番外編23 寧々は近所付き合いが上手いらしい①
ゴールデンウィークも二日目。
朝からテレビでは、高速道路の渋滞や観光地の混雑具合を移していた。
こんな時期に高いお金払って行っても人しか見えないんじゃないだろうか?
九時すぎに、外へ出掛けていた寧々が両手を重そうにしながら帰ってきた。
両手には、たけのこがびっしり入った袋まで抱えていた。
よくビニール袋が破れなかったなと思うくらい詰め込まれていた。
「おかえり」
「た…ただいまですぅ……」
床に置いてへたり込む寧々。
確かにこの量は大変だったろう。
しかし、この量のたけのこを一体どこで……。
「こんなにいっぱいどうしたんだ?」
「ご近所の奥さんにもらいました。普段お世話になってるからって」
そういえば、寧々は結構ご近所付き合いやってたな。
本来なら俺がやらないといけないんだが、『あたしがやります』って言って聞かなかったんだ。
まぁ、仕事あるから助かるけどさ。
ただ、どういう感じで伝わっているのか分からないが、この前日曜日に町内会の掃除に参加したら、『奥さんとお似合いね』なんて、寧々を見ながら言われてしまった。
寧々がすかさず否定していたが、そんな速攻で否定しなくてもいいと思うんだ。
おっと、少し想いに耽ってしまったな。
「どれどれ」
寧々が貰ってきたたけのこは穂先が黄色く、断面も真っ白で瑞々しい。全体に薄めの茶色だ。
取ってすぐ詰めたって感じだ。
こんな都心のど真ん中で、こんな立派なたけのこ一体どこで……。
いや、そんなことより、はやくアク抜きしないとな。
「では、アク抜きですね」
「ええ」
「一応ヌカ貰ってきましたけど……」
「流すと詰まりやすいんで、お米の研ぎ汁で茹でましょう」
貸家だから配管詰まらせたら大変だからな。
「じゃあ、たけのこご飯できますね」
両手を合わせて微笑む寧々。
「みんないっぱい食べますからね」
油揚げあったよな。
ということで茹でていく。
IHのコンロ三つあって良かった。
こんなに茹でるなんてお店でもやるのかって言われそう。
寧々と二人で皮剥きしていく。
たけのこと一緒に貰ってきた新聞紙を広げてやっていくのだが、これどこの新聞だ?
まぁ、そんな事より、さっさとやってしまおう。
しかし、流石にこの量は疲れる。
「なんか共同作業って感じがしますね」
「ええ。まるで長年寄り添った夫婦みたいな?」
「ふぇ!」
寧々が口をパクパクさせながら、真っ赤な顔で固まっていた。
「大丈夫か?」
「ダメです。責任とってください」
「責任って……分かった。美味しいたけのこ料理作るな」
「あ、ちが……。もう……。はい。それでいいですよー」
なんか気のせいか拗ねてるようにも聞こえる。
なんとか、皮を剥き終えた。
剥くとやっぱ、小さくなるな。
たけのこを茹でていると、今頃起きてきたのか、星羅が昨日のお茶会で着ていた真紅のドレスのままだった。
一回脱いだはずだが、また着て寝たのだろうか?
ところどころ折り皺が出来ている。
「ごめん。寝過ぎちゃった。おはよー……ふぁふ……」
「おはよう。まぁ休日だしな。それにまだ十時だから。……というか、それで寝たのか?」
「あー……そうかも」
星羅だけ、朝起こしに行っても、『んー』しか聞こえなかったからな。
一応食べるか分からんが、ラップしてテーブルの上に用意してある。
ぼーっとした足取りで椅子に座る。
一体夜遅くまで何やっていたのか。
「大丈夫か星羅?」
「んー……星羅様って呼んで」
「なんでだよ」
「んー……」
ぼーっとしながら食べるもんだから、ドレスを汚してしまった。
「あ! ど、どーしよ…こーじー……」
「洗ってやるから……」
頭が働いてないのか、動きが緩慢だ。
そしてなぜか、その場で脱ぎ始めようとする星羅。
「ちょ、ここで脱ぐなって」
「別に減るもんでもないしー……」
「星羅」
寧々が笑顔で星羅が脱ぐのを止めた。
「わ、分かったわよ、もう……」
どんだけ寝ぼけているんだ。全く……。
「光司さん。私が洗ってきますね」
「あ、はい。お願いします」
こういう時の寧々には敬語で話してしまうんだよな。
まぁ、たけのこ茹でてるから、助かるけども。
「いやー、参ったわ」
星羅が着替えて戻ってきた。
服は、白シャツにハーフパンツとラフな格好だ。
顔も洗ってさっぱりしたのか、少し濡れている。
よく見ると、ほんの少しクマが出来ているように見えた。
「一体何をやっていたんだ?」
「んー、ちょっとハマっちゃって、ずっとスマホ見てたのよ」
「ほどほどにしておけよ?」
「うん。ところで何やってんの?」
「寧々がもらってきたたけのこを下茹でしてる」
「へー。じゃあ今日はたけのこ料理?」
「ああ」
そこで一瞬考えるそぶりをした星羅。
「ねぇ、たまにはわたしも作ってみたいんだけど」
「まぁいいけど」「ダメです」
俺が肯定したのに、脱衣所から戻ってきた寧々が拒否した。
「なんでよ。いいじゃない、たまには」
「星羅は作ったこと殆どないじゃないですか」
「肉くらい焼いたことあるわよ」
うん。確かに、星羅が料理するといった日は毎回ステーキか焼肉だったな。
ただ、意外と焼き加減が絶妙でな。肉汁を閉じ込める技術がすごいんだ。
しかし、寝不足の星羅がやると危なそうな気もするが、どうせ夕飯だしな。
少し寝てから作ればいいんじゃないだろうか。
「どうせなら、寧々が星羅に教えてあげたらいいんじゃないか?」
「へ?」「お!」
まぁ、俺が横で見ていればいいだけの話だしな。
「ま、まぁそれなら……」
「どうせ光司も横で見てるんでしょ?」
だからそうやって心を読むな。
「まあ、な」
「ただまー」
そんな話をしていたら、ユイが帰ってきたようだ。
手にはコンビニの袋が握られていた。
「あらユイ。おかえり。何買ってきたの?」
「アイス買ってきたよ。あ、みんなの分もあるっしょ」
「さっすが!」
「コージの分もあるからねー」
「ありがとな」
「で、何してたん?」
「たけのこ茹でてました」
「へー。じゃあ今日はたけのこづくしだねー」
「そうよー。今日はあたしが作るんだから」
ユイの笑顔が固まる。
「え、それ大丈夫なん?」
「ちょっとユイ。それどういう意味よ」
包装を剥がしたアイスを加えながら、リビングへ逃げたユイ。
「ねぇ、わたしそんなに信用ないの!?」
俺の二の腕を掴んで揺さぶる星羅。
「じゃあ、本当にしてみよっか」
その瞬間ぱあっと顔が明るくなる星羅。
なぜか後ろで見ている寧々の笑顔が黒い気がしたのは気のせいだと思いたい。




