5
遅くなりました。お願いします。
『響殿はその、少し貧弱だな……』
「はあっ!!? ふっざけんなクマ野郎! これでも鍛えてんだよッ」
響の体を頭から足先まで見て、クマがそんなことを呟いた。これでも響は鍛えているし、何なら運動神経は普通にいい。ただ、人より筋肉の付きが悪く律より少し背が低く、がたいがいいとは少し言い難い、それだけなのだ。地球にいた頃は毎日筋トレをしていたし、時々ランニングをすることもあった。響の家にいる動物たちと夕方散歩に行ったりと、普通の人よりむしろ運動量は多いのではないだろうか。
「クマ、響は結構鍛えているぞ。それが筋力とかに繋がらないだけで」
「お前も一言余計だよ。褒めてんの?」
「褒めてる褒めてる。また筋トレすればSTRとか増えるかもしれないから時間があったらしよう」
本当に褒めているのだろうかとジト目で律を見つめるも、一緒に筋トレしてくれるというのでそれに甘えておく。
『ふむ、筋肉が付きにくいということは、もしかしたら根っからの魔術師タイプかもしれんな』
「魔術師タイプ?」
『そうだ、魔法をたくさん使う人のことをそう呼ぶ。魔力値が高い分、筋力が育ちにくいのだ。響殿はもしかしたら賢者にまで成長できるかもしれんな』
「賢者って魔術師の更に上ってことか?」
クマによると、魔法をたくさん使えるというのが魔術師で、その魔法を隅々まで理解して応用可能で、更に様々な属性を使えるようになるというのが賢者だという。
しかし響の適性属性は空間だけであり、その他の属性が使えるのか分からない。
『ああ、それはただ適性属性というだけであって、魔力消費量が上がったり発動はしにくくなるが他の属性はだいたいの者が使えるぞ。基本の火、水、風、土の初級は確実に、空間が適性属性であるならば、光、闇はもしかしたら使えると思う』
どうやら発動が難しいだけで使えるらしい。生活に必要なレベルの四つの基本属性はほとんどの人間が使えるし、響たちもそれは間違いないらしい。しかも生活に必要なのは基礎級であり、初級は少しなら攻撃も可能だとか。律もすごく頑張ればそれくらいはできるそうなので、修行あるのみだ。
「もしかして俺は獣人だし筋肉とか付きやすい方だから、魔法を使うのはだいぶ難しいってことか?」
『うむ、律殿は少し厳しいだろうな。だが普通の魔法を使うよりも、身体強化を使えるようになる方がいいと思うのだ』
身体強化は魔力を全身に巡らせて少ない魔力消費量で普通の時より戦闘力が倍増するらしい。確かに律向けの魔法な気がする。
「クマ、俺たちに魔法の使い方を教えてほしい」
『当然そのつもりであるぞ? なんて言ったって我の未来のマスターであるからな!』
勝手に未来のマスターにしてほしくはないのだが、それでも嬉しいものは嬉しい。このクマは実は結構いい奴なのかもしれない。
そうしてしばらく泉を堪能した後、クマが水属性の魔法で服の水分を抜いて服を乾かしてくれた。その際、クマがパールに何かを言ったらしく、パールが服の汚れを落としてくれた。浄化か何かをしてくれたようで、火をつけた時もそうだったが響たちより早く魔法を使えるようになったのは少しずるいと思うのであった。
「パール、クマ、ありがとう。俺たちの体まで乾かしてもらって」
ちなみに体を乾かす際は風属性に加え火属性の魔法を同時に使うことで、ドライヤーのような温風を出してもらった。ドライヤーは存在するのかと聞くと、異界の人間がこの風属性と火属性を同時使用する魔方陣を考案したとかで……とにかく存在しているらしい。響たちが技術革新を起こすことはなさそうである。
『ここからほど近いところに開けた場所があるのだ。そこに行って果実を食べるのはどうだ?』
「ん、いいと思う。お腹も減ってるからな」
「響が行くなら俺らも行く」
律はパールを抱えながらそう言う。パールはすっかり律に懐いてしまったようで、抱かれても文句の一つも言わない。律もまんざらでもなさそうなので、それが少し響の気に障る。それにここ異世界に来てから律はよく話すようになったと思う。それはいいことか、と響はため息をつくのであった。
実は律がよく話すのは響の前と、響を守ろうとするもの、響に協力しようとするものの前だけなのであるが、響がそのことに気づくのはずいぶん先だろう。
開けた場所、と聞いていたので何となく響たちは想像を巡らせていたのだが、まったくもって想像以上であった。どれくらいと聞かれたら明確には分からないが、少なくとも一般的な小学校の運動場くらいはある。そのおかげで明るくなっており、ここにいれば時間の把握が簡単にできそうだ。
「泉だけしか開けた場所がないと思っていたけど、そうでもなかったみたいだな」
『ああ、開けた場所はここと泉くらいしかないぞ。あとは木がたくさん生えていてな……』
適当に座り込んでクマに果実をもらってもぐもぐと食べていく。見た目は危ない感じの紫色のリンゴなのに、食べてみるとミックスフルーツな感じだ。リンゴとオレンジと桃とグレープフルーツをミキサーでジュースにしたような味がする。シャキシャキとリンゴっぽい食感はきちんとある。さすが異世界だ。
『響殿はそのミクスが気に入ったようだな。律殿はドラゴンキラーであるか……」
律が食べているのはドラゴンキラーらしい。ドラゴンを殺してしまう程おいしい果物だとか。見た目はドラゴンフルーツの真っ青バージョン。よく食べようと思ったな、と響は内心で感心していたが、紫色の毒々しい見た目リンゴなミクスを食べたのだから人のことは言えない。
「そういえば鑑定してなかったな。見てみるか」
《ミクス》
高級果実と名高く、
一般の市場ではお目にかかることができない。
様々な果物が混じったような不思議な味だが、
しっかりした深みもあり美味。
ミックスフルーツのような味がする。おすすめ。
「「……」」
《ドラゴンキラー》
かつてドラゴンが死んでしまった程美味。
市場には出回ることはない幻の果実。
甘すぎず、酸味が強すぎず、苦すぎず、
誰もが美味という果実。
栄養価も高いので、アイテムボックスでの保存がおすすめ。
「「……」」
どこから突っ込んでいいのか分からなくなってしまった響たちは、そのままなかったことにしておいしくいただくのであった。




