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 遅くなりました。キーボードに触れることすら久しぶりな状態です。更新がなかなかできずに申し訳ないです。ストックはありません。次話の目処も立っていないので、気長にお待ちいただけると嬉しいです。


『響殿と律殿は、これからどこへ行くつもりなのだ』


「どこ……、あー、この国を出ることは確実だが、それ以外のことはまだ決まってない。なあ、律」


「ああ、ひとまず獣人とかの差別がないところに行こうとしている」


 ちらりと律が響に視線を向け、若干頬を緩める。獣人である律が差別されないためにも響はこの王国から立ち去ってくれると言ってくれたのだから、そのことを思い出すだけで嬉しくなってしまう。


『ふむ、それならばホウライを目指すのが一番だろうな』


「……ホウライ? どうしてだ」


 確か地図で見たホウライは、大陸から離れたところに島国として成り立っていたはずである。名前を聞くと少し郷愁が漂う気もするが、ただの偶然だろう。


『あの国はかつて、異界の人間が差別されたものたちを救うために興した国だな。帝国ほど大きくはないが、十分発展しているし、様々な人種に多くの魔獣たちが住むという。島国のせいか強者が何故か集ってしまうらしいぞ。帝国も前王が崩御して差別に対してとんでもなく厳しくなったとは聞いたが、それでもホウライには劣るからな』


 帝国の前王が王国にかどわかされてしまっていたらしく、差別意識を少なからず持ってしまっていた。そのせいで前王の崩御が民衆の不満の高まりによって早まり、差別意識のない今の王が治めているとのことだ。


「絶対あの王女に魅了されてしまったんだろ」


「やっぱり王国は早々に見限って正解だった」


『うむ、我ら魔獣は国にとらわれるモノではないはずだが、それでもこの王国のよどんだ空気には耐えきれん。ずいぶん昔からよどんでおったからこそ、この森が誕生したのだ。悪意を阻む魔獣たちのための森としてな』


 想像以上にこの森は王国と根深い関係があったみたいだ。森を作ったおかげで人間が入ることができない場所となり、虐げられてしまう魔獣たちの住処にまでなったのだ。


 更に、王国では魔獣たちが滅多なことがないと現れないと言われているらしい。これは単に王国のよどんだ空気を吸いたくないというだけのことだったのだが。魔獣か魔物かの区別が曖昧なところもあり、気にする人間はいない。魔獣は現れなくても魔物は普通に現れているので、むしろ王国の魔物による被害はすごいのだろう。


『魔物を狩る魔獣が消えてしまえば大多数の魔物が生き残ってしまう。我ら魔獣が王国付近に存在する魔物を狩らなくなり、人間たちはさぞ魔物に困っていることだろう』


 と、クマはあくまでこの調子である。そうはいっても響たちは人間なので、王国がどんなに嫌な国であっても、罪のない民までどうでもいいとは思えない。


「多少の魔物くらいは狩ってもいいんじゃないか? ほら、食糧に困るだろ」


『いや? そうでもないぞ。王国側の魔物をほとんど狩らないだけで、帝国側の魔物はいっぱい狩っておる』


 この森を北上して抜ければ帝国だ。それを分かった上でそちら側の魔物を狩っているということだろう。森の仲間を守るために近寄ってきた魔物を狩ることはあるのだろうが。


「そっか……でも、王国のみんながみんな悪いっていうわけではないだろう」


『……嫌な国には嫌な人間しか集わん。例え善人に見えたとしても、実は金に執着していたり、波風を立たせたくないが故にそうと悟られないよう追い出したり。王国はそういう国なのだ』


 響殿の国はずいぶん甘いようだ、と呟いたクマ。そのように言われてしまえば響たちに言えることはない。むしろここまで気にする必要はどこにもなかった。多分同郷の者がいるから、この森のことをよく知りもしないで言ってしまったのだ。


「響、俺たちがどうこう言う問題じゃない」


「そうだな」


 甘い、実に甘い国に住んでいた。戦争など、新聞やテレビの中の出来事。それがこの世界では魔物と戦う冒険者という存在がいる。それが何より響たちの国と――――世界との違いをまざまざと見せつけている。


『暗い話になってしまったな。とにかく響殿と律殿はホウライに向かうといい。我も挨拶があるのでな、いつ出立するか教えておいてもらえぬか』


「……ついてくる気か?」


 響が唸るように言うと、そう怒るな、とクマは暢気に言う。


「いやいや、おかしいだろ。ずっと俺たちの後をついてきたとしても、俺がクマに名前を与えるかどうかは分からないし、俺たちは普通に生きていきたいだけだ。お前みたいな目立つでかいクマがいるとなれば、トラブルになりかねないだろう」


