33 学校へ行こう③
英愛学園の会議室では教師陣が頭を抱えていた。
学園は偏差値が高く、帰国子女も多い。
過去には満点で合格したものも何人かいた。
だが、今回はどうだろうか。
取り急ぎ採点していたところ、四名の生徒が満点合格していたのだ。
御坂唯、喜築寧々、喜築星羅、人見静。
それぞれ別の人物なのに、こうも似るのだろうかと。
それも、完璧な答案であり、一分のミスのない模範解答より優れた答案であった。まるでAIで作成したかのように。
しかも、監督教官が言うには、あっという間に答案を仕上げたという。
そこに、第三者の介在する余地はなかった。いや、不可能だった。まるで、スパコンが解いているかのようだったと。
それゆえに教師陣は頭を抱えていた。
一体誰に新入生代表のスピーチをお願いするべきかと。
こんな優秀な生徒が四人。
まだ、面接が残っていた。
その面接で決めようとしたのだが……。
確かに個性を重視するし、優秀であれば容姿は関係なかった。なかったのだが──
「あーしは、ここに入って、みんなと仲良く高め合っていけたらいいかなーって」
「なるほど。具体的には、どういったことを?」
「うーん。まずは、自立しつつも他人を助けられるくらいの資金力とー、それに見合った発想力と努力が必要かなー」
「は、はぁ……」
「あ、信じてないっしょ。じゃあ詳しく話すとー──」
立ち上がり、椅子の周りを歩き出す。
「!?」
一人目の御坂唯はギャルだった。
まごうことなきギャルだった。明らかに受ける学校を間違っているのではないかと問いたいレベルで。
その割に受け答え方は常識人であった。ただし、言葉遣いを除いて。
多分、インスピレーション型なんだろうと結論づけた。しかし、彼女の言う内容はやけに具体的で、ついついメモってしまった。
「あたしはみんなが仲良く暮らせればそれでいいですね」
「なるほど。家族が大事、と」
「ええ。誰にも渡す気はないんですけどね」
目を細めてニッコリと微笑む。
「ひっ!」
「どうかしましたかー?」
「い、いえ、なんでも……ないです」
「そうですかー? じゃあ今後の具体的な話をしますねー」
「──(なんという壮大な計画だ……女神か?)」
二人目の喜築寧々は見た目通り朗らかでまるで聖母のようであった。
思わずその場に跪き祈りそうになるほどに。
でも、微かに感じ取った毒に戸惑うしかなかった。
「わたしがこの学園に入った暁には、生徒会長に立候補し、名実ともに支配者を目指して──」
「支配者というのは、将来的な意味ですか?」
「何言ってるの? そのまんまの意味よ」
クスッと笑って、髪の毛を耳にかける。
「あー、えっと……、そういうのは入学後にしていただけると……」
「あ、はい。すいません……」
三人目の喜築星羅は別の意味で跪きそうになった。まるで女王様のように堂々と支配者の貫禄を見せていた。
だが、たまに素の返答をする為、どうして演技をしているのか疑問を抱いたのだった。
「では次に、御校の教育理念、経営状況、過去の実績、現在進行中のプロジェクト等について質問してもよろしいですか?」
「あっはい。弊校といたしましては──」
「……」
足を組み替える静。
「弱いですね」
「弱いですか?」
「ええ。わたくしなら──」
四人目の人見静はある意味で完璧であった。
だが、完璧過ぎるがゆえに、心を寄せる余裕がなかった。
寧ろ逆に面接を受けている気分になり、どちらが面接官なのか分からなくなった。
なんというか、補助金の申請をしている気分になった。それはきっと途中から始まったプレゼンのせいだろう。
それぞれ違う苗字なのに、保護者も苗字が違う。
それぞれ海外にいる子の叔父とのことだが、そこにも疑問を抱かざるを得なかった。
なぜかその人物に対しての質問の時だけ、恋する乙女のような表情になるからだ。
だが、今はそれを議論すべきではないと判断した。
それに個性を重視する学園運営であり、成績は優秀なのだ。不合格にする理由など微塵も思い至らなかった。
*
「ど、どどどどうひまひょう!」
「寧々落ち着きなさい」
星羅が寧々を抱きしめながら頭を撫でる。
落ち着いたのか、ゆっくりと話し始めた。
「あ、あたしが新入生代表のスピーチをやることになっちゃったんです」
「ああそのこと…」
星羅が不満そうに言う。
「し、知ってたんですか?」
「てっきりわたしだと思ったのに。見る目ないわね」
不満を隠そうともしない星羅に同調するのが静だ。
「わたくしも解せませんね。わたくし程完璧な人物はいない筈なのにです」
「いや、わたしの方が相応しいわ」
「いいえ、わたくしです」
収集がつかなそうだと、そっと抜け出して唯の元へゆく寧々。
「唯さんどうしましょう」
「んー。寧ろ寧々っちしか務まらないって思うけどなー」
「ええっ! で、でも唯さんもちゃんと答えてたじゃないですかー」
「いや、あーしは無理っしょ」
確かにこの見た目では無理かと思う寧々。
なぜこの格好で面接に行ったのか不思議で仕方ない。
「や、あーし、目立つの苦手だし?」
どの口で言うのかと問いただしたくなった寧々。
こんな見た目派手なギャルが目立つのが苦手とかなんの冗談かと思った。
チラッと見ると、星羅と静は変わらずマウントの取り合いをしていた。
光司は仕事でいない為、相談も出来ない。LINEでメッセージを送ったが、『寧々なら大丈夫。自信持って→』と返信だった。
それ自体は嬉しいのだが、恥ずかしさと未知の体験に緊張してしまう。
まだ入学式まで期間があるのに、このままでは激痩せしてしまうほどに萎縮していた。
「あ、あのっ!」
いつも以上に大きな声で問いかける。
「どしたん?」「どうしたの?」「どうかしましたか?」
「す、スピーチの原稿……一緒に考えてくれませんか?」
本来の寧々なら完璧なスピーチの原稿を作れただろう。
だが、課せられた期待と未知の重圧で、上手く作れる自信も無かった。
そして、みんなで行く学園だ。
自分一人の気持ちだけでなく、みんなの気持ちを含めて作りたいとも思ったのだった。
「寧々っち……」「寧々……」「寧々さん……」
それぞれが慈しむように見つめ、二つ返事で協力すると返事した。
だが、寧々は後悔した。
それぞれのエゴが混ざった闇鍋のようなスピーチ原稿は、とても発表出来るものではなく、急に頭が冷えた寧々は、自身でちゃんとしたスピーチ原稿を作り上げたのだった。
それは、過去から未来に至るまで、最高と謳われるスピーチだと学園の伝説になったのだが、その伝説が語られるのは、まだ先のことになる。




