「再会のバリ、沈黙のママチャリ」
投稿者:みつる 2026年5月3日
作ったぜ。
……いや、今日は正直、何も作れていない。おれのプライドという名の砂の城が、一瞬で波にさらわれただけの一日だった。
セロリをママチャリのカゴに乗せ、いつものように「神戸の海風」を気取ってペダルを漕いでいた時のことだ。信号待ちで隣に止まったのは、あのバリ帰りの元カレだった。
相変わらず、太陽に愛されたような小麦色の肌が眩しい。彼は最新モデルのクロスバイクに跨り、引き締まったふくらはぎで軽快に地面を蹴っていた。
「あれ、みつる? ……何それ、猫?」
彼の視線が、おれのカゴの中に鎮座するセロリに注がれる。
おれは咄嗟に、パンパンに張った二頭筋でハンドルを強く握りしめた。上半身のバルクだけなら、おれの方が上だ。だが、彼が跨る高価な自転車と、おれが漕ぐ琴音のお下がり……その決定的な「格差」を隠すことはできなかった。
「あ、ああ。……こいつはセロリだ。新しい、その、トレーニングパートナーというか……」
「へぇ。猫をカゴに乗せてママチャリで散歩なんて、相変わらずユニークだね。じゃ、おれはこれからジムだから。またね」
彼は風のように去っていった。
その背中を見送りながら、おれは動けなくなった。セロリがカゴの中から「ニャー」と、どこか憐れむような声で鳴く。
おれの逆三角形は、ママチャリのハンドルを握るためだけの飾りなのか?
バリの波に乗る男と、カゴに猫を乗せて坂道で立ち往生する男。その差は、鍛え抜かれた「下半身」の有無にあるのだと、突きつけられた気がした。
【コメント欄】
匿名サーファーA: クロスバイク対ママチャリ。勝負は一瞬でついたな。お前の脚、震えてるぞ。
琴音(?): 知り合いに会ったくらいで凹まないで。それより、セロリの毛がカゴに落ちてたから掃除しといて。あと、明日のゴミ出し、忘れたら「下半身トレーニング」追加だから。




