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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第二章

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番外編18 桜色の不安は風に吹かれて①


 新居へ移って最初の金曜日夜。

 それぞれが思い思いに過ごしていた。


 「そろそろいい時間だな……」

 「そうですね」

 「ふぁーあ……もう眠いわ」

 寧々が相槌を打ち、星羅は大きなあくびをしながらソファに沈み込んだ。


 「めぼしい番組もやってませんしね」

 「じゃあ、寝よっか」

 静がリモコンをテーブルに置き、ユイが少し微笑みながら就寝を提案した。


 「そうだな。俺も疲れたよ」

 最後の最後で難しい案件が飛び込んできたせいで、少し帰るのが遅くなってしまったのだ。

 そのせいか、風呂の後にソファでぼーっとしていて、みんなの相手をしてあげられなかったのだ。


 映画を見ていたが、疲れていて集中できなかった。

 泣ける系の恋愛映画だった気がするのだが、内容が思い出せない。

 いや、両隣に座ったユイと星羅が、何らかのシーン毎に俺を揺らすから余計に覚えていないんだ。

 何か言っていた気がするんだが、上の空だった。


 「……すまんな。先に寝るわ……」

 「ええ。おやすみなさい」

 「わたしも寝るわ」

 「では、わたくしも」

 「…………おやすみ」

 ユイだけがなんだか暗い気がした。大丈夫かな。


 寝室へ入り、そのままうつ伏せでベッドに倒れこむ。

 「ふーーーー…………」

 もう、動けねぇ……。

 頭がぐわんぐわんと回っている気がした。


 暫くそのまま寝落ちしていたみたいだ。

 時計を見ると、二時間以上経っていた。

 ちゃんと布団に入ろうとしたところで、コンコンと控えめなノックが聞こえた。

 「誰だー?」

 「……コージ、あーし」

 ユイか。こんな時間にどうしたんだろうか。


 起き上がり、扉を引く。

 そこにはぎゅっと枕を抱えたユイが立っていた。

 いつもの明るい笑顔はなくて、少し俯いたまま、指先で枕の端をいじっていた。

 目元から下は枕で隠れて見えない。


 「どうした? 眠れないのか?」

 「…………」

 ユイは暫く黙っていたが、枕をぎゅっとさらに強く抱くと、小さな声でお願いしてきた。

 「ねぇ、……、一緒に寝ても……、いい?」

 一瞬迷ったが、こんなユイを放っておけないと思った。

 枕を持ったままユイが視線を彷徨わせていた。


 「分かった。いいぞ」

 「やたっ!」

 ユイは枕を抱きかかえたままベッドに上がった。

 俺もベッドに腰掛けると、枕を置いたユイが俺の背中に触れた。


 「どうした?」

 「ね、ねぇ」

 「うん?」

 「ぎゅーってしていい?」

 ユイは甘えん坊さんだな。


 だが、俺が答える前に、肩に顔を預け、俺の胸の下あたりに腕を通した。

 「ぎゅーっ!」

 「ちょ、強いって」

 「あ、ごめん……。でも嬉しくって……」

 「そうか、じゃあ仕方ない……か」

 「うん! ぎゅー!!」


 静が解けないほどだ。思った以上に力が強くてびっくりだ。

 だが、全く嫌じゃない。少し痛いがな。

 ユイはそのまま訥々と話し始めた。


 「あの、さ……」

 俺の首筋に頬をつけながら話し出すユイ。

 「寧々ちゃん、星羅ちゃん、静ちゃん。みんないい子じゃない?」

 「ああ。そうだなあ」

 そういえば、ユイは二人でいるときだけは、他のみんなをちゃん付けで呼んでいたな。

 普段はキャラを作っているのかもしれない。


 「みんなコージにグイグイ来るし、……あーしも負けないようにって、いつも思ってるんだけど……」

 ユイの声が少し震えた。


 「でも、気がついたら……どんどん離されてる気がして。みんなと一緒にいたいけど、……やっぱりコージの隣にはいたくて……」

 ユイなりに努めて落ち着いて話そうとしているのが分かる。

 でも、ところどころ早口になるのは、不安からくるのだろう。

 俺を抱く腕に、ぎゅっと力がこもる。


 「コージは優しいから、どんどん離れていっちゃう気がして。……ここに来る前の暗い暗い部屋の中で画面越しに眺めてるみたいな気がして」

 確かにユイは少し遠慮したり空気を読んで引いてしまう。

 以前は、『唯』って名前に恥じないくらいグイグイきていたのにな。

 どうしてか、急に意識が遠のくような気がした。


 「コージは、ずっとあーしの横にいてくれる?」

 その言葉に、胸が締め付けられた。

 俺はユイの手にそっと手を乗せた。


 「ああ。もちろんだ」

 「でも、みんなコージの横を狙ってるし……」

 「そう……かもしれないな」

 俺はまだ答えを保留にしたままだ。

 今の状態で安易に答えを出すのは彼女達に失礼だと思うから。

 でも、こんなに不安にさせてしまうのは不本意だ。


 「あーしはみんなの役に立ててるのかな」

 「別にユイはユイのままでいいと思うんだが」

 どうしても空気を読んでしまうんだろうな。


 「本当に? 空回りしてない?」

 「そんなことないぞ。ユイは気がきくし、他の誰かが暴走しても空気を壊さずに止めることができるじゃないか」

 「暴走って……ふふっ……」

 いつも「まぁまぁ〜」って感じで場の空気を整えてくれるのがユイなんだよな。


 でもそれが負担になっていたのかもしれない。

 こんなに派手なのに、一歩引いてしまう。

 それはうちの長女的ポジションがそうさせてしまうのかもしれない。

 みんなのことをよく見ているし、ユイがいるだけで空気が変わるんだよな。


 でも、一番寂しがり屋なのかもしれない。

 もっと甘えたいのかもしれない。

 俺の元へ一番最初に来たのがユイだったしな。

 それによくこうして俺に抱きつくし、常に横にいる。俺のことを一番分かっている気がする。


 「ずっとこうしていたいなぁ……」

 「ユイ…………」

 一体どれほどの時間が経っただろうか。

 一分なのか、十分なのか。それとも一時間経っただろうか?

 気がつくと、いつの間にか抱く力が緩くなっていた。

 振り向くと、ユイがうつらうつらとしていた。


 「そろそろ寝るか」

 「ん……」

 布団の中に入る。

 力は弱いながらも、ユイはずっと俺に抱きついたままだ。


 「なぁ、ユイ」

 「……なあに?」

 「明日デート、するか?」

 「え、いいの?」

 トロンとした目が、大きく見開かれ、興奮しながら返事をした。


 「ああ」

 「二人っきりで?」

 「ああそうだ。二人で。どうだ?」

 「行く! 絶対に行く。」

 「じゃあ早く寝ないとな」

 「分かった。絶対約束だよ」

 「ああ。おやすみ」

 「おやすみー」

 沈んでいた声が明るくなったようだ。

 少しは元気になってくれるといいんだけどな。


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