↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小田氏治の異世界転生、転移  作者: M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/15

激しい攻防

片野から、物見ではない本隊が下りてくる。道は細いまま、そこで激しくぶつかる。城は取りに行かない。道だけは、渡さない。

夏の終わり、報告は百姓ではなく、血のついた足軽だった。

「片野を出ました。荷もあります。焼く列です。百ではありません」

小田氏治は地図の炭を見た。水守ではない。片野から小田へ落ちる尾根道だ。春に杭を欠いた、あの畦である。太田資正が、確かめるだけをやめた。

岡見治資が刀を持ったまま入ってきた。

「今度は百では足りません」

「二百までだ。坂は登るな。道の細い場所で止めろ。超えたら退け」

「退くと、村が焼かれます」

「超えなければ、焼かれない」

朱羅はすでに南蛮胴を着けていた。火縄は二本、兜の紐は締めてある。

「今日は八つ開けます。人にも撃ちます。ただし列の先頭だけです。本陣には撃ちません」

「弾は」

「桶はまだあります。使い切る夜にはしません」

信太が短く言った。

「村の者は、裏道へ出しています。米は土浦です」

氏治は治資の目を見た。

「死ぬな。道を渡せ」

尾根道は、昼前に音で埋まった。

太田の先鋒が杭の欠けた場所へ殺到する。春のように十騎ではない。旗が続き、槍が続き、うしろに松明の荷が見える。朱羅の窪から、四つ同時に火蓋が切れた。先頭の馬が崩れ、次の槍が道に倒れる。列は止まらない。止まらない列の上を、さらに四つが撃つ。八発。道の肩に人が折り重なる。

それでも太田の兵は畦を割って入ってきた。鉄砲の煙の位置を、もう知っている。窪へ向かって走る。

「移れ」

朱羅が喊声より先に言った。六挺が窪を転がり、次の木の陰へ入る。遅れた一挺が、槍に筒を弾かれた。人は生きている。筒は泥になった。

治資の二百が、そこで受けた。

道幅は十騎も並べない。槍が槍に当たる音が、短い。治資は馬を捨て、道の真ん中で太刀を振るった。太田の侍が一人、肩から血を吹いて倒れる。味方も一人、畦の下へ落ちた。名前を呼ぶ暇はない。次の槍が来る。

「白を上げるな」

治資が怒鳴った。白は退けの布だ。今上げれば、松明が村へ抜ける。

朱羅は次の陰で火蓋を切った。人の顔は見ない。松明の手元だけを見る。一発。火が道に落ち、俵ではなく草が燃える。もう一発。松明を持った兵が手を押さえて止まる。焼く列が、道の途中で乱れた。

太田の押す声がする。

「鉄砲は十だ。踏み破れ」

十ではない。生きているのは六つで、場所が移っている。だが踏んでくる兵には、十にも二十にも見える。見えるまま、槍が治資の袖を裂いた。治資は退かない。袖の布が赤くなり、それでも道の真ん中に残る。

半刻が、非常に長かった。

小田の死人が七人。太田の道の上に、それより多くが折れている。勝ちの形ではない。道が、まだこちら側にある、という形だけだ。

未の刻、太田の旗が半町退いた。

村は焼かれていない。道の肩は焼かれた。杭は消え、畦は血と泥だ。朱羅の筒は一挺が泥のまま戻らない。弾は十八発。不発が二。若い者の一人が腕を押さえ、火縄を口から落としている。

治資は道の真ん中に座り込んだ。袖から血が垂れる。氏治がそこまで下りてきていた。城からは出ていない、と言った男が、道の端まで来ている。

「超えませんでした」

「見ている」

「七人死にました」

「知っている」

治資は氏治を睨んだ。怒りではない。怒りより深い顔だ。

「これが、殿の戦いですか」

「これが、道を渡さない戦いだ。城は取っていない。取らせてもいない」

朱羅が泥の筒を拾い、黙って布で拭いた。拭いても音は戻らない。彼女はそれを谷へ持ち帰る、と言った。直せるかではなく、直せない筒を誰の目にも残さない、という言い方だった。

夕方、太田の本隊は片野へ戻った。松明は使われなかった。使われなかった代わりに、道に人が残った。小田も、太田もだ。

信太が死者の名を帳面に書いた。七人。村の家はゼロだ。氏治はその二つの数を、並べて見た。どちらも小さくない。

夜、朱羅が封を数えた。桶は割れていない。割れていないことが、今夜は薄い慰めだった。

「明日も来ます」

「来る。道は、もう細くない。細くなくなる前に、次の肩を作れ」

治資は腕を吊ったまま、道の端に残ると言った。二百は百五十になっている。それでも退城はしない。

片野の台で、太田の火が遅くなっても消えなかった。激しく当たって、どちらも城を動かしていない。動いたのは道だけだ。道は、まだ小田の側にある。その道の上に、七人の名が残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。