番外編19 桜色の不安は風に吹かれて②
朝、起きて違和感を感じた。
何かに抱きつかれている感覚だ。
首だけが動くので、横を見ると、ユイが俺をまるで抱き枕にして眠っていた。
顔を俺の胸に埋めて、時々小さく「ん……」と甘えた声を漏らしている。
それと反比例して、俺を抱きしめる力が強くなっている。
なんでこんなことに?
働かない頭をなんとか動かして思い出す。
そういえば昨日、俺の部屋で眠ったんだったか。
しかし、昨日あんなに不安そうだったせいか、朝まで離さなかったんだな。
なんとなくだが、胸の奥がじんわりと熱くなった。
ユイはいつもみんなの空気を読みすぎて、自分を後回しにしてしまうからな。
だからこそ、こうして不安がったり甘えたりする姿を見ると、素直に嬉しい。
……そして、愛おしくも感じてしまう。
ぼんやりしていたが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
「おい、ユイ起きろ」
「んんー」
俺を抱きしめる力が強くなる。なんでだ。
「ユイさーん。あの……起きてくださーい」
「ん、んー」
「ぐぇえっ!」
変な声が出てしまった。だって仕方ないだろう。くの字になるくらい強く抱きしめられたんだ。
上半身と下半身が繋がってるのが奇跡だ。
「ユイちゃーん。朝ですよー」
「ん、んんーっ!」
「ぐぅおおおおっ!」
伸びをする感じで俺を更に強く抱く。
「あ、ごめ……」
ようやく起きてくれたようだ。
「おはよ、コージ」
「ああ。おはよう……」
俺よく生きてたな。
パジャマを捲る。アザにはなってないみたいだ。
「もうそんな強くしてないし」
「いや、マジで死ぬかと思ったんだが」
「またまたー」
まぁ、それだけ愛が強いと変換してみるが、そうなると、他のみんなのベクトルが気になる。
そんな事を考えていたら、腰のあたりにドンッと勢いよく抱きつかれた。
「もー。今日デートするんでしょ」
「そうだぞ」
「忘れてなかったんだね」
「そりゃあ、な」
にへらっと笑うユイ。今日を凄く楽しみにしてくれたんだな。
だが、その前に朝ごはんの支度とかが先だ。
軽くユイの頭を撫でて、一緒に部屋を出た。
「光司ー、今日休みよね。どうするの?」
星羅が味噌汁を飲みながら聞いてきた。
「うん。それなんだけど……、今日はユイとお出かけしようかなーって」
絶対着いてくるって言われそうだが、昨日のユイを思うと、今日はな……。
「いいんじゃない? 二人でデート」
「えっ、いいの?」
ユイも驚いたらしい。
「別におかしいことないわよ。そりゃあ一緒にいたいけど、そういう気分の時もあるでしょ?」
「なんか、すまんな」
「謝らなくていいわよ、わたしも今度二人っきりでデートしてもらうもの。ふふふっ」
眦を細めて、楽しそうに笑う星羅。
ユイは少し複雑そうな笑顔をしていた。
だが、理にかなってると思った。
一緒に行って牽制するより、それぞれがデートした方が得って思ったのだろう。
こんな考え方失礼だとは思うのだけれど。
それにしても、なんだかんだ言っても星羅もお姉さんやってるな。
口を挟もうか逡巡してた寧々と静が、互いに目配せして頷いていた。
「あたしも、いいと思いますよ」
「ええ。気にせず楽しんできてください」
「だってさ。いっぱい楽しんできちゃいなさい」
「みんなありがとう!」
ユイがニッコリと嬉しそうにお礼を返した。
「ただし!」
星羅が、ニヤッとしながら話を止めた。
「なんだ?」「なに?」
「帰ったら、ちゃんと話聞かせてよね」
「分かった。砂糖吐かないよう気をつけてな」
「何よ。もう惚気てるの?」
「まだ早いですよー」
「えへへ……」
「いいではないですか。わたくしの時は塩を吐かせます」
もしそうなったら、調味料代助かるな。
まぁ、静なりのフォローなんだろう。
俺含めてみんな微妙な顔してるしな。
そんなこんなで、朝ごはんを終えて、出掛ける準備をした。
着替えてリビングに戻ると何やら盛り上がっていた。
「そういう格好も似合うわね」
「可愛さと大人な感じが丁度いいですね」
「春にぴったりですね」
「えへへ……あ、コージ」
「やっぱりユイのコーデはいつも凄いな。似合ってる」
「ん」
頬を朱らめ、左右に揺れている。
改めてユイのコーディネートを見る。
春らしい装いだ。
淡い桜色のオフショルダーニットに白のフレアスカート。やけに丈が短い。
そこに合わせるようにこれは白……いやクリーム色のロングカーディガン。
そして、俺があげた星型のペンダントをつけていた。シトリンの黄色が綺麗に映える。
でも一番びっくりしたのは、今日はツインテールにしていることだ。
ふわふわのツインテールに桜色のリボンまでつけていた。
ユイの勝負髪型なんだな。とてもよく似合っていた。
「その髪型もいいな」
「でしょ?」
「(ピンクの……うさぎさん……)」
静が何かいった気がするが、まぁ褒めてたんだろう。
「じゃあ、行ってくるな」
「ええ。光司を困らせるくらい楽しんできてください」
「そうよー。わたし達に構わず、今日は楽しんできなさい。ユイはもっと甘えていいのよ」
「家のことは任せてください。お話聞かせてくださいね」
「うん。ありがとう。じゃあ行ってくるね」
そうして家を出る。
外に出て、ベージュのパンプスを履いたユイを見る。
本当に春らしくて、何よりユイに似合っていた。
しかし、本当にスタイル良すぎないか?
今まで街を歩いていて、よくスカウトされなかったものだよ。
「なあにそんなマジマジと見つめてー。惚れ直しちゃった?」
「ああ」
「ちょ! ……もう。コージったら最近素直だよね」
「素直にいいって思ったんだ」
この言葉に嘘偽りはない。
「………ばか」
「え?」
「なんでもない。行こ?」
俺の腕に手を掛けるユイ。
「そうだな」
「で、どこ連れてってくれるの?」
「んー。内緒?」
「なんで疑問形だし」
どちらともなく笑い出してしまった。
ユイの腕の温もりを感じながら、俺達は春の街へ歩き出した。




