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人斬り業。

「やっほー!凛ちゃーん!」

その若い男は部屋に入るなり軽い挨拶とともに凛子の横に座った。

 こいつか……。と思った。

「すいません。隣に来ますか普通?」

そう言って、凛子の前に置かれた座布団を指差す。

「あ〜、気が利かないよねぇ。普通は隣だよねぇ」

男は凛子の肩に手を回そうとしたが、それをスルリと払った。

「正さん、そうゆうのは……」

「わかってるわかってるってー」

この男は凛子を指名する3人の内の1人で、正さんと呼ばれている。

 凛子も「正さん」と呼んでくれと言われてそう呼んでいるが、名前は知らされていない。

 1度何気なく「そういえば正さんって本名なんですか?」と聞いたことがあったが、一瞬、目つきが鋭くなったことがあった。

 すぐにいつもの軽い感じに戻り

「うーん、名前なんて知りたい?俺に興味ある?俺は凛ちゃんに興味あるけどね」

と、はぐらかせたが、あの目つきを見た時にこの人も真っ当な生き方ではないんだなと思った。


「じゃあこれね」

凛子の正面に座り直した正さんは四つ折りにされた紙を懐から取り出した。

 紙には名前、大まかな特長、そして今夜おそらく通るであろう道と時間が記されている。

 凛子への指名、それは人斬りの依頼であった。

 こうして客を装い凛子を指名して、標的を伝える。

 そしてその日の夜、凛子はまた夜の街に人を斬りに行く。

「………」

じっと書面を読んでいると

「んー、どうしたの凛ちゃん?」

いつの間にか正さんが凛子の顔を覗き込んでいた。

「!!!!!」

「そんなにじーっと見て……あ、もしかして知り合いとか?」

「違います!ただ……最近ちょっと増えたなって………」

「あー……そうかなぁ……」

正さんの顔が少し曇った。

「あ、詮索とかじゃないです!ただ、今月に入って立て続けに三軒ですし。先生に何かあったのかと思って」

「そうゆうの詮索って言うんだけどね」

「すいません……」

「いいよ、俺、凛ちゃんのこと信用してるから!そうだな、先生に何かあったと言うよりは……もっと大きな『何か』かな?」

「もっと……大きな?」

「まぁ……大きなうねりみたいなもんだよ」

「うねり……」

なんだか結局はぐらかされた気がする。

 このあと、半刻ほど部屋で時間を潰す。あくまでも遊郭を楽しみきた客を装っているので、すぐに退室しては怪しまれるという考えだ。

凛子は本を読み、正さんはキセルを吸いながらボーッと天井を見上げたり、刀の手入れをしたり。

「ねぇ凛ちゃん?」

「はい」

「いつも思うんだけどさ」

「はい」

「この時間って退屈じゃない?」

「まあ……私は本を読むので平気ですが」

「これって遊郭の客を装うための時間だよね?」

「……そうですね」

「じゃあさ!」

正さんが凛子のすぐ目の前に座った。

「ホントに遊郭してみない?」

「は?」

「だからぁ……」

そう言って着物をはだけさせて見せた。

バッ!

 凛子は一瞬で部屋の隅に立てかけていた刃が仕込まれた仕込み杖を抜いた。

 切っ先を正さんに向ける。

「お、おお……冗談だよ冗談。うん冗談」

仕込み杖を納めて、また座って本を読み始める。

「ふぅ。怖い怖い。しかし凛ちゃん相変わらず速いねー。切っ先向けられるまで気づかれなかったよ」

 

 半刻が過ぎ正さんは立ち上がると

「じゃあそろそろ行くわ。凛ちゃんまたね」

凛子は一礼をして見送る。

「あ、そうだ!凛ちゃん、さっきの話だけど。1度ホントに俺の相手してみない?もちろんもうちょっと大きくなったらだけど」

凛子は答えず、正さんの方を見ようともしなかった。

 ただ一言。

「いりません」

とだけ答えた。



 

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