表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アフターヒーロー  作者: 望月
第二章 帰還した勇者と忍ばない忍
28/108

第八話 乙女な妖怪と女神な異能者

 日曜日。

 昨日とは打って変わって、雨雲が空を漂っている。

 涼しげとなったが、生暖かい感触は依然として残っていた。

 いつ雨が降っても不思議ではない天候。

 外に出るならば、かっぱや傘は手放せない。そんな微妙な天気だ。

 そして、彼女もまた、ビニール傘を持ち歩いていた。

 水色を基調とし、地味な私服を着込んだ艶やかな黒髪の大和撫子。

 一年E組の立花楓は、ビニール傘と手提げ鞄を持ち、ある場所の前で立ち往生していた。

 楓の目的地は和也の家。

 隣の高級マンションのせいで、アパートの貧相さが際立っているが、和也の家である事が重要なのだ。

 清掃運動時に、勉強を教える約束をした楓。

 約束した日とは全然違うのだが、いてもたってもいられず、ついに来てしまった。

 それっぽい理由を付けて、家に上がり込みたい。

 ただ勢いでやって来てしまったので、うまい言い訳が思いつかなかった。

 道を行ったり来たりを繰り返し、不審者同然の行動。

 しかし幸いな事に、周りに人はいない。

 例えいたとしても、彼女は決して気づかないだろう。

 楓は今、脳内で懸命にシミュレーションを行っているからだ。


(どうしたら違和感なくいけるか……そうだ! たまたま通りがかったから来ちゃった! てへ! とかどうだろう? うんいける! これいいよ! これなら何の違和感もなく受け入れてくれるはず!)

 

 自身ありげに結論づける楓。

 ちなみに今は午前五時である。

 鶏の甲高い鳴き声が聴こえてくるぐらいの時間帯だ。

 しかも日曜日の午前五時だ。

 起きている人はそうそういないだろうし、いくらなんでも早すぎる。

 和也の家族とかその他諸々の事情とか、正気かお前と言いたいぐらいだ。

 だが妖怪はありのままに生きてこそ意味がある。

 乙女街道爆進中の楓は、妖怪の性質も相まって、行動力だけは凄まじいものとなっているのだ。

 

 こんな感じで気合十分の楓。

 もっとも和也は武蔵の部屋にいるので、自宅にはいない。

 和也が不在なのを露知らず、楓はアパートの前で、無駄な覚悟を決めていた。

 そして、足を踏み入れる決意を固め、一歩踏み出そうとした瞬間。


「立花さんではないですか。おはようございます。お早いですね」


 隣の高級マンションから出てきた人が声を掛けてきた。

 武蔵の意中の相手、藤堂紗和だ。

 羨ましい事に、彼女は和也の家のご近所だ。

 お淑やかな雰囲気で、こんなにも朝早い時間なのに、すっかり目が覚めているようだった。

 これからジョギングでもするのか、黒の機能性ジャケットを身に纏っていた。

 

「……おはようございます」


 クラスメイト以外には、まだまだコミュニケーションが苦手の楓だ。

 相変わらずの無表情で返してしまう。

 先輩に対して、この態度はまずいと内心反省する。

 申し訳ない気分の楓に、紗和はどこまでもにこやかだった。

 楓の傍まで来ると、耳元に口を寄せる。


「ふふ、今日は和也君に会いに来たのでしょう?」

(ふわっ!?)


