「猫の『お手』と、震えない指先」
投稿者:みつる 2026年5月18日
作ったぜ。
……いや、今回はおれが作ったんじゃない。セロリが、おれに「奇跡」を見せてくれたんだ。
バリの誘惑を断ち切ってから数日。おれの心は、凪のような穏やかさに包まれていた。相変わらず足トレの筋肉痛はひどいが、不思議とママチャリを漕ぐ足取りは、以前よりもしっかりと地面を捉えている気がする。
夕暮れ時、リビングでセロリと向き合っていた。
琴音には絶対になつかないと言われていた「お手」。彼女がどれだけ高級なカリカリで釣っても無視を決め込んでいたセロリに、おれはふと、右手を差し出してみた。
「いいかセロリ。おれも過去を捨てて、この不恰好な脚で生きていくことにしたんだ。お前も、少しは歩み寄ってくれてもいいだろ?」
期待はしていなかった。どうせ鼻で笑われるのがオチだ。
だが、セロリは静かにおれの目を見つめると、その白くて小さな前足を、おれのゴツゴツした手のひらの上に……そっと、乗せたんだ。
柔らかな肉球の感触。それは、どんなプロテインよりもおれの心に力を与えてくれた。
その時、背後で「あ……」という声がした。振り返ると、仕事から帰ったばかりの琴音が、買い物袋を抱えたまま呆然と立ち尽くしていた。
「……信じられない。私があんなに苦労してもやらなかったのに」
おれは、パンパンに張った二頭筋を少しだけ誇らしげに動かし、彼女に向かって笑ってやった。
「これが、男同士の『波長』ってやつや。……いや、失礼。波長だぜ、琴音」
彼女は悔しそうに唇を噛んだあと、ふっと柔らかく微笑んだ。
「……そう。じゃあ、その『お手』ができる相棒と一緒に、今日は夕飯の買い出しに行ってきて。特売のキャベツ、二玉ね。あなたのその腕なら、軽いでしょ?」
【コメント欄】
匿名サーファーA: 猫に認められるとはな。だが浮かれるなよ。猫は「こいつは俺がいないとダメだ」と判断しただけかもしれないぜ。
琴音(?): 私にはやらないくせに……。でも、いいわ。二人の絆に免じて、今夜は少しだけ良いワインを開けましょうか。あ、キャベツはちゃんと「重い方」を選んできてね。




