30 世界一位
「どうした? 顔色悪いぞ?」
「あ、ええ。なんでもないです……」
「そうか? まぁなんかあったら相談に乗るから」
流石に国家予算レベルの送金されて平然としていられるほど、俺の心は強くない。
とりあえず、現実逃避するように、二兆円かー。バルト三国と同じだなー。ITとかAI強いよなーなんて思いながら、仕事をこなした。
「初日から随分と完璧に出来るねぇ」
「え? ああ、はい。そりゃあもちろん」
「やっぱりキミを引き抜いて良かったよ。ホント優秀だよね。カレみたいにもっとガツガツしていいと思うんだけどねぇ」
「はは……」
正直、ちゃんと給料貰えれば文句はなかったんだよな。ちゃんと貰えてたかは別問題だが。
「ご苦労さん。じゃあ今日は帰ろっか。ボクも夕食の準備があるからね」
「そうですね」
かつていた場所を見ると、昼前と変わらずに盛り上がっていた。
だが、そんなことより俺はあいつらに問いたださないといけないことがある。
脇目も振らずに家へと帰る。
「ただいま……」
「あっ! おかえりー」「おかえりなさい」「おかえり」「おかえりなさいませ」
四人は朗らかに微笑んでいる。
胸がチクチクと痛むが、ちゃんと言わないといけない。
だが、その前に彼女達から先に話題を切り出した。
「どうだった?」
ユイが後ろに手を組んで左右に揺れている。その動きは反則だろう。
「あたしも聞きたいです」
胸の前で拳を握って覗くように見上げる寧々。
「ちゃんと入ってたでしょ?」
腰に手を当てて、もう片方の手を口元に当てて微笑む星羅。
「わたくし、出来ないことは言いませんから。有言実行というやつですね」
微笑みながら、カエルのぬいぐるみを抱いていた。
そんなキラキラした目で見ないでくれ。怒るべきか、感謝すべきか分からないだろ。
「すまん」
「ど、どうしたの? もしかして足りなかった?」
ユイが不安そうに聞いてきた。
「いや、戻した」
「はあ?」「はい?」「は?」「…………」
「あんな金額受け取れるわけないだろ?」
「なんでよ」
星羅が俺の前に立つ。その瞳は少し潤んでいる。
だって、仕方ないだろう。
あんな金額受け取ったら、銀行や税務署やら、絶対面倒なことになる。
あれ、贈与税とか発生しないんか? 半分くらい持ってかれるだろ、多分。
そんなことを説明したら、渋々引き下がってくれた。
「というか、あれだけの金額どうしたんだよ」
「ああ、あれですか。あれは光司と過ごすために稼いでいたものですよ」
静が淡々と説明する。
「稼いだ?」
「ええ。株とか為替とか、ネットを使えば出来ることは全てしましたね。わたくし達にかかれば朝飯前ですね。まぁ、今は夕飯前なんですけどね。ぷぷっ……」
静のツボが分からないが、とんでもないことをさらっと言ってるな。
「わたし達最強だしね。まぁ、あれは挨拶がわりみたいなもんよ」
「そうですよ。あれはあたし達の愛の形です」
「愛の形?」
「多ければ多いほど、愛してるってことよ。ニブチン」
とんでもない理論だ。ロマンス詐欺って言われても否定出来なくなってしまった。
「まぁ、わたし達今世界で一番お金持ちだしね」
「は?」
「だからー、わたし達が今、世界で一位なのよ。総資産額」
「あ、ごめん。あーし四位」
ユイが照れながらそんなことを言う。
「え?」「どういう……ことです?」
寧々だけが気づいたのか、黙って悔しそうな顔してる。
「あーし、多めにコージに送金したし。つまり、あーしの愛が一番大きいってことっしょ?」
後ろに組んでいた手を外し、口元を両手で隠して朱くなるユイ。
そんな理論通ってたまるか。
「なるほど。それは盲点でした。でしたら、あたしも追加で」
待ってましたと言わんばかりに寧々が両手を合わせて、ニッコリ頷く。そして、それに続く星羅と静。
「そうね。わたしとしたことが迂闊だったわ。レイズよ」
「唯さんには敵いませんね。ですが、その理論は正しいですね。わたくしも乗りましょう」
「あ、じゃああーしももっと……」
「待て待て!」
「なんで止めるし」
「そうよ。素直に受け取っときなさいよ」
「そうですよー。そうすれば仕事しないでずっといられますよ?」
「かわいいわたくし達と動物さん達と幸せに暮らせるんですよ?」
静だけ、さらっと自分の希望を混ぜるな。
「あのな? 俺は自分の稼ぎで養いたいんだ。そんな使いきれない金もらっても、俺が困るんだ」
気持ちは嬉しい。嬉しいのだが、素直に喜べない。
それに、そういったものは自分の為に使って欲しい。
「でも、いっぱい買って貰っちゃったし……」
「ああ、そんなことか」
もしかしてそれを気にしてこんな倍返し。倍ってレベルじゃないが、お返ししたかったんだろうか?
「じゃあ、いつか少しづつ返してくれたらいいよ」
「コージ……」「光司さん」「あはっ……光司様っ」「光司くん……」
呼び方が戻っているが、まぁいいか。
「そんなことより、お腹減ってるだろ?」
「うん」「はい」「もちろん」「ええ」
「すぐに作るよ」
昨日のビーフシチューが残っていたから、オムライス作って、ソースかければいいかな?
「あ、忘れてた」
星羅が思い出したとばかりに手を打つ。
他の三人もどうしたのかと立ち止まる。
「これ、言わなきゃダメよね。お風呂にする? ご飯にする? そ・れ・と・も?」
「お風呂入れ忘れてました」
星羅が艶っぽく言ったのに、寧々の気づきで台無しになってしまった。
俺は星羅の肩をポンと叩く。
「ご飯だな」
「う、うん……」
こういうバカバカしいのだけで、十分なんだよな、俺は。