 一気に核心をつく紗和。

 唐突で、しかも的中しているので、心の中で焦りまくる楓。

 表情に出さなかったのは、勲章物と言えよう。

 自分で自分を褒めてやりたいぐらいだ。


「こんな時間にここにいるなら、それしか理由は見当たりませんからね。ふふ、そんな顔して、意外と積極的なのですね」


 囁くように、誘惑するように。

 妖艶な言い方に、妙な気分になってしまうところだ。

 これで普段はお嬢様のような雰囲気なのだから、武蔵がぞっこんなのも頷ける。

 女性でもそっちの気があれば、ころっとおちてしまうかもしれない。

 楓の性癖は至って普通で、和也に片思い中。

 我に返って、慌てて反論する。


「へ!? いや、そんな……」

「ごまかさなくていいですよ。昨日の清掃運動の時に、何となく察しはついていましたし」

「……ばればれでした?」

「いえ、うまく隠せていましたよ。乙女の勘というやつです」


 見るものを魅了するかのような微笑みの紗和。

 もはや驚きを隠せなかった。

 和也の直感も尋常ではないが、紗和の勘もなかなかのものだ。

 これほど察しの良さと乙女の勘となると、とても羨ましい。

 他人への気配りができる人は人気が高いのはわかっている。

 和也と紗和がいい例だろう。

 和也に近寄る女にいつも心中穏やかではない楓には、是非とも欲しいスキル。

 自分と結婚したら、いい奥さんになります的なアピールも出来るようになれば上々だ。

 ゆくゆくは、実際に奥さんポジションにいたいものだ。

 やりたい事もたくさんある。

 例えば、

 『ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ、た、し?』とかとてもやってみたい。すごくやってみたい。

 楓がよからぬ妄想をしていると、紗和が肩を叩く。

 

「大変申し上げにくいのですけど……和也君いませんよ?」

「へ?」


 素っ頓狂な声を上げる楓。

 聞き間違いかどうか、もう一度聞き直す。


「ほ、本当に?」

「はい。いませんよ。寮の服部君のところに泊まっているみたいです。妹の舞ちゃん情報ですから確実ですよ」


 楓は一度アパートを見て、再び紗和の顔の方を向いた。

 そして紗和は無言で頷く。

 急激に冷めてきた頭で、落ち着いて考える。

 まず時間が早すぎた。朝の五時はさすがにない。

 それに気づかずに、浮かれていた自分が恥ずかしい。

 『たまたま通りかかったから来ちゃった! てへ』とかありえない言い訳だ。

 まるで残念な人ではないか。

 自分は決してそんな妖怪ではない。

 仕方ないので、ここは一旦帰るとする。


「ありがとうございました。私は帰ります……」


 悲しき影を身に背負いながら、楓は立ち去ろうとする。

 しかし、紗和がそうはさせなかった。


「せっかくの機会ですし、私の家に来ませんか?」

「え?」

「ここで会ったのも何かの縁かもしれません。それに立花さんとは仲良くしたいですし」

「でも別の用があったんじゃ……」

「いいんです。立花さんの方が大切ですから」


 結構ぐいぐいくる紗和に押される楓。

 確かにここで会ったのも何か縁。

 断る理由もなく、この後の予定も特にない。

 外出してきているのに、何もせずに帰るのも面白くない。

 どこかで暇を潰そうにも、時間帯的に開いている店はないだろう。

 せっかくなので、紗和のお誘いを受ける。


「……わかりました」

「来てくれるんですか! じゃあ早速行きましょう。一番上の階ですけど、すぐに着きますよ」


 気分が良くなったのか、上機嫌の紗和に引っ張られ、楓は高級マンションの中に入る。

 煌びやかで、小物から何まで高級そうな物ばかりだ。

 エレベーターに乗るのも初めてで、どうにも落ち着かない。

 住んでいた場所が、秘境で、しかも日本家屋だったので、こういう建物は新鮮に感じる。

 そうして、キョロキョロしているうちに、二人は最上階まで辿り着いた。

 そのまま機嫌のいい紗和に連れられ、彼女の部屋にお邪魔する。

 高級マンションの最上階というだけあり、とても豪華で広い。

 リビングまで案内されると、紗和はキッチンでお茶の準備をしに向かった。

 待つ間、する事もないので、柔らかい黒のソファに座る。

 部屋は東と南側が壁ではなくスライドガラスで、色んな植物が置かれたベランダから街を一望できる。

 ちょうど朝日が昇ってくるのが、よく見えた。

 家具も高級品が揃っていて、いかにもお金持ちの部屋だ。

 玄関もいくつかある靴は綺麗に整頓され、台の上には桃色の花を飾った花瓶。

 思い出が詰まった写真立ての数々。

 清潔感に溢れ、気品に満ちた内装。

 誰もが羨ましいと思うぐらい完璧だ。

 楓もこういう部屋は素敵だと思う。

 ただ――


 (……誰もいない)


