翌日
翌日、太田は同じ道を二度踏まない。畦の外から回り、焼け残った村の裏へ出る。小田は次の肩で受ける。道はまだ渡さない。ただし、昨日より高くつく。
夜が明ける前に、朱羅は次の肩を作っていた。
昨日の畦は血と泥で、もう細い道ではない。十騎が並べる。並べる場所では、八発では止まらない。彼女は半町下がった林の切れ目を選んだ。荷車一台がやっと通る。両脇は根と窪だ。若い者に杭を打たせ、自分は泥になった筒を谷へ送った。直すためではない。拾われて、数を教えられるためだ。
治資は腕を吊ったまま、百五十を二つに分けた。
「私は林の前に残る。半分は村の裏へ回せ。松明は、表だけとは限らない」
氏治は土浦から下りてきていた。今日は道の端までではなく、林のうしろまで来る。
「超えられたら、村を捨てろ。人は裏道だ。家は戻る」
「七人の次を、増やしたくありません」
「増やしたくないから、超えるなと言っている」
太田の本隊は、昼前に昨日の道へ入った。
入って、止まった。畦が広くなっている。広くなった場所に、小田の姿がない。資正の物見が半町走る。林の切れ目で、また杭がある。
「同じ手だ」
太田の押す声が、風に乗って聞こえた。同じ手と知っていて、別の手も持っている。先鋒の半分が林へ向かい、半分が畦を外れて、村の裏の畑へ出た。
裏で、先に音がした。
治資が回した七十五が、畑の境で受ける。松明が一つ、藁に落ちる。落ちた火を、足軽が体で蹴る。蹴った男の背に、槍が走る。名前を呼ぶ前に倒れた。八人目だ。
林の前では、朱羅が六つ開けた。昨日と同じ八つではない。一挺が谷へ行っている。六発が、林の入り口の先頭に落ちる。馬はもういない。歩いている槍だ。先頭が折れ、次が根に足を取られる。そこで太田の弓が、窪の上へ落ちてきた。
若い鉄砲持ちが肩を押さえた。火縄を落とし、筒を胸に抱いて転がる。朱羅が腕を掴んで、次の木の陰へ引きずる。
「撃て。痛みはあとだ」
「筒が」
「筒は生きている。お前が止まると、列が生きる」
若者は歯を鳴らして火蓋を切った。七発目。林の入り口の旗竿が折れる。折れただけで、列は止まらない。止まらない列を、治資の残りが槍で受けた。
吊った腕は使えなかった。もう一方の手だけで、治資は道の端に立つ。太田の侍が一人、胸まで入ってくる。治資の刀がそれの膝を払った。払ったあと、治資自身が畦に膝をつく。味方が二人、その前に槍を交差させた。
半刻では終わらなかった。
村の裏で家が一軒燃えた。一軒で、足軽が火を切った。燃えた家の戸は、すでに空だった。信太が夜のうちに人を出している。火は家を食い、人は食わなかった。
林の前で、太田の旗がまた半町退く。退き方は昨日より遅い。遅いぶん、小田の側にも人が増えた。林で三人。畑で二人。合わせて五人。昨日の七人と合わせて、十二人になる。
夕方、資正は片野へ戻らなかった。
戻らず、道の途中に陣を敷いた。火が十、林から見える。今夜は帰らない、という火だ。小田の道の肩も、火を消せない。消すと、次の押しが暗がりから来る。
氏治が死者の名を、信太の帳面と並べて見た。
「村は」
「一軒です。人は出ていました」
「治資は」
「膝をついたが、切れています。道の端にいると言っています」
朱羅が戻ってきた。南蛮胴の脇に、新しい擦り傷がある。自分の血ではない。引きずった若者の血だ。若者は生きている。筒も生きている。
「明日は、八つでは足りません」
「いくつ要る」
「十二。その代わり、あさっては六つに戻します。二日本番で開けたら、桶が椀に戻ります」
氏治は林の火を見た。太田は、同じ道で二度負けていない。二度目は回り、一軒を焼き、五人を倒し、陣を残した。勝ちではない。勝ちに近い残り方だ。
「十二まで開ける。城の旗は出すな。出した旗を取りに来られたら、空のまま渡せ」
治資への伝令は、短かった。
「退城するな。超えるな。明日、鉄砲は十二だ」
伝令が走ったあと、朱羅が封を二つ、棚から下ろした。厚い封が、一つ減る音はしなかった。減るのは明日の昼だ。
片野の台と、道の途中と、二つの火が夜の中で向かい合った。激しく当たった翌日も、城は動いていない。動いたのは死人の数と、燃えた一軒と、帰らなかった太田の陣だった。




