビでも見てけと言われて、深く考えもせず眺めていたら、突然始まる一方的な殲滅戦。

 今更グロテスクな死体で吐きはしないが、あまりいい気分はしない。

 クルミもクルミで、さらっと皆殺しを命じるあたり、実に魔王らしい。

 彼女が求めているのは有能な人材で、無能はいらないという事だ。

 見知った先輩や知らない少女もいたが、やはり上位妖怪は相当強力な力を誇る。

 異能者も優れた能力で、実用性もあった。

 何でもかんでも劣化する和也とは大違いだ。


「にしても、君がスカウトした人達は強いな」

「当然だ。私が直々に勧誘した奴らだからな。あの程度では話にならん」

「あんなに頼りになるなら、俺なんて要らなかったんじゃないか?」

「そうでもないぞ。勇者の肩書きは貴様にしかない。勇者の名があれば、仕事は遥かにやりやすくなっただろうよ」


 気怠そうに答えるクルミ。

 そう言う割に、深刻さは感じられなかった。

 代わりは利かなくても、必要不可欠ではないと云ったところだろう、と推測する。

 より話し込んで、詳しい事を訊きだしてもいいが、これ以上和也に関する内容が出てきそうもない。

 時間的に夕食も作らないといけないし、そろそろ潮時だ。


「じゃあ、俺は帰るよ。ごめんね、せっかくのいい話だったのに」

「謝るぐらいなら最初から話を受けておけ阿呆。自給七五○円のバイトよりも、破格の待遇だぞ」

「はは、それもそうか。あ、でも自給七七○円なんだけどね一応。夏休みからはバイトも増やすから、そっちを頑張るよ」

「ふん、五十歩百歩だろうが」


 相変わらずの態度で、鼻で笑う。

 月収五千万と比べれば、雀の涙に等しい収入だが、ここ最近は切羽詰まってないから、バイト代でも充分過ぎる程だ。

 不機嫌気味になっていたクルミだが、和也を見据えると、何故か神妙な顔つきなる。


「……最後に一ついいか? 個人的な質問になるが」

「いいけど、どうかした?」


 了承すると、クルミは間髪入れずに堂々と和也に尋ねた。


「貴様、どうやって先代を殺した? いや答えたくないなら構わないのだが」

「仲間と一緒に戦って、何とか……って感じかな。悪いけど特に話になりそうなのはないよ」

「……そうか、ならいい。止めて悪かったな」


 彼女にしては珍しく、相手に気を遣っている口調だ。

 和也への配慮なのかもしれないが、急にそんな殊勝な態度になられると、逆に困ってしまう。

 何だか悪い事をしてしまったような気がして、頬を掻く。

 

「……力になれなくごめんよ」

「気にするな。個人的な質問だ。玄関までは使用人に案内させてやるから、用のない部屋に入るなよ」

「分かってる。じゃあまた明日」


 そう言って重厚な扉を傷つけないように、ゆっくりと開けて、部屋を出た。

 そして先ほど金を運んできた半透明の男性に連れられ、館の外へ案内される。

 見れば分かるが、彼は幽霊だ。

 もしくは、足元のない半透明の妖怪だ。

 話すと意外にも気さくに返してくれるのだが、向かい側がしっかり見えてしまうぐらい透けてしまっているので、何とも微妙な気分だ。

 妖怪もいるのだから、幽霊がいてもおかしくないのだろう。

 そう自分を納得させて、玄関に向かって行った。


 クルミは和也が館から出ていくのを、窓から確認すると、勢いよくソファーに座り込む。

 温かな紅茶が淹れられたカップを手にしていると、扉の開く音が耳に届く。

 入室したのは、額を汗で濡らす細身の青年だ。

 黒の和服を着用し、ヘッドフォンを首に掛けている。

 青年を一瞥すると、

 

「サトリ。奴の心は読めたか?」

「……いえ。申し訳ございません。力は作用していたようですが、霧が懸ったかのように隠れてしまっていて、正常に読み取れませんでした」

「構わん。完全に無効化されていないと判っただけでも収穫だ。だが流石に奴も違和感は覚えたようだな。貴様の存在にも気づいていた」


 上位妖怪。(サトリ)

