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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第二章

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番外編2 引越ししよう


 そろそろ契約更新の時期だ。それに合わせて家賃の値段も上がるため、引越ししようとしたのだが……。


 数日とはいえ慣れ親しんだ家から離れるのは寂しいらしい。

 だがいつまでも狭い部屋で雑魚寝させるわけにもいかないし、俺もずっとソファで寝ていると辛い。

 そんなこんなで池袋周辺で探すことにしたのだが……。


 「たっか!」

 思わずユイみたいなつっこみを入れてしまった。

 今住んでいるところがいかに安いかを思い知らされた。

 まぁ周辺の環境とか訳あり物件だったからな。

 しかし、どうするか……。


 こんなことを話すと、自分達で出すと言いかねない。

 そんなことを考えながら店舗を回っていると、一件明らかに異常に安い物件を見つけた。

 しかも戸建で、5LDK以上ある。明らかに事故物件なんじゃないだろうか?

 よく見ると、他にもいくつか異様に安いのがあるが、この一件だけ特に異常だ。相場より三十万くらい低い。


 数歩下がって、改めて看板を見上げる。

 『伊勢貝不動産』


 なんか訳ありっぽそうだが、ちょっと気になったので入って少し話を聞いてみることにした。

 「すいませんーん」

 「いらっしゃいませー」


 出てきたのは、あまりにも場違いな濃紺のイブニングドレスを着た胸の大きい女性だ。

 しかも真紅の長い髪の毛をアップでまとめて、ド派手な羽みたいのを何本も刺していた。

 目もカラコンを入れてるのか黄緑だし。

 ここ飲み屋じゃないよな?


 「すいません。窓に貼られた物件でちょっと気になりまして」

 気にはなるが、物件への興味の方が優った。

 「はいはい。どの物件ですか?」

 見た目とは裏腹に丁寧な対応だ。


 「あ、これなんですけど……」

 裏側から貼られた箇所を指差す。

 「あー、そこですね。はいはい。いい物件ですよー」

 「なんでこんな安いんです? もしかして……」

 「はい。事故物件なんで」


 やっぱり。というかそんなあっさりと言うんだな。そっちの方にびっくりだ。

 まぁこの値段ならそういうもんだろう。

 こんな大きな物件だ。一体どんな瑕疵があったというのか。


 「あの、何があったんです?」

 「あら、もっと驚くと思いました」

 見た目通りに妖艶に微笑む女性。


 「あ、申し遅れましたね。ワタクシ、こちらで社長をしております伊勢貝往世と申します」

 「あ、これはご丁寧にどうも」

 名刺をもらう。なんかキャバクラでもらうような感じの派手な名刺だ。

 本当に不動産屋さんなんだよな?


 「ふふ……」

 そしてこの微笑みだ。勘違いしちゃう人もいるんじゃないか?

 生憎と俺には四人の娘がいるからな。靡かん。


 そんな俺を品定めするかのように見て大仰に頷くと、先ほどの話の続きを話した。

 「あなたは異世界転生とかご存知ですか?」

 ああ、やっぱり最近のスタンダードなんだな。


 「ええ。この前区役所で聞きました」

 「あら。驚かないんですのね」

 目を見開いて驚く伊勢貝さん。逆に驚いたようだ。

 俺の頭の先から下まで見る。


 「あの、日本の一般の方ですよね? 現代の……」

 「ええまぁ」

 「…………」

 少し黙って考える仕草をする。

 「……でしたら、話は早いですね。そちらの物件は、以前住んでいた方が……」

 もしかして集団で異世界に飛ばされたとかか? それだと困るなぁ。現代で事足りてるし。


 「そちらはかつてハーレム系主人公を目指そうとした方が複数の女性と住んでまして……」

 よくあるよね。女の子がみんな好感度異常に高いやつね。

 あれおかしいんだよな。普通、女子しかいない中で男一人放り込まれたら、その男に人権なんて存在しないんだから。

 大抵いいコマ使いになるのが関の山って感じだが、うちはなんだかんだ平衡してるよな。


 「で、その方がやらかしまして……ハーレム解散となりまして……」

 「それでなんで事故物件になったんです?」

 「魔法とかぶっ放して、イメージが悪くなりまして。あ、ちゃんと住めるようにはなってますよ。大きく修繕もしましたし」


 まぁ治ってるならいいか。安いし。これなら俺の給料で余裕で払えるしな。

 庭もあるし、二台停められる駐車場もある。なんなら買えるまである。


 「すいません。ここ契約したいんですけど」

 「即決ですね。見学しなくていいんですか?」

 「あ、そうですね……家族と来てもいいですか?」

 「もちろんです」

 口角を上げて微笑む伊勢貝さん。映画に出てそうな笑顔だ。



 その後、ユイ達四人と共に内見する。

 「いいじゃないの?」

 「ええ。キッチンも広いですしね」

 「壁も厚くて、大声だしても大丈夫そうね」

 星羅よ、一体何をする気なんだ……。


 「ですが、ここにかすかに焦げた跡があります。あと、ここ何かしらの残滓があります」

 静がそんなことを言うが、俺には何も見えない。


 伊勢貝さんが、手で空を切るように何かをすると、静は静かに頷いた。

 マジで何があったんだよ。


 それを見て、ユイと星羅も負けじと違和感のある箇所を見つけていく。

 「あっ! ここここ。ここも残ってるよー」

 「あら。こんなところにまだ意固地なものが」

 一体何があるっていうんだ。

 俺と寧々だけがその場に佇んで見ていることしか出来なかった。


 だが、最後に寧々がぽつりと呟く。

 「ここが一番残ってますね……」

 だから何が?

 伊勢貝さんが、両手を高く上げて何かを呟くと、白い粒子が拡散するように光った。

 今更だが、あのドレスのスリット深すぎないか?

 腰の辺りまで入ってるし、素肌しか見えないんだが……。


 「オッケーっしょ」

 「ええ。これでもう何もありませんね」

 「残ってた方が面白いのに」

 「ダメです。夜な夜な動かれても困りますし」

 待って待って。え、何があったの?

 俺だけ何も見えてないし、知らされないの怖いんだけど。全然オッケーじゃない。二つの意味で。


 ただ、揉め事があったとしか聞いてないんだけど。

 だが、値段の安さと広さには変えられない。

 二つ返事で契約を交わした。

 まぁ、あとは引越しするだけだな。


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