トリプル・エンカウント、あるいは沈没
投稿者:みつる 2026年5月10日
作ったぜ。
……いや、嘘だ。今回は完全に「終わった」と言わざるを得ない。
琴音とのデート。おれはパンパンに張った二頭筋を彼女の腕に添え、優雅な休日を演じていた。だが、銀座の交差点で信号待ちをしていたその時、地獄の蓋が開いた。
「あれ、みつる? また会ったね」
聞き覚えのある、甘く低い声。振り返れば、そこにはバリ帰りの小麦色の肌を輝かせた、あの「元カレ」が立っていた。
おれの上半身が、恐怖で石のように固まる。隣にいる琴音の視線が、おれと彼の間を往復するのが分かった。
「……知り合い?」
琴音の声は、凪いだ海のように静かだった。だが、その奥底には巨大なサメが潜んでいる。
「あ、ああ。昔の……その、サーフィン仲間というか……」
「サーフィン? 君、ボードの上に立つのも怪しかったじゃない。それより、あの頃の君はもっと……」
余計なことを言うな。頼むから、その「あの頃」の扉を今ここで開けないでくれ。
琴音の鋭い眼光が、おれの嘘をミリ単位で解体していく。おれがバイだなんて、彼女は一ミリも知らないんだ。知らなくていい、平和な「ヒモと飼い主」のままでいたかった。
元カレの無邪気な笑顔と、琴音の氷のような沈黙。
おれの細い脚は、ついに自重を支えきれなくなり、アスファルトの上で生まれたての小鹿のようにガタガタと震え始めた。
【コメント欄】
匿名サーファーA: ついに「ビッグウェーブ」が来たな。お前のその「板(嘘)」、真っ二つに割れる音がここまで聞こえるぜ。
琴音(?): 「サーフィン仲間」ねぇ……。あなたのその震える脚、嘘をつく時の癖だって知ってた? あとで家で、じっくり「聞き取り調査(足トレ)」しましょうか。




