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人斬りの自分を5

 男を背負いながら走るのは女性である凛子に取ってはかなり重労働だ。

 息が切れる。脚が重い。

 後ろを見ると、女が少し遅れている。

 

 ほどなくして、大きな屋敷に着いた。

 ドンドンドン!

「先生!!開けてください!!」

静まり返った町に門を叩く音と凛子の声が響いた。

「先生!柳です!!」

ドンドンドン!!

「上郡先生!!」

ガラッと玄関の扉が開き

「うるさいぞ!!」

と、背の高い白髪の男が出てきた。

「なんだ?凛子か?」

「先生!良かった!」

「どうしたこんな時間に……」

上郡は門の鍵を開けた。

 凛子は門を開けて

「夜分にすいません。実は……」

言いかけたところで上郡が遮った。

「待て!その男はなんだ?」

凛子は背負っていた男を下ろし、後ろの女にもこっちへ来るよう促した。

「そいつら誰だ?」

「怪我をしてます。この人を助けて欲しくて」

「なんだと?」

上郡は下ろされた男に近づいた。

「腕か?」

「はい」

上郡は凛子、男、女の顔をそれぞれ見回して

「凛子。こいつらを助けるってことがどうゆうことかわかってるのか?」

「それは……」

凛子は一瞬考えて

「わかってます。だけどそれでも私は……」

上郡は凛子の言葉を最後まで聞かずに

「わかった。それならやろう。中へ入れ」


 屋敷に入った凛子は長台の上に男を乗せた。

 上郡は切断された腕を明かりに照らして凝視している。

「ひどい切断面だな。どんな素人が斬ったんだ?」

「つ、つながるんですか?」

上郡は少し考えて

「それは無理だ。切断された手足はもう戻らない」

「そんな!先生は西洋の医学にも長けて……」

「凛子。西洋の医学と言っても万能じゃない。血管をふさいで傷口を防ぐ。そのあと義手を作る」

「義手?」

「作り物の腕だ」


「動けるか?」

上郡は女に聞いた。

「……は、はい。大丈夫です」

「よし。台所はあっちにある。湯を沸かせ。できるだけ多く。俺は家中の燭台を持ってくる。できるだけ明かりが欲しい」

「先生、それは私が!」

凛子が言ったが、上郡は手で遮った。

「凛子、お前は風呂で身体を洗ってこい。それと着替えもしろ。血を浴びすぎだ。病気になるぞ!着替えは脱衣場に用意しておく」

そう言って、2人は準備を始めた。


 凛子は風呂で湯を浴びた。髪から赤い色が流れた。

「こんなに浴びてたのか……」

顔も洗い、全身を洗った。

 風呂から上がると脱衣場に青い着物と綺麗な肌襦袢と腰巻き、それにさらしが用意されていた。

 それと大小の布。

「この布はなんだろう?」

凛子は布を手に持って脱衣場を出た。


 治療をする部屋に戻ると、湯が沸かされ、すごい数の燭台の全ての蝋燭が灯っていた。 

「来たか」

上郡と女は同じ青い着物を着ている。それと布で髪と鼻と口を覆っていた。

「凛子、お前もその布で髪と鼻と口を覆え。感染を防ぐ」

「感染……?」

「いいからやれ。始めるぞ」

上郡は見たこともない器具で男の口と鼻を覆った。

 口と鼻の部分にはガーゼがついている。

 そこに小さな瓶から液体をポタポタと少量垂らした。

「なん……ですか?その液体?」

「これはクロロフォルムという。麻酔だ」

「麻酔?」

「あぁ、強制的に眠らせる。何があっても起きない。痛みも感じない。そんな薬だ。やっておかないと途中で目を覚ましたら痛みで発狂しちまう」


 しばらくして、上郡は腕を切断された箇所を縛ってきた袖を外した。

「出血は止まってるな。壊死もしていない」

そうして処置が開始された。

「あ、あの!私に手伝えることは!?」

女が言った。

「あんたは、この男に話しかけ続けてやれ」

「話す……ですか?」

「そうだ。麻酔で意識がなくても話してる声は届いていたりするもんだ。それに、こいつも心強いだろうよ」





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