 紗和以外に人がいる痕跡がない。

 部屋が広いだけで、誰も見当たらなかった。

 よく見れば、飾ってある写真立ても年の近い人や年下ばかりで、大人はほとんど写っていない。

楽しそうには写っている。

しかし、家族と思わしき人物は影すらもない。

 とても寂しい部屋だった。

 親元から離れて一人暮らしをしているのだろうと推測できるが、それならば、寮に入ればいいだけの話だ。

 寮ならたくさん人はいるし、良い人ばかりだ。

 実際、楓もお世話になっている。

 こんな場所で、ひとり寂しく暮らすなんて、楓には理解できなかった。


 「ふふ、一人で暮らしているのが不思議でしょうがないって顔ですね」


 紗和が茶托に、二つ茶碗を乗せて戻ってきた。

 そして、流れるような動作で、綺麗に机の上に置く。

 楓の思うことなんて、お見通しのようだ。

 紗和はいつもと同じく、女神の如き笑みを浮かべている。

瞬く間に準備を終えると、そのまま楓の隣に座った。


「すみません……」

「いいですよ。大した事じゃありませんから」


 紗和の本音は窺い知れないが、嫌な気分にはさせてしまっただろう。

 いたたまれない気持ちになった楓は、ごまかすようにお茶を飲もうとする。

 それでうまくごまかせたら良かったのだが、慌てて掴んだせいで、するりと手から滑ってしまった。

 するりと落ちていく茶碗を、妖怪の優れた身体能力でキャッチする事には成功した。

 脳内妄想がアレなだけで、彼女もまた、上位妖怪クラスの力は持っている。

 それでも、緑色の液体をお洒落な机にぶちまけるのは避けられなかった。

 辛うじて、カーペットには落下しなかったが、いずれ机から垂れていくだろう。

 

「す、すみません! すぐに拭きます!」


 慌てて楓は持ち合わせていたハンカチで拭おうとするが、紗和は茶托を手に、それを制止する。


「大丈夫ですよ。すぐに片付けられます」


 紗和は余裕の表情で、今にも落ちようとするお茶の表面に人差し指を当てる。

 すると、たちまちお茶は一滴残らず消え失せ、入れ替わるようにペットボトルの蓋が現れた。

 紗和の異能、『置換』の効果だ。

 彼女の異能はマーキングしてある物体同士の位置を入れ替える能力。

 対象が液体でも、お構いなしに入れ替え可能だ。

 和也と違って、効果の発動までに一分のタイムラグはない。

 異能自体は和也が以前説明していたので、驚きはしない。

 気になるのは、あの蓋がどこから移動してきたかだ。

 液体が移動できる場所は限られてくる。

 無理をして移したのなら、どこかが汚れてしまっているだろう。

 そう思うと、悪いことをしてしまったようで、どうにもそわそわとしてしまう。


「こういう事もあろうかと、ゴミ捨て場に元々用意されている物を使用していますので、心配しなくていいですよ」


 楓の心情を察し、紗和が付け加えた。

 液体は稀だが、大きなゴミを片付ける場合は非常に便利だ。

 今のようにペットボトルの蓋一つで、一人で運ぶには苦労する物を処理できる。

 和也の劣化コピー能力。楠の分身能力。

 日常では使われないであろう彼らの異能と比べると、生活に役立つ能力だ。

 

