25 甘い朝
早速飲んでみる。
まぁ、多少薄いが、まぁ最初にしては上出来だろう。
少し多めに入れた分だけエグみや雑味がプラスされてるが、このくらいならマシだ。
「わ、わたし、美味しいって言わせられるようなの入れるわね」
視線をずらして、顔を朱らめながら言う星羅。
「ああ。期待してる」
「星羅がコーヒーなら、あたしは紅茶か緑茶ですかねー」
「別に寧々も同じもの極めてもいいんじゃないか? 同じものを好きになったっていいわけだし」
「そ、そうですよね。同じ人を好きになってるんですもの。引く必要なんてありませんよね」
「お、おう…」
そういうつもりで言ったんじゃないが、まぁいいか。
寧々の頭をポンポンと撫でる。
「えへへ」
「光司」
「なんだよ」
「私にもやりなさいよ」
「はいはい」
「ふふん」
朝から空気が甘いな。自分のことなのに、妙に甘い気がする。
そんな空気を察したのか、寝室の方からユイの声がした。
「なんか甘い空気が流れてくるのに抜け出せないー」
どうやら今日は静がユイを掴んで離さないみたいだ。
しかし……。
「昨日食い過ぎたな」
「そうね」「そうですね」
結構ニンニクの匂いがする。こんなにも匂うものなんだろうか?
一人だと気がつかないもんなんだな。
まぁ、今日は家を出る予定はないし、希望のあった凝った料理を作ってもいいな。
さて、静が起きる頃に合わせて何か朝食でも作るか。
「ペペロンチーノでも作るか?」
「ニンニク臭いところに追い討ちかけるつもり?」
「冗談だよ」
「あ、あたしは…光司さんの作るものなら、なんでも……」
じゃあ、少し驚くようなものでも作るか。
「すっごーい。え、こんなのまで作れんの?」
「おしゃれなカフェに来たみたいですー」
星羅と寧々はスマホで写真をいろんな角度で撮っている。
そんな撮らなくても、いつでも作るのに。
「さすがコージ。なんでもできるねー」
「丁度ふわふわで柔らかいものが食べたかったんですよ」
静の視線はなぜかユイの方を向いている。
「ユイ、クリームついてんぞ」
「え、まじ?」
それを取ってやろうと思ったら、なぜか静が手にとってなめていた。
「ちょ、なんで静っちがするしー」
「なんとなくです」
「あざといのは禁止ですからね」
別にユイはワザと付けてないんだけどな。
「で、今日はどっか行くの?」
「いや、今日はゆっくりしようかなと思って」
「つまり家でラブラブするのね?」
俺にフォークを向けながら星羅が自信満々に言う。
「そうだ」
「えっ!?」
「冗談だ」
「撤回するなし」
固まる星羅に代わってユイが返す。
「そうですよ。いい機会ですし、ね?」
寧々も指を合わせてそんなことを言う。
しまったな。冗談半分だったんだが……引っ込みがつかない。
「えーっと……、すまん。ブラブラと間違えてしまった」
「そんな言い訳通用する訳ないし」
「そうです。今日はちゃんとラブラブするんです」
「そ、そうよ。朝みたいのをもう一回するのよ?」
「「朝?」」
星羅の発言にユイと静が訝しげに聞き返す。
「ちょっと、星羅一体何をしたん?」
「これは内容次第によってはペナルティが発生しますね」
「な、なんもないわよ。えっと、こ、コーヒー淹れてた。そう。コーヒー」
「光司さんみたいな言い訳しますね」
「なぜか星羅は俺と考え方似てるからな」
「ふへへ……」
嬉しそうに笑う星羅。だが、他の三人の目は冷たい。
「まずは、星羅さんとディスカッションする必要がありますね」
静がすかさず提案する。
「そうだね。星羅には聞きたいこといっぱいあるし」
「姉として詳しく聞いておかないといけませんね」
「ごめん寧々。姉のポジションは譲れないわ」
「いつまで引っ張るんだそのネタ。昔からやってるだろ」
朝ごはんのパンケーキを食べ終わると同時にユイ、星羅、静はソファに座り、語り合う準備に入っていた。
あんだけ朝食べたのに、テーブルにはちゃんとお菓子とジュースが置かれていた。
「寧々も一緒に話さなくていいのか?」
お皿を持って俺と一緒に台所に来る。
「大丈夫です。どうせロクでもないことしか言いませんから」
また毒を吐く……。
まぁいいか。
その後、寧々も三人に合流し談笑を始めた。
さて、俺はというと───
「久しぶりだな」
静はビーフシチュー。寧々はチキンのトマトクリーム煮。星羅は牡蠣のバター醤油パスタと要望していた。
じっくりコトコト煮込む料理は久しぶりだ。腕が鳴る。
そういえば、ユイは特に希望とか言わなかったな。
何か言ってくれれば作るんだが。
牛バラ肉を取り出し、塩胡椒を振ってから大きめに切ってフライパンで焦げ目をつけていく。
ジューという音とともに、肉の焦げるいい匂いがしてくる。
「お。コージ料理してるん?」
早速匂いにつられて四人がカウンター越しに覗いてきた。
「ああ。時間あるから前言ってた料理を作ろうと思ってな」
「味見は? 味見は出来るの?」
「まだ始めたばかりだぞ星羅」
「そうですよ星羅さん。で、いつ焼けるんですか?」
「静の言ってたビーフシチューだから、これから煮込むんだぞ? 味見は無しだ」
「だって、静。残念だったわねぇ」
「知ってましたよ。ええ、知ってました」
澄ました顔で言い訳をする静。
「そうだ。ユイは何かないか? ユイだけ言ってなかったろ」
「あ、そうだね。……うーん。あーしはデザートがいいかなー」
「お、いいね」
「じゃあ……ほうじ茶ティラミスと暖かい黒蜜たっぷりのきな粉ぷりん!」
「まさかの和風!?」
「へへ…。意外だった? あーし意外と和スイーツ好きなんだよねー。黒蜜とかきな粉、ほうじ茶のほろ苦くて優しい甘さが大好きなんだ」
これは嬉しいサプライズ。
「分かった。任せろ」
「やった!」
「即答!? え、光司さん作れるんですか?」
「大丈夫だ。多分、作れる……」
「ちょ、なんで自信ないし」
「だ、大丈夫だ。問題ない」
「ホントにぃ〜?」
寧々と星羅も一緒になって疑ってくる。
材料はあるから、調べて作ろう。予想の斜め上だが、ユイに期待に沿えられるよう頑張らないとな。
まぁ、俺も食べてみたいってのもあるんだが、それは黙っておこう。




