15 少し遊んでいこう②
その後、ユイに引っ張られるようにアトラクションのコーナーへ来た。
「(ふふっ。二人きりだ)」
ユイは目を細め、両方の拳で口元を隠して、何か呟いている。
「そういえば、寧々と星羅も戻ってこないな」
なぜか頬を膨らませるユイ。
「もうー。今はあーしと二人でなんかしよ? ね?」
まぁ、そのうち戻ってくるか。
「うし。じゃあなんかやるか」
「そうこなくっちゃ」
と、言うことで、丁度目の前にあった輪投げで遊ぶ事にした。
なんかのコラボイベントらしいのだが、申し訳ないことに何の作品かは分からなかった。
まぁ別に輪投げ自体には目新しさはないが、ユイが興味津々の顔で見ていたのだ。やらないわけにはいかないだろう。それに何か景品もランクづけされてるみたいだし。
「ほっ! やっ! そりゃっ!」
意外と入るもんだな。ただ、感覚が慣れてないのか、三つ入っただけだ。
「むぅー。おかしいなー」
「入るだけ凄いだろ」
「や、ホントは全部入れるつもりだったんだけど、なんか標準が」
「あの距離を三つ入れるだけでも凄いぞ」
「そうかなー。えへへ……」
ちなみに俺は一つだった。
俺の方が上手く出来る自信があったのだが。
そんな俺らの隣でパーフェクトを出す人がいた。
凄いなと思って横を見ると、星羅がこれ以上ないくらいドヤ顔をしていた。
やばい。ユイと遊んでいて本当に気がつかなかった。
いや、寧ろ居るのに気配を消してる星羅が異常なんだ。
「気がついた?」
その声は嫉妬も羨望も含んでいないフラットな温度だった。
「ああ。声掛けてくれりゃ良かったのに」
「そういうところよ。直しなさいよ」
腰に手を当て眉をハの字にする星羅。なかなかレアな表情だ。
横に立つユイも、なぜか苦笑いしていた。
そこで、漸く気がついた。
「だが、隣に星羅がいるのに声掛けないのは失礼だろう? 気がつかなかった俺が悪いんだが」
「まぁ、そこが光司らしいのよね」
そう言いながらもらった景品を俺に押し付けるように渡す。
それはなんかピンクの髪をした女の子のキャラクターが描かれたクッションだった。
「星羅…」
「まぁ今回はわたし、ちょっと欲を出しすぎたし?」
星羅に抱きつくユイ。星羅もまんざらでもなさそうだ。
「それ、あーしに似てるから大事にしてよ」
「あ、ああ……」
似てるか、これ? まぁかわいいけど。
「あのね、光司」
ユイの頭を撫でながら星羅が話しかけてきた。
「わたし達はね、あなたに尽くされるのも好きだけど、望まれることを渇望してるのよ」
これ以上望むことなど……。
「静が言ってた22点の伸びしろよ。もっと求めてくれないと寂しいわ」
星羅は少しだけ、視線をずらした。
「そうだね。コージはもっとあーし達を見て欲しいな」
ユイは一瞬だけ星羅の腕の中で止まり、それからするりと抜け出して振り返った。
「星羅……ユイ……」
分かってはいる。
——けど、この関係の先を望めば、どこかが歪む。
でもそれじゃダメだと言う。
「別にすぐにとは言わないわ。おねーさんを楽しませるくらい求めてよね」
いつもの勝ちきな笑顔を湛えて星羅はユイの背中を押した。
俺に抱きつく形になったユイ。
「えへへ…….」
「おねーさん…って、星羅ゼロ歳だろうに」
「バカ光司! 15って言ったでしょ!」
「それでも歳下だな」
「もう! そうやってはぐらかす」
「分かってるよ。ちゃんと考えとくから」
「はぁ…」
盛大にため息をつく星羅。
やれやれといった感じで俺に近づき、俺とユイに聞こえる程度の声音で話した。
「別に選べって言ってるんじゃないの。もっと光司の欲を見せてって言ってるの。それは分かってるんでしょ?」
「……それが難しいんだよ」
分かってはいる。さっきの水族館で改めて思い知らされたからな。
だが、そんなすぐに答えなど出せない。彼女達なら出せるのだろうけれど。
…………ユイも星羅も前より答えに慎重な気がする。それこそ俺のように。
俺の中で静かにうずくまったままのユイの顔を見る。
「今は無理だけど、必ず答えをだすから」
「そうね。わたしも性急すぎたわね」
そう言って、俺のもらった参加賞のシールをひょいと取り上げる星羅。
「ところで、静は見つかったの?」
それを見ながら問う星羅。
「猫さんのとこにいたよー」
ユイは自分が貰った景品のキーホルダーを俺に渡しながら答えた。
「ちょ、それを早く言いなさいよ! もう、そんな面白そうな事は先に言いなさいよね」
いたずらっ子のような笑みを浮かべると、手をワキワキさせた。
「行ってくるわ」
「あ、あぁ」
「うん」
俺とユイが呆然とするくらい、新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりの速度で去っていった。
求めろ……ね。
俺の横に立つユイと貰ったクッションを交互に見た。
── 望む、か。
「コージ」
「どうした?」
「ちゃんと欲しがってよね」
ユイの俺を見る目は真剣だった。
その視線から、目を逸らせなかった。
「……ああ」
それを口にするので精一杯だった。




