人斬りの自分を
深川。ここには岡場所と呼ばれる幕府非公認の遊里がある。
幕府非公認の遊里は江戸の各地にあったが、ここ深川の岡場所はその中でも吉原の最大の対抗地区として、多くの遊女屋が軒を連ねてきた。
格式高い吉原と違い、少し気す楽に遊べるということで、町人や下級武士たちからの人気が高かった。
子の刻の始まり(23:00頃)その深川からほど近い通りに身を隠すように凛子は潜んでいた。
昼見世の終わりがけに指名が入り、凛子が呼ばれた。
今日来たのは3人の中で最も無口な男だった。
名前はもちろん呼び名も知らない。いつも部屋に通されては、すぐに黙って書面を渡し、そのあとは一言も話さず半刻座ったまま、帰り際に一言
「では失礼」
とだけ言って帰る男。
正さんとはまさに対照的で、凛子にとってはこれくらいがいいのだが、時雨や雪江からは
「あんな男は絶対付き合っちゃダメよ!ああゆうのはそもそもねぇ……」
と、長々と無口な男はダメ説を聞かされていた。
書面に書かれていた時間はそろそろのはず。ここをこんな時間に通るということは深川の岡場所で遊んできた帰りか?
と、遠くから提灯の明かりと人の話し声が聞こえてきた。
来た……。が、提灯が多い?
1……2……3…4…5………6!?
多い!6人は初めてだ。6対1か。
凛子は頭の中で攻め手を考えた。
そして………。
凛子は通りに出て、まだすこし距離のある彼らの正面に立った。
6人の足が止まった。
「誰だ?」
1人が声を上げた。
「あなた達を」
「お、女だ!」
誰かが嬉しそうに言った。
「斬りにきました」
「はぁ?」
1人が笑い出した。
が、そんなことはお構いなしに凛子は走りだした。
「ぬ!?」
一番正面にいた男が刀に手をかけた。
その男が刀を抜くより早く、凛子の仕込み杖が男の喉を斬った。
「おおお!?」
間髪入れずに右斜め後ろにいた男も。これまた刀を抜く暇も与えずに斬った。
「この!女がぁ!!」
残り4人はすでに刀を抜いている。
1人が袈裟斬りに斬りかかってきた。
凛子はそれを躱し。相手の胴を斬ろうとしたが…。
「ぬおおおおお!!」
逆から1人が斬りかかってきた。
「!!!」
咄嗟に両足を思い切り開き、開脚で地面に伏せた。
「なに!?」
男の刃が頭上を通過した。
凛子は両足に力を込め、身体をひねりながら立ち上がる。
立ち上がりながら、2人の脚を斬った。
一人は膝を、もう一人は太ももの横を深く斬った。
「うおおおおお!!」
「があぁぁぁぁ!!」
2人が悲鳴を上げる。
脚を抑えて倒れるより早く、凛子の仕込み杖が2人の首を斬った。
切り口から血飛沫が上がり2人は倒れた。
残りの3人は刀を構えたまま、動いていない。
「この女……」
「あぁ、こいつだ」
「信じられんな」
「だが今の動き……間違いない」
「こいつが例の辻斬りだ」
「お前ら油断するな。こいつは師範を斬った女だ!」
3人一斉に来るか?
「うおおおおお!!」
2人が同時に来た。
2人!?あと1人は!?
見ると1人は走り出している。
「行けー!このことを皆に伝えろ!」
しまった!咄嗟に追おうとしたが、2人に阻まれた。
「行かさん!!」
1人が強引に間合いを詰めてきた。
「ちっ!」
凛子は一旦距離を取り、体勢を整えた。
が、その男は刀を投げつけてきた。
投げた!?
ヒョイと躱したが、男はそのまま凛子の腰に体当たりをし、地面に押し倒した。
「ぐっ……」
仕込み杖を逆手に持ち替えて背中を刺そうとしたが、もう1人に脚で払われてしまった。
そして上に乗られたまま両手を掴まれた。
「よし、いいぞ。所詮は女だ。剣の腕が立とうが腕力までは……」
両手を掴む男の手に力が入った。
「いっ……つ……」
手首が痛む。
「ん?おい見てみろ」
「なんだ?」
「こいつよく見りゃ、いい女だ」
「はぁ?」
「まだガキっぽいが、顔は悪くねぇよ」
男が汚い歯を見せて笑った。
「身体はどうなんだ?お前歳は?」
「くっ……くっ……」
振り払おうとするが、外れない。
「歳はいくつだって聞いてんだよ!?」
「じゅ……14……」
「14!?ホントにガキじゃねえか!!仲間を斬りまくりやがって……」
男の手が凛子の手首を何度も地面に打ちつける。
「おい!こいつ脱がせろ!!」
「なに!?ガキだぞ!本気で言ってんのか?」
「あぁ、こいつ犯してやる!」




