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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第二章

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番外編22 お茶会


 ゴールデンウィークは混むから絶対に出かけたくないと、半ば土下座するようにお願いした。

 もし出かけるなら近場で、とお願いした。

 俺の必死の頼み込みが通じたのか、不満そうにしながらも了承してくれた。

 助かる。

 もう、この休み期間は庭の手入れも料理も張り切ってやってもいい。


 翌日の朝、四人がテレビを見ていて軽く呻いていた。

 「うっわ、きっつぅ……」

 「並ぶの好きでもこれは……」

 「光司が嫌がるのも分かるわ」

 「こうして見ると、改めて異常性を認識できますね」

 「あーしらも、この中だったらヤバかったかもね」

 「トイレもそうですが、光司さんの負担が凄そうです」

 「分かってくれて何よりだよ」

 毎年よくもまぁ、こんなに大移動するよ。

 バイソンだって、もっとスムーズに移動するぞ?


 「でも、こんなに長いと暇よね」

 「確かに」

 どうして、そこで俺を見るんだ?

 視線をずらそうとしたところで、星羅が立ち上がり、俺の顔を見てニンマリとした笑顔を向けた。

 「ねぇ、わたし、いいこと思いついたんだけど」

 「そうか。俺はこの機会にお風呂と脱衣所を完璧に磨いてくるわ」

 逃げようとしたが、うちの女王陛下からは逃げられないらしい。


 「待ちなさい光司」

 「ええ……」

 「そんなめんどくさそうな顔しないでよ。別に変なことじゃないから」

 三人も、星羅が何を思いついたのか、ピンときてないようだ。

 「とりあえず、準備がいるわね」


 そうして、星羅が説明し始める。

 ユイは両腕を上げて喜び、寧々は手を合わせて目を細めて喜んだ。

 静は星羅と握手していた。最近二人は仲いいね。

 だが、まぁそれくらいならいいだろう。

 折角、星羅とユイが作った庭があるのだ。活用しない手はない。

 それに、この前テーブルとか届いて設置したしな。


 「じゃあ、俺はケーキとか焼けばいいんだな?」

 「ん。お願いね」

 久しぶりに腕がなるぜ。さて、何を作ろうか。

 庭でお茶会ということは、アフタヌーンティーみたいな感じかな。

 ケーキの他に、スコーン、サンドイッチ、アミューズ各種。念の為にスマホで調べるか。

 「光司これを」

 静が差し出したのはケーキスタンドだ。

 こんなのいつ買ったんだよ。


 「あ、ああ…ありがと……」

 「期待してますよ」

 ウインクして、踵を返す静。ユイと何やら話している。

 まぁいいか。春だからキャロットケーキかな。

 そう考えていたら、寧々が横にいた。

 「光司さん、あたしも手伝います」

 両拳を胸の前にだして、やる気満々の寧々。

 「じゃあ、一緒にやろっか」

 「はい!」

 しかし、言い出しっぺの星羅はソファに座ったままだな。足まで組んでる。手伝う気はないようだ。


 そして、お昼を挟んで午後一時。

 焼いたお菓子の準備も整ったので、お菓子を持って行こうとした光司を四人が制止して、光司の部屋へ連れ込んだ。

 「お茶会やるんじゃないのか?」

 「するわよ」

 「じゃあなんで部屋に引きずり込んだんだよ」

 「コージ、ドレスコードって知ってる?」



 ユイと星羅が整えた西側の庭。

 お金を払えるレベルの出来だ。

 そんな庭の真ん中には、パラソルのついたテーブルと六脚の椅子が置いてあった。


 「なぁ、ドレスコードって言ったよな」

 「言ったよー」「ええ、言いました」「言ったわね」

 「それが何か?」

 三人が頷き、静が疑問を返した。


 「何で俺執事なん?」

 「「「?」」」

 「お似合いですよー」

 寧々が手を合わせてにっこりと微笑む。

 どうして三人は首を傾げているんだ?


