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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第二章

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番外編11 静のチャーハン


 「あ、光司さんお帰りなさい」

 「ただいま。他の三人は?」

 「唯さんは、何か裁縫を。星羅も何か作ってますね。静さんは何やらスマホと睨めっこしてます」

 「そうか」

 今日も光司さんが、仕事から帰ってきてくれた。

 こうして、お出迎えすると、本当の奥さんになったみたいだ。

 光司さんが、リビングに入ると、唯、星羅、静と慌てて出てくる。

 「おっ、おかえりー」「おかえりー」「おかえりなさいませ」

 こうして、三人の前で光司さんの横にいると、まるで……。


 「今日は、あたしが料理作りしました」

 「いつも悪いな」

 「いいんですよ。料理を作るの好きですから。それにあたしはみんなのお母さんですから」

 そう。こうして牽制しておけば、名実共になれるかもしれないのだから。


 「それに、光司さんも、すぐ帰ってきてくれますしね」

 会社も近く、定時で帰ってきてくれる。

 だから、いつもは光司さんが作るのだけど、あたしも結構覚えたので、今では半々で作っている。

 今日はあたしの番。ふふっ。


 「では、すぐに用意しますからね」

 光司さんは手を洗いに。娘達……、おっといけませんね。

 唯は食器の用意を。なんだかんだ一番お嫁さんスキルが高い、一番のライバル。

 星羅と静は既に席に着いている。本当に光司さんを取り合う気があるのだろうか。

 きっと、あたしには出来ない方法で籠絡するのだろう。

 あたしに出来ることは、光司さんの舌と胃袋を征服することですね。


 光司さんに教わりながら。あと、ネットで調べながら料理スキルを磨いていく。

 知識だけでは、なかなかどうして完璧にできないもの。

 でも、一から積み上げていくこの作業はとても楽しい。

 無数にある料理レシピを一つ一つ覚え、組み合わせていく。

 その無限とも思えるバリエーションが愛おしい。

 その時その時の光司さんの反応が嬉しい。

 永遠に続けられるライフワークかもしれない。


 「寧々ー、今日のご飯なに?」

 星羅が席に座ったまま問う。

 「はい。今日は和食に挑戦してみましたー。芋の煮っ転がしと、ほうれん草のお浸し。あと、切り干し大根。芋がらの味噌汁。メインは銀鱈の西京焼き。お米は芦野産を炊きました」

 味噌汁の具は、光司さんの好きな具ランキング第三位ですからね。


 「寧々ったら、完璧ね」

 早速箸をつけようとしたので、慌てて止める。

 「ちょっと星羅早いですよ!」

 「えー、ちょっとくらいいいじゃない。味見よ味見」

 「ダメです。ちゃんとみんな座ってからです」

 そう。みんな揃ってからです。抜け駆けはよくありません。


 「不満そうな顔してもダメなものはダメです。ステイ!」

 「ちょ、わたしは犬じゃないわよ」

 静にわしゃわしゃしてもらってください。


 「芋の煮っ転がしに刻んだ柚の皮を散らすこの一手間……脱帽です」

 静が一度パーカーを被って脱いだ。わざわざそんな仕草しなくてもいいのに、このあざと可愛さズルいです。


 「寧々っちはホント料理上手だよねー」

 あたしがよそった小鉢を唯がテーブルに並べていく。

 この見た目とのギャップはとても敵わない。

 そもそも唯は、見た目と言葉遣いだけで、中身はギャルじゃないと思います。


 どっちかというと、星羅のがそれに近い気がする。

 そんなことを考えていたら、いつのまにか用意が終わっていた。

 光司さんも席に着いたところで、みんな手を合わせた。

 「「「「「いただきます」」」」」


 「はじかみまである。凄いな……」

 光司さんが驚いてる顔が堪りません。

 そんな中一人、静だけが黙々と食べている。

 普段と違って、少し考えながら食べている。

 何か気になる点でもあるのだろうか?

