真実のパドルアウト、あるいは小鹿の跳躍
投稿者:みつる 2026年5月20日
作ったぜ。
今日、おれはついに、この不恰好な身体で本物の波の前に立った。
隣には、呆れたような、それでいてどこか期待を込めた眼差しで砂浜に座る琴音。そして、おれが脱ぎ捨てたTシャツの上で丸まり、潮風に鼻をひくつかせているセロリがいる。
「サーファーだって言い張るなら、一回くらい波に乗ってみせなさいよ。それとも、その上半身はただの浮き輪代わり?」
琴音の容赦ない挑発が、心地よく耳を抜ける。
おれはボードを抱え、ゆっくりと海へ入った。海水は冷たいが、今の自分にはそれが妙に清々しい。パドリングを始めると、鍛え上げた広背筋が力強く水を捉える。だが、本当の勝負はここからだ。
大きなうねりが、おれの背後から迫る。
今までの自分なら、ここで波に飲まれる恐怖に負けていただろう。だが、今の脚には、あの地獄のような足トレで培った「重み」がある。ママチャリでキャベツを運んだ「粘り」がある。
「いくぜ……セロリ! 琴音!」
おれは波の斜面を滑り降りると同時に、一気にボードの上に立ち上がった。
生まれたての小鹿のようだった脚が、今はしっかりとボードを掴んでいる。一秒、二秒……。おれは確かに、自分の力で波の上を走っていた。
視界の端で、琴音が立ち上がり、小さく手を振ったのが見えた。
バリの波ほど高くはない。でも、おれにとっては一生忘れられない、最高のテイクオフだった。
【コメント欄】
匿名サーファーA: ついに立ったか! 三秒だったが、あれは間違いなくサーファーの姿だったぜ。お前の「板」が、ようやくお前の「心」に追いついたな。
琴音(?): ……。まあ、一応は合格よ。でも、派手に転んで鼻に水が入った顔、セロリと一緒に笑わせてもらったわ。帰ったらまた特訓ね。今度は砂浜でスクワット百回よ。