『大人しくしておく! だからどうか!』


 どうしてこんなに響に執着してくるのか分からないが、それでもやめてほしいと思うくらいには面倒くさい。


「響が名前だけ付けて、ついてくるなって命令すれば?」


 その手があったか! と思いつつ、響は律の頭を撫でておく。毎日のブラッシングが効いているのか、どことなく滑らかな毛触りになった気がする。


『我は一緒に旅がしたい。響殿たちのまとう空気は心地がよい。だから……』


「でも俺らが元の世界に帰らないっていう保証はできない。それにこことの繫がりが大きくなったせいで向こうに戻れなくなるとかは絶対に嫌だから」


「響の言う通りだな。俺は元の世界に対して未練はないが、響には大切な人たちがいる」


 大切な人―――響の両親は、家に帰れば何事もなかったかのように「おかえり」と言ってくれるのだろう。早くその言葉が聞きたい。そして早くシロたちに会いたい。


『そう、であるな。ただ、一応言っておくが、我が知っておる異界の者は……帰ることができぬと、泣いておった……』


「ッ、そんなッ」


「クマ、今この場で言うべき話ではないだろう」


 響がその言葉にひどく動揺している横で、律が冷静な口調でそう言う。


「クマの知るその異界の人は、クマにそう言った後で元の世界に戻れているかもしれない。それにもしかしたら、俺たちと同郷の者がその活路を開くかもしれない」


 クマのことを今にも殺してしまいそうな目で睨みつけ、その眼光の鋭さにたじろいだクマに律はいい気味だとうっそり思う。クマは響に近すぎる。その距離感といい、その気安さ。それが律にはこの上なく不快なのである。


「律、別に俺は大丈夫。先のことなんて誰も分からないんだから」


 たじたじしているクマを見てやっと冷静になったのか、響は小さく笑って言った。


「なら、別にいい。俺たちは元の世界に帰る」


 その道中についてくるというならそれなりの価値を見せろ、と律は呟く。響にだけ見せる優しさは、クマには発揮されるはずもない。


「まあ、そうだな。俺たちは二人で元の世界に帰るための旅に出る。帰れたとしてクマを連れて帰ることなんてできないから」


 ひとまずはホウライである。ホウライに行く前に多分、帝国に行かないといけないのだろうけど。


『……やはり我もついて行きたい』


「さっきの話、聞いてなかったか」


 律が唸るように言うと、クマは焦ったように早口でまくし立てる。


『き、聞いておったぞ、もちろん! もちろんだとも! そうではなくてだな、見たところ響殿や律殿にはこの世界の常識はない。我が道中その常識を教えることができるし、何だったらパール殿の言葉を翻訳したってよい! あと、一応我には小さくなれるスキルがある……まあ、初めて小さくなるために使うが』


 おい、最後。と、響たちは思ったのだが、響にとって何より魅力的なのがパールの翻訳係になるというところだ。


「ま、まあ、こちらとて常識を知らないのはその通りだし、パールの……、いや、小さくなれるということは目立つこともないだろうしな……、な」


 同意を求めるように律の方を伺う響に対して、律は何も言うことはない。基本響がしたいのならそのようにすればよいというスタイルである。場合によっては放任主義とも言う。もちろんパールの翻訳をしてもらえるというところに一番の魅力を感じているのは筒抜けだ。それを言って響が焦るのを見るのも面白いだろうが、やりすぎるとこっぴどく怒られるのは律のこれまでの経験から分かっている。


「クマ、とりあえずお前の名前を決めるか。希望の名前は?」


「もうクマでいいんじゃないか」


「それはいくら何でもかわいそうなんじゃないかな……」


 さすがにそれは、と響は同情する。だがしかし、響のネーミングセンスはゼロである。最早名付けといえば色の名前を付けておけばいいだろうという魂胆が見えるほどだ。


 クマ……、クマで思い出すのは赤いチョッキを着た中身おっさんだというぬいぐるみ。ぬいぐるみは黄色だったから……。


「黄色、金色、ゴールド……ああもう面倒臭いな、ゴルドにしよう!」


 響がゴルドと言い放った瞬間、クマの体から淡い光が溢れ出す。その光は徐々に強くなり、響の中の何かがごっそり抜けたような気がして――――――


「響!!? おいっ、しっかりしろ!!」


 その言葉を最後に暗転した。




 もふもふ成分が薄くて申し訳ない

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