 だが、この日は何もなく食事が終わった。

 みんな絶賛していたのに、気になります。


 翌日のお昼。

 「寧々、わたくしも料理を作ってみたいのですが」

 「えっ!?」

 意外だ。食べる専門だとばっかり思っていた静が、作りたいと言い出した。思わぬ伏兵だ。


 「えっと……、出来るんですか?」

 「昨日、YOUTUBE見て覚えました」

 昨日ずっと見ていたのはそれだったんですね。

 「ということで、本日のお昼はわたくしにお任せいただきたいのです」

 「……分かりました。一応あたしも見てますね」

 「大丈夫だとは思いますが、まぁ、よろしくお願いしますね」

 「……はい」

 なんでしょう。不安しかありません。


 「ところで何を作るんですか?」

 「チャーハンです」

 「チャーハン?」

 「ええ」

 それから静は、中華鍋の適正温度とか、油の量とか、ご飯の投入角度とか、振る回数とかどこかのポンコツAIみたいな無駄な理屈を語って聞かせてくれた。


 殆ど必要ないなと思い、聞き流していたら、いつのまにか中華鍋を空焚きしていた。

 「ちょ、ちょっと静さん!?」

 中華鍋はもうもうと白煙を上げていた。

 「まだです。もっと煙が出てやっとカラ焼きが完了します」

 『火事です火事です! ウーウー! 火事です火事です!』

 火災報知器が鳴り出した。

 「はわわわわ」

 それでも動じない静。そこに星羅が来てボタンを押して戻っていった。

 そして椅子に座ってスマホをいじりだした。

 どうして動じないのか分からない……。


 「では、油ですね」

 異常な量を入れる。

 「ラードも入れます」

 確かに中華は油が多い方が本格的ですが……。


 「次に卵を入れます。少し目玉焼きとして育てて……」

 いつ入れたのか、電子レンジの電子音が鳴りっぱなしだった。

 「軽く潰して、温めたご飯を入れます」

 手際よく混ぜていく。まぁあたし達なら造作もないですが、ここまでは普通は出来ないはず。


 「今回は具の用意がありませんので……」

 冷蔵庫からバットを取り出す静。てっきり光司さんが入れたものだとばっかり。

 「スーパーとかで売っている刻みネギならいい感じに水分が飛んでいるので、刻むだけでいいのですが、買ってもらってなかったので、昨晩刻んでペーパータオルを敷いたバットに敷いて水分を飛ばしておきました」

 聞いてもないのに、丁寧に説明してくれる。


 ネギを入れる前に、調味料を入れる。

 「わたくしはよりジャンキーな方がいいのでハイミーを」

 そして、塩と多すぎるくらいの黒胡椒、ネギも入れた。

 勢いよく混ぜて、紹興酒を入れてなんども煽るように振った。


 「………………」

 そして静はお玉で掬って皿に、ドンっと盛った。

 「完成です」

 「はい……」

 コンロ周りに散らばるご飯とネギ……。

 「では、ご飯にしましょう」

 あたしただ立ってるだけだったな……。


 「うっわ。うまっ! これ美味しいよ静」

 「そうでしょうそうでしょう」

 「いいわね。わたしも何か作ってみようかしら」

 「ええ、ええ。それがよろしいかと」

 唯と星羅は大絶賛している。

 確かに美味しいです。悔しいくらい美味しいです。

 でも……。


 「寧々さんはどうですか?」

 「はい。美味しいですよ」

 「それは良かった」

 「ですが……」

 あたしが、言い淀むと小首を傾げる静。

 もう、そういう不意打ちの仕草があざと可愛いんです。


 「静さん。片付けもやっての料理ですからね?」

 「え、ええ……」

 「お米とネギ。あと油はね。凄いことになってます。あと火災報知器がなるのはアウトです」

 「……はい。善処します……」

 全く……。やりたいことをやるのはいいですが、もう少し考えて行動してもらいたいです。

 まったく。お母さんは疲れますね……。

 「寧々、何か楽しいことでもあった?」

 「いえ、なんでもないですよー」

 あたしももう少し修行が必要みたいです。


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