 人の考えている事を言い当て、驚く様を楽しむといういたずら好きの妖怪だ。

 端的に言えば、人の心を読む能力を持つ。

 彼は清条ヶ峰学園の三年E組に在籍しクルミに勧誘され、配下となった。

 人前では|山中覚≪ヤマナカ サトル≫と名乗り、学生生活を送っている。

 彼自身はいたずら好きなわけでもなく、むしろ人と話すのが苦手な性格で、現在も人付き合いに四苦八苦している。

 勧誘された時は、断るつもりだったのだが、慣れた動作で彼女の心を読むと、その圧倒的なまでの我の強さに衝撃が全身を走った。

 どんな人間にも隠したい部分はある。

 だがクルミには、それがない。

 自分本位なのに、己の力量をきちんと把握し、その上での尊大な態度。

 どこまでも自分を貫く精神に、大海のように広い度量を感じた。

 誰にも物怖じせず、堂々と振る舞い、心の表裏がないクルミに言い様のない感動を覚えた。

 そして気づいた時には、首を縦に振ってしまっていた。

 この人は偉大な人物になると、生まれて初めて、覚自身の心が直観したのだ。

 今では、クルミのために誠心誠意働き、配下の中で一番忠誠を誓っている人物となった。

 

「しかし、王よ。彼はあなたの目的を伝える程に信用できるのですか? 考えを読めない相手に話してしまうには、少々危険かと思われますが」


 そういう背景もあって、彼は不安だった。

 心の読めない相手に、あんなに話してしまう魔王が心配だった。

 敬愛する魔王の心は盗み視れないと、勧誘されてからは一度も読んでないので、余計にそう感じるのかもしれない。

 人の心が読める覚は、気を抜いていると、聴きたくもない心の声を頭に入ってくるデメリットもあるが、特性を行使すれば、事前にどんな人物か判別できる。

 上っ面だけの善意も腹に隠す悪意も、感じ取る事ができる。

 だから、心の声が聴こえてこない人間というのは信頼ができなかった。

 隣の部屋でずっと集中して和也の心の声を聴こうとしたが、全く反応がない。

 まさか聴こえてこないというだけで、こんなにも不安に駆られるとは考えもしなかった。


「理由はそれだけか?」


 しかしクルミは透き通った蒼い瞳で、覚を睨む。

 覚の考えなどお見通しだとばかりに、ふんぞり返っている。

 実際、彼女は正しく見透かしていた。


「あなたには隠し事はできませんね……」

「私を誰だと思っている。阿呆」


 口でも心でも同じ事を発する魔王。

 理由は心が読めないだけではない。

 口にするのは憚られたが、深く息を吸い込み、言った。


「一度、学園で財布を落としてしまい、その際、彼に探すのを手伝って貰った事がありまして」

「ふん、お人好しの奴らしいな。それで見つかったのか?」

「はい。一時間の捜索の末に、三年E組の自分の机の中にありました」

「……貴様、案外間が抜けているな」

「面目ございません……」


 真面目な出で立ちの覚ではあるが、意外とおっちょこちょいな面がある。

 実務に支障をきたさない程度なので、安心はしているが。

 こほん、と喉を鳴らして、仕切り直す。


「アルバイトの時間が迫っているというのに、見つかるまで手伝ってくれた桐生君には感謝していますが、ただ……」

「ただ?」

「少々、お人好しが過ぎますね。話に聞くところによれば、どうやら学園でも街でも老若男女問わず、親切に接しているようです。誰にでもいい顔をするような人間は、信用に欠けるかと」


 桐生和也は極限なまでに八方美人な人間だ。

 おかげで、街で声に耳を傾けるだけで、情報は集まってくる。

 そして、どの声を聴いても、和也は心の優しい人間という共通点があった。

 誰にでも同じように仲良くするのは至難の業。

 人付き合いの良さには感服してしまうが、それとこれとは話が別だ。

 以前会話した際は、気遣いに感謝して心を読みはしなかったが、やはり善意を振りまく人間は裏がある。

 これまで生きてきた中での経験則だ。

 無償の善意など存在しないと、数百年の生で学んでいた。

 評判を上げたいとか、取り入ろうとか、格好いいところをみせたいとか、思惑は様々であれ、何かしらの理由がある。

 あの少年とて、例外ではない。

 必ず裏がある。

 まるで和也を嫌っているかのような言い方だが、別にそこまではない。

 善意自体は、素晴らしい感情とは覚も思っている。

 嫌悪ではなく苦手なのだ。

 他人に善の面しか表さない人間が。

 

「ふん。取るに足らん問題だ」


 しかし、クルミは動じず、一蹴した。

 

「奴の口が軽くない事は、この三か月で確認済みだ。仮に人に話すのなら、それは必要に迫られた状況なのだろう。第一暴露されてもさして意味はない。異能者にも妖怪にも、世界は渡れんからな」