 まぁ、それはいい。

 「しかし、よくそんな服持っていたな」

 「そりゃあねぇ……。お茶会だし」

 「だよねー。かわいいっしょ?」

 「うふふ……」

 「ふっ……」

 四人は貴族風のドレスを着ていた。

 俺が執事服を着せられて、一人でお茶会のセッティングしている間によく着替えたな。


 ユイは明るめのペールピンクのドレスだ。アクセントにペールイエローが使われており、リボンやフリルが多くあしらわれていた。

 胸元は大きめに開いており、胸元に大きなリボン。そして、その下に小さめのリボンがお腹の辺りまで付いている。

 首元にはチョーカーをつけていた。スカートはふんわりと広がっているが、やはりリボンが多い。

 袖は姫袖だが、肘のあたりから広がっているタイプで、肘の少し上にもリボンが付いていた。

 それにしてもフリルと小さなリボンが多い。まぁ可愛い系のドレスだ。

 髪型はツインテールで、なんというか、お姫様って感じだ。


 寧々は、意外なことにロリータに近いデザインだ。

 袖は姫袖で手は隠れるほど。スカートは段々になっているティアードスカートで、随所にクロスした紐で絞られていた。

 そして、意外なことに黒に金をアクセントにしている。生地もレースをふんだんに使っていて、ふわふわしていた。

 腰元から長めのリボンが垂れている。

 頭には花飾りの付いた小さな帽子がピンで止められていた。

 こういうのは着ないと思っていただけにびっくりだ。

 髪の毛も普段と違ってピンできっちり止めてあり、ボカロのキャラのようにも見える。


 星羅は、一番貴婦人といったドレスだ。

 細身の真紅のドレスで、後ろはバッスルになっている。

 黒いフリルがより大人っぽく見せた。袖は七分丈でサテンの手袋をはめていた。

 胸元は控えめでセパレートにも見えるデザインをしていた。

 一番シンプルなデザインなのに、オーラが凄いのは、星羅が元々持っている素質からなのかもしれない。

 髪の毛もアップにして、うなじがよく見える。

 三つ編みで巻いた髪の毛が本当の貴族令嬢のようで、つい傅きたくなる。なんか逆らえない雰囲気がある。


 静は胸元からお腹にかけて装飾の多い青いドレスだ。

 スカートもオーバースカートやらティアードでかなりボリュームがある。

 それでいて腰回りはコルセットのようにも見える。

 袖の方は抑えめのジュリエットスリーブで、パフも控えめだ。

 しかし、かなり豪奢なデザインだ。胸元は控えめで、チョーカーも大きめで露出は少ない。

 静も髪の毛を纏めていて、シニヨンにしていた。

 いつも下ろしているから、中々に新鮮だ。

 しかし、ふんだんに生地を使っているのか、動くたびに衣擦れの音がしてドキッとする。


 しかも四人ともわざわざ帽子まで被ってきて……。

 寧々以外は俺に渡してきたので、わざわざ置きに戻ったほどだ。

 しかし、こうして大人しくしていると四人とも本当に女神かってくらい神々しい。


 「ねーコージー、このケーキなにー?」

 言葉遣いも整えて欲しかったな。

 「こちらはキャロットケーキとなります。唯様」

 「唯様って、もうコージったらぁ……」

 ちゃんと執事になりきっているんだが?


 「あたしも手伝いましたよ!」

 寧々がほんの少し鼻息荒く言った。

 「へぇ、よくできてるじゃない」

 「はい!」

 星羅と寧々が仲良く話しているところに、ユイが小首を傾げた。


 「にんじん?」

 「はい。すりおろしたにんじんでございます」

 「なんか調子くるうなー」

 そんなん言われてもな。

 「うさぎさんも大喜び間違いないですね」

 両手を合わせてニコニコする静。

 なんでもうさぎさん基準で考えるのか?


 「うさぎにお菓子あげていいの?」

 「ダメなんじゃない?」

 切り分けお皿に乗せる。フォークは横に。

 そしてお茶を入れる。

 「あれやらないの? 高いところからびゅーって」

 「意味がありませんので。跳ねるだけで、見た目だけでございます故」

 「そうなんだ」

 「いや、光司はできないだけよ」

 「できなくはないが、跳ねるし美しくないから」

 「ムキになっちゃってかわいー」

 まったく星羅はそうやって煽る。だが、やらない。スマートじゃないからな。

 というか、俺もまだまだだな。つい、言葉遣いが戻ってしまった。


 でも、あれやってるのって日本だけなんじゃないかな?

