26 壊したくない日常
まずはお昼用に寧々の言っていたチキンのトマトクリーム煮とバゲット。
デザートはほうじ茶のティラミスかな。
食べてくれる人がいるっていうのはいいね。作りがいがある。
こっちはほぼ完成だ。
そう思っていたら、チャイムが鳴った。
どうやら一昨日頼んでいた衣装ケースなどが届いたみたいだ。
四人が和気藹々と話している。ディスカッションとは?
「なぁ衣装ケースとか届いたんだけど、服とかしまうだろ?」
「あ、そうですね」
そこで、一つ思い出した。
「どうかしましたか?」
「洗濯するの忘れてた」
「ああ……」
俺含めて全員忘れていたようだ。
とりあえず、衣装ケースなどを寝室に運ぶ。部屋が少し狭くなったな。
「じゃあ、洗濯してくるから、しまっといてなー」
「わかったー」
元気な返事が返ってくる。
だが、俺は後悔した。
洗濯カゴに山積みの女性ものの衣類。
まぁ、洗濯表示を見ながらやれば問題ない。
問題は──
「これこのまま洗濯機放り込んでいいのか?」
念の為、スマホで調べる。
「嘘だろおい……」
知らなかった。
……分けるのかよ、これ。色物と白だけじゃないのか? ネット必須? ……初耳なんだが。
これ干す時はどうするんだ? ……形が崩れるとか書いてあるんだが……。
渡辺さんが憤るのもわかるわー。
……女の人って大変なんだな。
……えーっと、洗濯機にはランジェリーコースはあるが、ネットがない。
「手洗い……するのか……くっ……」
「光司……」
その声にビクッとして振り返る。
確かにこの状況を見たら、ただの変態だな。
スマホ片手にブラジャー持ってるわけだし。
「あ、いや……これは……」
「ふーん。わたしの下着をそんなに分析したかったのね」
にんまりと口角を上げて、まるでおもちゃを見つけた子供のような顔をしている星羅。
「ふふ……ちゃんと覚えなさいよ。これから毎日やることになるんだから」
「うっ……」
そうだよな。洗濯するのは俺だもんな。
「そうですよ。ちゃんと丁寧に扱ってくださいね。わたくしのように」
静までもニマニマしている。
「もう。そんないじめちゃダメですよ。これあたし達のものですし。……ごめんなさい。あたしもやりますよ」
「寧々さん……」
「もう、言ってくれればあーしやったのにー」
「すまんな。こんなめんどくさいと思わなくて」
「でもホントめんどくさいよねー」
「ですねー」
俺はユイと寧々に任せてそそくさと脱衣所を出る。
「え、やめちゃうの?」
「そうですよ。もっといじってくれていいのですよ」
「どっちなんだよ」
全くこの二人は悪ノリすると手強いんだよなぁ。
スマホで買えるだけ専用ネットをポチる。
転売屋かって思われるくらい多めに買っておいた。
「ホントそういうところはマメよね」
「ええ。忘れる前にやるのは感心ですが」
「あれを一個一個やるとなると、な」
今は寧々とユイが代わりにやってくれてるが、俺もやることになるんだろうしな。
「で、片付け終わったんか?」
「終わったわよ。入れるだけだもの」
「そっか」
確認の為に部屋を覗く。四人分だと流石に狭いな。
「引っ越し考えないといけないな」
「え、引っ越すの?」
星羅が少し悲しそうな顔をする。
「だってなぁ、荷物置いたら狭くなるし、それぞれ部屋も欲しいだろ?」
「でも、ここが初めてみんなで集まった場所だし」
「星羅……」「星羅さん……」
星羅がそんな気持ちを抱いていたなんてな。
「ぶっちゃけ、契約更新の時期なんだ。家賃も上がるしな」
「そうなんだ」
「それにこのままだと、静の集めたぬいぐるみで部屋がパンパンになるしな」
「光司……。わたくしはそこまで酷くはありませんよ」
すまんな静。ちょっとその顔は信用できないわ。
でも、そうだな。
ここは四人が始めて来た場所だもんな。まだ三日しか経ってないのに、そんなに愛着を持っているとはね。
引っ越ししたくない子供ってこんな気持ちなんだろうか……。
子供……?
おかしいな。会う前は、あんなにも好きだ、愛してるって言ってたのに。
会えて、すごく嬉しかった。
なのに、今のこの気持ちはどうだろうか。
手放したくないという気持ちと、この先を……彼女達の成長が見てみたくなった。
……恋愛ってなんだろうな。
多分。恋心とは違うのだろう。
……でも、嫌じゃない。これは──
「ちょっと光司、深く考え込んでどうしたのよ」
「そうですよ。もしかして一軒家の購入を考えてますか?」
「あ、それいいね。庭いじりも出来るし」
「ペットも買えますね」
まったくどうしてこうも愛おしいんだろうな。
「そうだな」
「あ、ちょっと何その空気ー」
「そうです。ずるいです。何を話してたんですかー」
俺はこの日常を壊したくないな。
「いや、静がぬいぐるみを集めたら部屋がパンパンになるなって話をな」
「よろしいのですか」
おい。そこは否定しろよ。なんでそんな嬉しそうなんだ。
「ふっ。……バカね。光司はもっと素直に伝えたらいいのよ」
星羅が全部見透かしたように言う。
「やっぱり何かあったでしょ」
「白状してくださーい」
「じゃあ、せっかくだし、お昼を食べながら話し合おうか」
いい感じにできたからな。お昼ご飯は寧々とユイの希望したメニューだ。
少し早いが、まぁいいだろう。




