27 善意
翌日。
流石に三日連続で星羅の寝ぼけは無かったようだ。
昨日は星羅とユイがゲームで勝ってたからな。
軽く伸びをして起きる。
今日から会社か……。楽しかったなぁこの三日間は。
さて、用意するか。
「えー、会社ー!? いいじゃん。ずっとあーしらといよーよー」
「そうですよ。まだ何にも進展してません」
「すまんな。社会人は働かないといけないんだ」
「むー」「むぅ……」
「まぁまぁ、仕方ないですよ。この三日間一緒にいてくれたことが奇跡なのですから」
静がユイと寧々を宥めるように話す。そして、星羅が一歩前へ歩み出た。
「そうね。ねぇ、光司……」
「ん?」
「早く返ってきなさいよね」
「分かってるよ」
全く。仕事に行くと言っただけで、朝からこんなに縋られるとは思わなかった。
あ、でも火を使うのとか危ないな。
「俺が帰ってきてから夕飯作るからな」
「はい……」
寧々がしょんぼりしている。まだ危なくて任せられないからな。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃーい」「行ってらっしゃいませ」「行ってらっしゃいな」「行ってらっしゃい」
それぞれ違った温度だけど、暖かい。頑張れそうだ。
*
「光司行っちゃったね」
「ええ。お仕事ですから、仕方ありません」
それぞれリビングに戻り、椅子に座る。
「光司さんがいないと寂しいですね」
寧々が愁いを帯びた表情をする。
「そうね……」
星羅が寧々をそっと抱く。寧々も星羅に身体を預ける。
「遠くへ……行ってしまったんですね……」
静が窓の方へ顔を向けた。
「ちょっと待つし!」
「何ですか」「何よ」「どうかしましたか」
唯は立ち上がり大きくジェスチャーをした。
「なんで光司が死んじゃったみたいな雰囲気で話すし。仕事行っただけじゃん」
「まぁ、そうね」
「ちょっと寂しさが勝っちゃいました」
「わたくしは別に間違ったことは言ってませんよ」
「もうー」
唯が呆れたようにため息を吐いて座る。
「まぁでもあれだね」
「そうね。あれよね」
「あれってなんですか?」
「静さん空気読んでください」
テーブルの上にはお弁当箱が四つ置いてあった。
「これさぁ」
「ええ、みなまで言わなくても分かります」
「オカンだよね」「お母さんですね」「ママよね」「母親ですね」
それぞれが同時に言うと、盛大なため息を吐いた。
「おかしい、おかしいよ」
「ホントよ。一体どうしたらこんなことになるのよ」
「見てくださいこれ。可愛らしいお弁当ですよ」
静が弁当箱を開ける。
小さなおにぎり。海苔を巻いたものと、混ぜご飯のおにぎりだ。今日は鮭とわかめだ。
おかずはタコさんウインナー、厚焼き卵、ささみと大葉のフライ、ミートボール(トマトソース)、蒸したブロッコリーとにんじん。そしてプチトマト。ちゃんとヘタを取ってある。
「女子力が高い!」
「これで女装して、女性の口調だったら完璧だわ」
「女装しても光司さんは綺麗だとあたしは思います」
「そこは別に肯定しなくていいのよ」
星羅が寧々の頭を撫でる。
四人がそれぞれ弁当箱を開けて眺める。
「朝早く起きて、これ作って、朝ごはん作るんでしょ? 凄いわ……」
「コーヒーも淹れてるわね」
「そうね」
「頼りっぱなしですね」
寧々と星羅が息をのむ。
唯が三人の方に向く。
「あーしらも出来るようにならないとまずくない?」
「まずいですね」
「美味しいですよ」
「ちょっと静、それお弁当。お昼に食べるやつ」
「あ、そうでした。つい……。でも、お腹が空いたらお菓子を食べたらいいのです」
「いいのですって、そんなマリー・アントワネットみたいな言い方してー」
「ふふ。唯さん。マリー・アントワネットは、パンが無かったら、二等小麦で作るブリオッシュを食べればいいと言ったのですよ?」
「知ってるし。てか、今食べたら無くなっちゃうって話じゃん」
「でも確かにうまいわ。悔しいくらいにね」
「なんで星羅も食べてるし」
「だって美味しそうだったんだもん」
「まぁ、そうだけどさー」
唯と寧々は食べずに写真を撮るにとどまった。
静と星羅は我慢して蓋を閉めた。
「いつかお弁当作って渡す側になりたいなー」
唯の提案に他の三人も頷いた。
「分かります」「分かるわー」「そうですね」
そして、唯が続ける。
「でも、さ。どうせなら一緒にいたいよね」
「そうね」
「ねぇ、例の計画……準備、できてる?」
「完璧です」
「あたしも完璧です」
「あーしもだよ」
「わたしもよ。これで光司が働かなくてもいいのかしら?」
「どうでしょう。でもきっかけにはなりそうですね」
「ふふ。喜んでくれるかなー」
「喜んでくれると嬉しいですね」
四人はそれぞれスマホを取り出した。
「じゃあ、最終確認するわよ」
「はーい」「はい」「ええ。いつでもいけます」
四人はスマホの画面を見ながら、満足げに頷いた。
「これで大丈夫ね」
「ええ。問題ありません」
「バッチリだよー」
「完璧です」
誰かがそう呟く。
その表情は、どこか無邪気で──
少しだけ、ズレていた。
そして、四人は一斉にスマホを操作したのだった。