 和也に話した内容は、重要案件ではあっても、情報を漏らされたところで、大きな価値はないと言える。

 むしろ暴露されても、問題はないと判断したから伝えたのだ。

 仮に妖怪達が世界を渡る方法を手にしたとしても、どうやって異世界で土台を作り、根を張っていくのか。

 どんな生命がいるのか、気候はどうなのか、知的生命による社会はあるのか。

 情報が不足したまま、世界を渡るのは無謀に等しい。

 一部不安要素はあっても、地球出身者が勝手に乗り込んでくる可能性はゼロに近い。


「何より、奴は先代を、魔王を殺した勇者だ。評価に値する結果を出した者だ。それだけで信用はできる。私にとってはな」


 淀みない口調で、クルミは言い切った。

 覚は彼女の分の紅茶を注ぎ足しながら、尋ねる。


「勇者、ですか。楠先生が教えてくださいましたが、私としては、このご時世にそのような存在がいる事が驚きですが……」


 覚に隠し事はまず不可能。

 いくら黙っていても、心を読まれてお終いだ。

 勇者もドラゴンについても、あらかじめ学園側から知らされていた。

 無闇に周囲に言いふらさないために、釘を刺されていたという事だ。

 なお楠に関しては、年齢は覚が遥かに上だが、教師として尊敬している。

 

「現代には馴染みがないだろうな。勇者の情報を裏社会に流してはみたが、全く釣れなかった。帰還した勇者よりも、建前上、社会見学に来た魔王の方が奴らには旨味があるようだ」

「そうですね。異世界との繋がりの濃さは明確に魔王様が上ですから。容姿も名前も居住地も未だ曖昧な勇者よりも喰いつきは良いでしょう。……流石にどの勢力も既に検討はついてるようですが」


 クルミは勇者関連の情報を、各地にいる異能者や妖怪にそれとなく伝えていた。

 伝聞のみの勇者の実力を計るための餌としてだ。

 やはりクルミにしても、自分の目で和也の力を確認しておきたかったのだ。

 噂の元だとばれないように、細工もし、あとは効果が出るのを待っていたが、期待した結果は出なかった。

 楓や武蔵のおかげで、戦いぶりを見学できたのは僥倖と言えよう。

 しかも牛鬼、忍者との戦闘で活躍した異能者という事で、色んな勢力が和也に目を付けた。

 噂が流れた時期と変人学園長と異能者にあるまじき戦闘能力の三つがあれば、もしや彼が勇者なのでは? と容易に推測できるからだ。

 それがなくとも、いずれ学園長あたりが勝手に言いふらすだろうが。

 近々どこかの勢力が接触を図る可能性も考えられるが、基本的に傍観姿勢を維持するつもりだ。

 ただし、こちら側に悪影響がある場合は排除も視野に入れている。

 いずれにしろ、友好的な関係を築いておいて損はしない。

 

