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『よく来てくれた、我が君』
「『……』」
ようやくたどり着いた森の中心付近で、何かの声がした。気にしたら負け、気にしたら負け、と響と律は頭の中で呟いているのだが、無視することはどうにもできそうにない。
『ふむ、我が姿を現さぬから不敬だと思われているのだな……』
いや、違うよそうじゃないよ。響と律、更にパールまでそう思ってしまったのだが、声の主は突然姿を現した。3メートルくらいの……クマに見える何かが。
「……どちら様で?」
語彙力。だがしかし、もしかしたら好意的に見えて油断させて(以下略)。
『我は、かつては帰らずの森と言われていたこの魔獣の住む森を支配する魔獣である。キュアベアと呼ばれていたのだが、今では日々治癒魔法を使い続けることが可能になっているので、もしかしたら進化しているのかもしれんが』
(それはつまり、あれか。【鑑定】してくれと言っているのか!?)
血迷ってしまった響はとりあえず【鑑定】を意識して目の前のクマを見つめる。
《リザレクションベア》
Lv.187 性別:オス
もはや蘇生を成し遂げてしまうレベルまで治癒魔法のレベルを上げたベア。
キュアベアの進化した姿。しかしこの進化は本来ありえない。
どうしてこのような進化をしたのか神々は不思議に思っている。
現在この世界で確認されているのはこの個体だけである。
「ねえ律、このクマ【鑑定】にまで否定されてる……」
『うん、見なかったことに、』
『まっ、待つのだ! 我を、我を従魔にしてくれぬか!』
「だって律」
『いや、響だろ、どう考えても』
『我は、我はずっと名前が欲しかったのだ! それなのに普通の人間はキュアベアなんてと、従魔にすることを嫌がってしまっていたのだ。しかも普通の人間は明らかにショボ……、素質がなさ過ぎた!』
ショボいって言いかけましたよね? と響がジト目でクマを見つめるが、クマはそれでも従魔にしてほしいという目で見つめ返してくる。そもそも名前が欲しいのなら適当に誰かにつけてもらえばいい、と響は考えているが、名前を付けたら余程のことがない限り名付けた者の従魔になるのが普通である。
『どうしたら認めてくれるのだ! この通り!』
そう言ったクマは四つん這いになり、頭を地面にこすりつけた。
「何故土下座……」
『ふふん、これは我が以前仲良くしてもらった異界の冒険者から授かった、“スーパーミラクルお願いします”なのだ!』
ダサい。一言で言ってダサい。異界ってことはもしかして日本から来た冒険者だったのかもしれない。響たちの他にも過去に日本人が訪れたことがあるのだろうか。
『とりあえず、今夜ゆっくり眠れるところはないのか』
『ん? 我らはどんなところでも寝ることができるから誰も気にしたことはなかったのだが……うむ、柔らかい草が生えているところなら案内できるぞ』
「いや、それもそうだけど、俺たちに危害を加えないように周知しといてくれないか」
寝床も大事ではあるが、それ以上に安全性の方が大切なのである。このクマは何となくこの森におけるボスのような存在に感じられるし、頼めばきっと受け入れてくれそうな雰囲気がある。
『承知した。我が君の言うとおりにしよう』
「ところでさ、その我が君っていうの、やめない?」
そういえば名乗っていなかったことを思い出し、響と律は名前を告げる。誰のことを我が君と言っているのかは分からないが、とにかくそういう呼び方は気持ち悪い。そう、誰のことを言っているのか響には分からないのだ。
クマに案内してもらったところは、柔らかい草が生い茂っているところだった。この森は寒さを感じさせないのか、心地のいい温度になっているので、このまま寝そべっても問題なさそうだ。
『言っていなかったが、この森には魔物はいないぞ。魔獣しか住んでおらん。しかもその魔獣たちも気性が穏やか……とはちょっと言い難いかもしれんが、基本的にいい奴らだ。我も客人に攻撃せぬよう、一応言い聞かせているからな』
「ん、それは助かる。ありがとう」
魔物と魔獣の違いがいまいち響には理解しきれていないが、それはそもそもの話魔獣はとにかく魔物と一切遭遇していないからで……いや、もしかしたら道中見た動物っぽいものたちは魔物だったのかもしれない。
「魔物と魔獣ってどう違うんだ?」
『もふもふかそうでないか、とか?』
『うん? それは違うぞ。魔物は知能のない生物で繁殖ができないモノのことをいう。逆に魔獣は一定以上の知能があり、繁殖可能な生物のことをいうのだ。そこの小さい聖獣も魔獣の類になるな』
詳しくクマに聞いてみると、魔物は魔力溜まりから発生するそうで、じゃあこの魔力溜まりとは何かっていうと、高濃度の魔素が充満したところに時々現れるものらしい。ゴブリンとかは下級の魔物で、討伐対象になるのも魔物が多い。たまに魔獣の討伐があるのは、その魔獣が狂ってしまったり悪さをしてしまったりしたからで、基本的に魔獣の討伐は考えられないことである。
あと、魔物には進化があり、進化すればゴブリンでもゴブリンキングのような知恵をつけることができるらしい。人間たちにとって“いい魔物”が進化したのであれば、魔獣として認められることもあるという、何ともややこしい生態らしい。
魔獣というのは一定以上の知能を得た魔物が進化し、なおかつ子孫を残すようなモノに変化したときにそう呼ばれるらしい。たいがい魔物と魔獣の詳しい分類の仕方はギルドなんかに行けば閲覧可能だそうだ。大昔に魔獣と魔物が区別され今もそれに則っているのだ。とにかく難しいことは考えずに、魔物は知能が低い、魔獣は知能が高いと覚えておけばいいらしい。
「でもパールは話さないよな~?」
『それはまだその聖獣が成長できていないからだぞ。我も最初から言葉を話せたわけじゃないのだからな!』
……あれ? そういえばこのクマ、クマのくせにいつから人間の言葉を話していたんだろう。ここはスルースキルを働かせておこう、そうしよう。
クマでした。




