人斬り業2
亥の刻(21:00)。
通りに人はなく、家の明かりもほとんど消えている街。
凛子は書面にあった通りに書面にあった時間にやってきた。
小袖に小町下駄を履き、仕込み杖を持って。
民家の間に身を隠し、標的が現れるのを待つ。
凛子から少し離れたところに男が2人、やはり身を隠して凛子を伺っている。
凛子の仕事の確認のための検分役だ。
ほどなくして提灯の明かりが見えた。
1つ……2つ……3つか。
3人。特に問題はない。
凛子は3人が通り過ぎるのを待ち、3人から少し距離を取って、後ろから近づいていった。
静まり返った街に凛子の下駄の音だけが響いた。
3人の一番後ろを歩いていた男が立ち止まってこちらを振り返った。
「誰だ!?」
声を上げた。
凛子はゆっくりと近づく。
「あなた達を斬りにきました」
そう言うなり凛子は走りだした。
下駄の音を響かせながら、一気に3人との間合いを詰める。
「女!!」
一番後ろの男が刀に手をかけた。が、抜くより早く凛子の飛び蹴りが男の顔面を捉えた。
「うあぉぉお!」
下駄で鼻に飛び蹴りを食らわされた男はその場でもんどり打った。
着地より早く仕込み杖を抜くと、刀を半分ほと抜いた隣の男の喉を斬った。
「な!?速い!」
3人目はすでに刀を抜いている。
凛子は斬り掛かったが、止められた。
「ぬうぅ!!なめるな!女ぁ!」
鍔迫り合いで一気に押された。
鍔迫り合いになると女性の凛子は不利になる。
そのまま力に逆らわず、後ろに下がりながら、刃を滑らせて鍔迫り合いを交わした。
が、相手がその瞬間に袈裟斬りに斬り掛かってきた。
凛子はそれを躱すと同時に男の首の横を斬った。
男の首から血が噴き出す。
そのまま今度は胴を深く斬った。
「がっ………」
男は声にならない声を上げ、その場に崩れた。
「ば、ばかな……こんな……」
最初に飛び蹴りを食らった男は鼻血を流しながら、2人が斬られた光景を見て呆然としている。
「お、お前は……一体何者なんだ?……こんな!」
男は刀を正眼に構えた。
凛子は刃についた血を布で拭い、ピュン!と一振りした。
「う、うおおおおお!!」
男が刀を振り上げ斬り掛かってきた。
凛子は男が刀を振り下ろすより速く男の懐へ飛び込むと、喉を一刺し。
そのまま身を翻し、返り血を浴びないように刃を引き抜いた。
「………ゔぁ」
刃が抜けると同時に男は声を上げ、その場に倒れた。
おびただしい血が喉から噴き出した。
3人から流れる血の海を避けて凛子は倒れている3人を見下ろした。
「お見事です」
検分役の男が2人、凛子の前に現れた。
1人が死体に白い紙を乗せた。
何も書かれていない白い紙をわざわざ乗せるのは、これは同一犯によるものだと思わせたいらしい。
他にも何か意味があるのだろうが、凛子にら興味もない。
凛子は仕込み杖の刃を指で確かめた。
ガリッ。
1カ所刃が欠けていた。仕込み杖の刀身は薄くて脆い。
鍔迫り合いになったら大抵、致命的なカケが出来てしまう。
「また替えないと」
日本刀を持てれば一番いいのだが、女が日本刀を持ち歩くのは許されていない。
凛子は仕込み杖を杖に納めた。
検分役の2人はまだ死体のそばにいる。
「………お疲れさまでした」
2人に一礼をしてその場を離れた。