「重ね重ねすみません……」

「ふふ、いいですよ」


 紗和の世話になりっぱなしで、どんどん立場がなくなってくる。

 その上、雰囲気も気まずい方向へ変わりつつある。

 

「…………」

「お菓子でも持ってきますね。この前貰ったお饅頭が……」


 もじもじと辺りを気にする楓と、お菓子を探しに再び台所に向かう紗和。

 一人取り残された楓は、俯いて脳内議論を開始する。


(どうしようどうしようどうしよう! 何から何まで気を使わせちゃって……迷惑までかけて……どうにかしないと……! でも話題なんてないし、緊張しちゃうし……)


 仲の良い相手ですら、会話が詰まる楓に、数度会った程度の、しかも先輩相手だ。

 流れで来てしまったが、後悔の念が押し寄せてくる。

 しかも、こうなってしまったのは自分の責任によるところが大きい。

 どうにかして、この状況を好転させなければならない。

 とは言っても、楓が深刻に考えているだけで、紗和は別段気まずいとは思っておらず、のんびりしているだけなのだが。

 

「このお饅頭美味しいですよ。立花さんも……どうかしましたか?」

「い、いえ。その、あの、先輩の異能は便利でいいなと思いましてですね、えっと、はい」


 いつもの無表情が崩れつつある楓。

 動揺を隠そうとしているが、目の焦点があさっての方向だ。

 一応、会話の糸口には繋げられたので、期待の眼差しで紗和を見つめる。

 というのにも関わらず。


「…………」

(あれ?)


 今まで機嫌が良かった紗和が、悲しげに目を伏せる。

 もしかしなくても、これは触れちゃいけない物に触れてしまった。

 自分の事だけで、精一杯だった楓でもわかる程に、紗和は明らかに沈んでいた。

 

「便利ではありますよね。でも……」


 紗和は自らの右手を寂しげに握って開いてを繰り返す。

 

「この力があるせいで、両親は私をこの学園に入学させましたから。一概に喜べはしませんね」

「え?」


 本日二度目の素っ頓狂な声をあげる。

 あの女神のような紗和の暗い発言に、驚きを隠せなかった。

 楓と違って、社交的で綺麗で、誰からも好かれる紗和の事とは到底思えなかったからだ。

 

「両親は普通の人間でして。私と接する態度がいつもぎこちないというか。この家も親が世間体……親の面子を保つために用意した物ですし。小学校、中学校では素晴らしい友人がいたので、寂しくはなかったですけどね。あ、すみません。一方的に話してしまって」


 良家としてのプライドは、娘を色々な噂があるE組に通わせるだけでなく、彼らからしたら、みすぼらしい寮に住まわせるのも耐え難かった。

 さらに娘に愛情を注いでいるという体裁を取りたかった結果、現在の形に落ち着いた。

 一気に自分の事を話してしまい、気を悪くしていないか、楓の表情を覗くと、


「……わかります」


 楓は涙混じりに答えた。

 紗和はしみじみと語っていた。

 この話を聞いていていいのか疑問に思ったが、黙って聞いていく事にした。

 それに楓の境遇とは真逆で、興味も惹かれた。

 楓は両親に愛され、友人はいなかった。

 紗和は両親に愛されず、友人に恵まれた。

 ある意味では似たもの同士。

 紗和には悪いが、話を聞いていたいと思う。

 そして自分についても話さずにはいられなかった。


「私は両親に大切にしてもらっていました。でも友達はできませんでした。いませんでした。自分と対等に、当たり前のように接してくれる人は大事ですよね。とてもわかります。うぅ……何だか泣けてきた……ぐすっ……」

「え、ええ」


 一気にまくし立てる楓にたじたじの紗和。

 さっきまで静かだった人が、急に話し始めたかと思えば、いきなり泣いてしまうのだ。

 反応に困って当然だ。

 とりあえず紗和は彼女を宥めるために、優しく肩を撫でる。

 しかし、それも逆効果で、優しくされた楓は涙が止まらず、むしろ号泣してしまう。

 他人の顔色を伺う楓だが、一度友達、もしくは共感を覚えた相手だと、とこどん感情を曝け出す少女だ。

 こんなのでも妖怪の異端中の異端、『混じり』なのだから世の中不思議な物だ。

 紗和が宥める事数十分。

 ようやく落ち着いてきた楓は、補充されたお茶を飲み干し、深呼吸する。

 