 それに、カップに先にミルクを入れるからな。より意味がない。

 お茶を差し出す。スプーンは右側に縦に置く。

 紅茶を入れ終わったら保温のためにティーコージーをかぶせる。

 いっぱい飲むと思うから三つも用意してあるが、まぁ足りるだろう。


 それにちゃんとした茶葉だから時間が経ってもこれ以上出ないし、えぐみや苦みもない。

 知り合いのところで買ったスリランカ産の茶葉だ。

 ミルクティーにするから濃いめに淹れてあるから薄くならないし、焼き菓子にも合うだろう。

 そうして立って執事のように振る舞う。

 セバスチャンと呼ばれないだけマシかな。


 「ね、ねぇ光司」

 「なんでしょうか星羅様」

 「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 何をそんなに感極まっているんだ?

 足をバタバタ踏んではしたないなぁ。

 「も、もう一回言って……はぁはぁ……」

 「星羅様」

 「さいこう! これからはずっとそう言ってよ」

 「今回だけになります」

 「いいじゃないのよ」

 すぐ調子にのるんだから。


 「あ、あたしもお願いします」「わ、わたくしも!」

 「寧々様、静様、本日はごゆっくりとお楽しみくださいませ」

 「「〜〜〜〜〜!!!」」

 両頬に手を当てて、顔を真っ赤にする。

 そんな時、くいくいと袖を引っ張られた。


 「コージも座って飲も?」

 「でも今日は私、執事でございますので」

 「いいじゃないもう。ほら、役なんて忘れてほら」

 「そうそう。ほらほら」

 「わ、分かったよ」

 ユイと星羅に引かれるまま席に着く。まぁいいか。


 「でもこうして席に着くなら、光司もドレスの方がよかったんじゃない?」

 「は?」

 「そうだねー」

 「光司さんもきっと似合いますよ」

 「いやいや……」

 「一着、紫のドレスが余ってます」

 「着ないぞ?」

 そもそもサイズとか合わないだろう。

 主に、肩幅、二の腕、袖丈、胸囲に腹回りと……。


 「まぁ、今日はこれでいいわよ」

 「次もあるのか?」

 「そりゃああるし」

 あるのか。次はもっと気軽な格好のがいいな。肩凝るんだが。


 「ところでこのケーキの上の白いのなに?」

 「それはクリームチーズと砂糖を混ぜたものだな。それをフロスティングしてる」

 「へー」

 「中はにんじんだけ?」

 「いやバナナも入ってる」

 「なるほどね。だからしっとりしてるんだ。よくやるわねー」

 「まぁな」

 そういえばユイと星羅が喋ってばっかだが、寧々と静が静かだな。


 「なるほど。ラズベリーのジャム……」

 寧々はスコーンを食べながら、何かを考えているようだ。それは研究者のような目で。

 ちゃんと英国風に焼いてある。

 ちなみに、あのジャムの元になったラズベリーは寧々がご近所さんから貰ってきたものだ。

 虫も入ってなく、かなり酸味のあるいいラズベリーだ。

 もちろん、クロテッドクリームも自作だ。


 静はというと、お茶をグビグビ飲みながら、キャロットケーキ、スコーン、サンドイッチ、チョコ、マカロンと頬張っていた。流石、期待を裏切らない女だ……。


 「ほら、ユイも星羅も食べた方がいいぞ」

 「そうだね」「そうね」

 そのあとは、俺もお茶会を楽しんだ。

 折角綺麗な庭なのに、目の前のお菓子に夢中なのはどうなんだと思うが、まぁ喜んでくれるならいいかと思った。

 俺はというと、庭の花とドレスの華やかさに目を奪われて、お菓子は殆ど口に入らなかった。

 まぁ、喜んで食べてくれたからいいかな。


 その日の夕食時──

 「なぁ」

 「どうしたのよ」

 「なんで星羅はまだドレスのままなんだ?」

 「だってそうすれば特別扱いしてくれるでしょ? ほら、様付けで呼びなさいよ」

 全く、星羅は何を考えているんだか。


 「星羅お嬢様、その格好のままですと、お食事時に汚してしまいますよ?」

 今日の夕食はトマトをふんだんに使った料理だから、跳ねて汚してしまうぞ?

 「うう。分かったわよ、着替えてくればいいんでしょ」

 そうして部屋に戻る星羅。

 ただ、それからもかなりの頻度で星羅はドレスを普段着で着るようになるのだった。


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