24 三日目の朝
「ちょっとバカ光司! 何やってんのよ!」
「んぁ?」
突如星羅の怒鳴り声が聞こえた。
辺りはまだ薄暗い。
テーブルの上のスマホを確認する。
「まだ六時前じゃないか……」
「そんなことはどうだっていいのよ。なんでわたしのカエルを枕にしてんのよ!」
枕? あぁ。抱いて寝たはずなのにいつの間にか枕にしていたのか。
どうりで寝やすかった訳だ。
星羅がカエルのぬいぐるみを俺からひっぺがす。
どすんと頭が落ちる。
「おい」
「……ねぇ、そんなに寝やすかったの?」
「ん? あ、ああ。そうだな」
「ふ、ふーん……。そう……。へぇー……」
朝から元気だな。ニマニマと何かを企む顔をしているが、眠くてツッコム気力もない。
俺の頭をしっしっと手で追いやる。
そして、俺の頭があった場所に座ると、膝をぽんぽんと叩いた。
「そんなに寝心地良かったんなら、もっといい枕あるわよ」
頭が働いてないし、眠いのでそのまま言われるまま星羅の膝に頭を乗せた。
「ん」
「わひゃっ!」
「……ぐぅ」
「ちょ、ちょっと…もう寝ちゃったの? 早くない? ねぇ? ……もう。無防備な顔しちゃって。ふふっ」
*
星羅は光司の寝顔を見て、徐々に顔を近づけていく。
「こんなに気を許しちゃって、かわいいんだから」
「星羅、何をしているんです?」
星羅が驚き、姿勢を正して振り返ると、寧々が刺すような視線で見下ろしていた。
「あ、あはは。ちょ、ちょーと寝ぼけっちゃったのね」
「そうですかー。星羅は寝相が悪いですねー。ユイさんにきつく抱きしめてもらわないといけませんねー」
「待って。本当に抜け出せなくなるから」
いつもの余裕な表情がなくなるほど慌て出す星羅。膝の上の光司の頭が揺れる。
「ん…んん……」
「あっ!」
慌てて光司の頭を抑えて位置を直す星羅。
「そ、それにわたしほら、今膝枕してるし」
「ふーん……。いいですねぇ星羅は。早起きできて」
星羅の肩に顎を乗せて、「ふぅー」っと耳に息を吹きかける。
「ちょ、やめ……」
「別にいいんですよ。抜け駆けしたって。でも奪ってもいいですよねー」
「だって、寧々が遠慮するなって言ったから」
「ええ。でも、だからってキスしようとするのはどうかと思うんです」
「ち、違うわよ。わたしもちょっとうとうとしちゃっただけよ」
「ふーんそうなんですかー」
一切信じていない目で星羅を見るが、肩から顔を離す寧々。
「まぁ、ニンニク臭いファーストキスなんて嫌ですもんね」
「そ、そうよ。あ、当たり前じゃない。わたしはムードを大事にする女だし?」
「そうですよねー」
「あ、信じてないわね」
「信じてますよ。やっぱり最初はロマンチックなのがいいですよね」
「あ、うん……そうね」
星羅の前に立ってニコニコと笑顔の寧々。丁度日の出と合間って後光がさしているように見えた。
星羅は逆らえないと思った。
*
「ん…んん……」
「おはようございます光司さん」
「ん? んん。おはよう?」
「何で疑問形なんですかー」
あれ、夢だったのか? 星羅の膝枕で寝落ちした気がするんだが……。
………。辺りを見回す。
カエルのぬいぐるみとピンクのキャラクターのクッションを抱いて寝ていたようだ。
微かにコーヒーの匂いがする。
上体を起こすと、寧々が「あっ…」と声を漏らした。
いつまでも寧々の膝を占領するわけにはいかないからな。
立ち上がり台所へ向かうと、丁度淹れ終わったのか、コーヒーサーバーには並々と注がれていた。
「多くないか?」
「え、そう?」
「豆はどのくらい入れたんだ?」
「これで四回」
多いな。この豆の量で400cc以上入ってる。やや多いな。
「さ、三人で飲むんだしいいんじゃないの?」
「これだと360くらいでいいんだ」
「そ、そうなの?」
「ああ」
「え、もったいなくない?」
「そういうもんなんだ。欲張ると台無しになるから」
「欲張ると……台無し……」
「まぁ、せっかく淹れてくれたんだ。いただくよ」
振り返ると、寧々が頬を少し膨らませていた。