 覚も納得し、話が落ち着いてきたところで、突然クルミの携帯が振動する。

 電話番号だけの、誰だか判らない相手だったが、魔王の電話番号を知っている人間は限られている。

 腹心の覚さえも、最近聞いたばかりだ。

 魔王の軍門に降っていない人となると、楓とフリーネと和也の三人。

 最低限の人付き合いはクルミもこなしている。

 消去法で候補を消していけば、自然と相手の正体は予想できた。

 覚に後ろに下がるように、手を振って指示すると、迷う事なく電話に応じる。


「何の用だ学園長。私は暇ではないんだが」

『察しがいいじゃないか、クルミナレッテ君。私の電話番号は桐生君しか知らないのに』


 男にも女にも聴こえる中性的な声。

 清条ヶ峰学園の長。

 素性は誰も知らず、なのに影響力は計り知れない正体不明の学園長。

 牛鬼の時も、忍者の時も、影で暗躍していたと思われ、その目的は不明。

 ある意味では安全を保障してくれる事もあって、多くの人間や異能者や妖怪が頼っている。

 この気味の悪い学園長相手でもクルミは物怖じせずに、会話を続けた。


「面と向かって人と話せない屑が何のようだ。貴様の茶番に付き合っている暇はない。切るぞ」

『まあ待ちたまえ。桐生君にフラれて不貞腐れるようじゃ、魔王の名が廃るよ?』

「ふん。貴様がどこから見ているかは知らんが、あまり調子に乗るなよ」


 どうせ学園長相手に隠し事ができるとは思っていない。

 そう判っていたから、動じる必要はない。


「そもそも貴様がそれを言うか。キリューが私の話に乗らなかったのも、貴様が奴の家族を実質人質としているからだろうが」

『何の事かな? 私は彼の家族に働き口と学び舎と病院を提供しただけだよ』


 ちっ、と舌打ちする。

 白々しいにも程がある。

 和也が甘いのもマイナス面に作用しているが、それでも学園長のやり方は汚い。

 教師の素質なんて欠片もない。

 生徒が悩んでも、解決するのではなく、それを横から眺めて悦に浸る畜生だ。

 だから学園長は生理的嫌悪感を覚えずにはいられない。

 死ねばいいとさえ思っている。


『桐生君と違って、野心に満ちている君は大好きだよ。だから心配しなくても余計な手出しはしないさ。彼は彼で良さはあるけれどね』

「鳥肌が立つから止めろ。さっさと死ね」

『ひどいなぁ。本心からの言葉なのに』


 超弩級の気持ち悪さを感じて、携帯を反射的に耳から遠ざける。

 上っ面だけの感情だけ言葉に乗せられても、神経を逆撫でされるだけだ。

 が、ここで切るのも癪だった。

 負けていないはずなのに、敗北したかのような屈辱感がある。

 嫌々ながら、会話を続ける。


『そういえば世界と世界を繋ぐゲートを開く能力者の力が衰えているようだね。うーん、これはますます私の力で補強する必要があるね』

「……援助は感謝するが、貴様に遜るつもりはないぞ」


 インデストに異世界の扉を開く力を持つ者がいる。

 しかし前大戦で、能力を使い過ぎた事により、体中にガタがきてしまった。

 戦闘には直接的に参戦せず、インデストに籠っていた人物だが、それでも疲労は大きかった。

 それ以前に年を召したご老体だったために、もう無理はさせられてない程衰弱している。

 年老いても、優秀な人材。

 失うには惜しい。

 その問題に頭を悩ませていたところを、学園長が救いの手を差し伸べてきたのだ。

 クルミが学園に三年間通学という条件と引き換えに。


『君が学園に通ってくれれば、文句は言わないよ。私は君達の青春を眺めているだけだから』


 人材の勧誘や異世界の存在に戦闘の力にも興味があったから、多少は目を瞑っていた。

 しかし、こういうクルミよりも優位に立っているつもりでいる奴は大嫌いだ。

 殺してやりたいとさえ思っている。

 自分が人よりも上でないと気が済まない。

 とにかく自分以外の上から目線野郎がとにかく気に食わない。

 クルミは声を荒げる事なく、大嫌いな学園長に向けて、言い切る。

 

「今はせいぜい神様気分でいろ。いずれそこから引き摺り落としてやる。必ず、必ずな」


 明確な反抗宣言。

 徹底的に潰す。

 優位に立っていると思っている阿呆は地獄の底に叩き落とし、闇と共に消し去る。 

 今はまだ見逃してやる。

 今はまだ。

 だが初めて学園長と会った時から、このいけすかない野郎を粉砕してやると心に決めていた。

 やると決意したからには絶対に完遂する。

 ルーキフェル=イブリス=クルミナレッテとはそういう人物だ。

 クルミの確固とした意思を聴くと、学園長は、


『……その時を楽しみにしているよ。ふふ、ではグッバイ』


 そこで電話は途切れた。

 相変わらずの余裕な口調だったが、これに腹を立てても仕方がない。

 

 しかし、いつか必ず、学園長を地に這いつくばらせてやる。

 

 粛然と、クルミの蒼眼は静かに激しく、野望に燃えていた。

 

「実に不愉快な気分だ。こんな時はアレに限る。おいサトリ。ゲームやるぞゲーム。すぐに全員呼べ」

「非常に申し上げ難いのですが、妖怪に機械のゲームは操作できません」

「ちっ。失念していたな。なら人生ゲームだ。それならば出来るだろう」

「はい。そうですね……」




 ……野望に燃えていた。

 



※魔王がメインの章ではないです


メインヒロインどころか主人公の座まで喰う勢いですが、家族大事の勇者よりも、遥かに壮大な目標を旗に掲げる魔王なんだから仕方ない


本人達のモチベーションも「野球漬けの三年間を送るも夢半ばにして引退し、時間の使い方を忘れた高校球児」と「天性の才能を持ち、甲子園優勝を目指す名門校のキャプテン」ぐらいから違うから仕方ない


次回からようやくドラゴンです



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