「落ち着きましたか?」

「は、はい。つい感情が昂ぶってしまって……」


 若干興奮気味だった楓は幾分と冷静になった。

 なったはいいが、冷静になれば人前で号泣するという馬鹿な真似をしてしまったと、認識してしまった。

 途端に恥ずかしくなって顔を熱くさせ、体全体を縮こませる。


「人間色々ありますから。人前で泣いてしまう事もありますよ」

「……私妖怪です」

「い、一緒ですよ一緒。だからほら、元気を出してください」


 完全に迷惑をかけまくっている楓。

 紗和もフォローしようと必死である。

 今度は紗和が話題を変えようと、焦り気味にポケットからスマートフォンを取り出した。


「そういえばこれを見ましたか? 怪しい集団が街に侵入しているという物です」

「ふぇ?」


 紗和は楓に見えるように画面を顔に近づける。

 赤くなった目で画面に書いてある文章を読んでいく。

 これによると、近頃学園のE組生徒を付け狙う怪しげな集団がいるので、注意を怠るな。

 要約するとそう書かれていた。


「……見ていないです」

「昨夜に連絡が回ってきませんでしたか?」

「機械の扱いがどうにも苦手で……あと昨日の夜は色々考えていて……」


 昨夜は和也と勉強会が開ける事に、テンションが上がりまくった楓は、ずっと枕を抱いてベッドの上をごろごろしていた。

 そのテンションの上がりようは凄まじく、相部屋のフリーネに割りと本気で心配されるぐらいには舞い上がっていた。

 本当に機械の操作が苦手だったりするが、今回は完全にメールの存在に気づかなかった。

 

「この学園だとよくある事ですから、そこまで気を張る必要はありませんが、注意はしておきましょうね。朝みたいに一人で出歩いちゃダメですよ」

「……すみません。あれ? でも先輩も――」


 楓は言葉を途中で切った。

 別に紗和に気を遣っているわけでもなく、舌を噛んだわけでもない。

 近くから音が聴こえたからだ。

 妖怪で辛うじて聴こえる音だが、確かに耳で捉えた。

 楓はこれでも上位妖怪同士の子。

 スペックは日本妖怪最上位だ。

 これぐらいはこなせる技量はある。

 牛鬼の時は浮かれていたり、緊張していただけで、楓は優秀なのだ。


「誰かいます。しかも近い」

「このマンションにいる妖怪さんではないでしょうか。最近の事件を受けて、配備されたようですし」


 紗和は呑気にそのような事を言うが、牛鬼の件は実際稀なケースだ。

 見張りこそしても、危害を加えるレベルまではほぼいかない。

 だからこそ、紗和はこんなにも平和そうなのだ。

 だが、楓は違う。

 前回の事件を経験し、次もあるかもしれないと自然に思うようになっている。

 楓はすぐさまここから離れるために、紗和に指示を出す。


「ここを離れましょう。先輩の異能で――」


 再び楓の言葉は続かなかった。

 今度は自分の意思ではない。

 外部からの、機械音。

 何かがベランダに着地し、飾られていた植物を踏み荒らす。

 ベランダから聴こえてくる、機械特有の駆動音。

 しかし何も見えない。植物が不自然に押し潰れているだけ。

 だが確かに何かがそこに存在している。

 それは窓を突き破り、易々と室内へと侵入する。

 堂々とした侵入行為。

 しかし楓にも紗和にも、一体何が入ってきたからわからない。

 それでも間違いなく彼女達に、見えざる脅威が、暴力が、迫ろうとしていた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