番外編16 家庭菜園④
家に着く前に証拠隠滅をしてから、帰った。
だってここまで距離あるし、飲んでたら買ってこいって言われそうなんだもん。
だから、コンビニで飲み物をいくつか買っておいた。
ユイが率先して選んだが、どれもこれも甘そうだ。
静は揚げたチキンを買って食べていた。ホント自由だな。
帰ってきて東側の庭へ行くと、いつの間にか殆ど植え終わっていた。
支柱もちゃんと刺さっていた。
「おおー。凄いな。というか、植え終わるの早いな」
「星羅が手伝ってくれました」
「そうか。星羅、寧々ご苦労さん」
そういって、買い物袋を差し出した。
「あら、気が利くじゃない。ありがと」
「ありがとうございますー」
「いえいえいいんですよ。わたくし達はさきに……むぐっ」
「はーい。静そこまでっしょ」
ユイが慌てて後ろから静の口を塞いだ。
「なに?」
「ナンデモナイヨー」
「どうして片言なんです?」
「この体勢がきつくて」
「ふーん」「へー」
星羅も寧々も信じてないようだぞ?
というか、静は最近迂闊すぎないか?
ユイが最近お気に入りの『っち』をつけるのを忘れるくらい早かった。
別につけなくてもいいと思うんだけどな。
星羅が豪快に音を立てながらいちごオレを飲んでいく。
寧々はコクコクと喉を鳴らしながらオレンジジュースを飲んでいた。
それにしても綺麗に植えてあるな。
「あ、そうだ。光司さん聞いてくださいよー」
「どうした?」
「星羅ったら酷いんですよ。ミミズさんを毎回手にとってあたしに見せるんです」
「星羅、虫とか平気なのか?」
「え? だってミミズだって可愛いじゃない」
うーん。その感性は分からないが、星羅なりの感覚なんだろうな。
こればっかりは、分かり合えないらしい。
「寧々、これからは虫が出たら星羅が取ってくれるみたいだぞ」
「任せなさい」
ほんの少しのイタズラ心でいったつもりが、花を持たせてしまったようだ。まぁいいか。
うちの女王様は心が寛大らしい。
「じゃあ、星羅、先ほどのミミズさん全部回収して欲しいのですが……」
「でも土の中にミミズがいた方がいいらしいぞ」
「でも……」
そんなに虫嫌いなのか。これ、カエルとかカタツムリでたらどうなるんだろうか?
そんな星羅は何処吹く風だ。
「ねーユイ」
「なにー?」
「花植えるの手伝ってー」
「いいよー」
感覚派の二人が花壇の方へ行ってしまった。
まぁ、あの二人のセンスで庭がどうなるのかは気になるな。
「むぅー」
寧々は頬を膨らませながら、ストローを盛大に吸っていた。
飲み終わったと同時に、機嫌も落ち着いたのか、寧々がお願いしてきた。
「では、光司さんすいません。あっちにまだ植えるのが残ってるので、土を運んでもらってもいいですか?」
「分かった」
静は縁側で見ているだけだな。
まぁ、得意不得意ってあるからな。
星羅も静側だと思ってたが、まさか逆だとは思わなかった。
そう思いながら、土の袋を持ち上げた瞬間──
「に゛っ!」
そのまま、膝をついてしまう。
アカン……。無理をしすぎたか。
「だ、大丈夫ですかー」
「ダメ。ムリ。シヌ」
「そんな……」
寧々が悲痛な顔をしている。申し訳ない。
「こういう時のためのわたくしですね」
そう言ってそばに来た静は片手でそれを持ち上げた。
「どこへ運ぶんです?」
「あ、こっちです」
すげぇや。どっかの軍人さん並みに男らしい運び方だ。
「あの、静さんや」
「どうかしましたか? まだ痛みますか?」
「ちょっと身体痛いんで動けないんですが、これは圧倒的に違う気がします」
「何が違うのですか?」
「顔の向きです」
そう。あの後、お姫様だっこで縁側まで運ばれた俺は今、静に膝枕されている。
静の理論では、安静にすることが大事らしいのだが、なぜかうつ伏せにされている。
これ絶対に悪化するだろ。まぁ、実際そこまで痛くはないからいいんだが、問題は顔の位置だ。
なぜ下向きなのか。
「適正です」
「うそつけ。この膝枕の顔の位置はおかしい」
実際俺の鼻息とか太ももに当たってると思うんだが……。
「少し前に見た文献では、日本にはこうした膝枕の作法があると……」
「ねーよ」
堂々と言い切るから、本当にそう思ってる可能性もあるが、なんせ静だ。冗談の可能性も高い。
「静さーん。終わったら次、あたしと交代してくださーい」
「分かりました」
いやいや、寧々も何やろうとしてるんだよ。
動こうとすると、静の力で押さえつけられる。
「安静にしていてください」
「ぐっ」
「そこは普通に喜ぶべきところだと思うのですけどねぇ」
一体どこにそんな力があるのかは分からないが、俺にはもう抵抗する気力も体力もない。
ユイと星羅が見たら、またぞろ騒ぎ出すぞ?
「コージー、こっち終わったよー。もう完璧ー……って、何してるし!」
「もうわたしったら天才ね……って、静あんた何してんのよ!」
ほらね。こうなったら俺にはどうしようもない。
寝たふりしよう。そうしよう。
起きたら全部。この腰の痛みも含めて解決してるんだ。
「光司ちょっと、何か言いなさい」
「光司は今お疲れですので」
「何でこの向きなん?」
「腰をいわしてしまいまして」
「じゃあ、逆向きじゃない!」
「ほら、コージも反応なくなってるし……」
本当に疲れていたのか、この辺で俺の意識が無くなっていた。




