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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第二章

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14 少し遊んでいこう①


 その後、お腹いっぱいということもあり、腹ごなしにアトラクションでもやろうということになった。

 星羅はホラー系を。ユイは忍者系のものを選んだ。

 寧々と静はどちらでもいいと言っていたが、静はスマホを見たまま、わずかに指を止めた。

 ——その表情は、ほんの一瞬だけ硬かった。

 なんだろう。珍しく余裕が無いように見えたが、気のせいか?


 「(唯、暗がりで抱きつくチャンスだと思わない?)」

 「(なるほど。アリ…だね)」

 コショコショと何かを言っている。今回は小さくて本当に聞こえない。

 話し合いが終わったのか、互いに握手している。

 その表情は何かを企んでいる顔だ。一体なにをしようというのか。

 「コージ、お化け屋敷の方にするっしょ」

 「そっちでいいのか?」

 「うん」

 「ということで早速入りましょう」

 ユイも星羅もニタニタしている。お化け屋敷ってどんなのか分かっているのか?

 寧々は少し困った顔をしていた。


 「寧々さん、怯える必要はありません。所詮は子供だまし、安全な恐怖を感じるためのギミックです。暗闇と不意の音響は、脳にストレス反応を引き起こし、アドレナリンやコルチゾールを放出させます。しかし、ここで重要なのは『吊り橋効果』という心理的錯覚です」

 なんだろう。少し違和感がある。

 それが何かは分からないが、ほんの少し早口な気がする。


 「恐怖による心拍数の上昇を、脳が隣にいる異性への『恋愛感情』と誤認する……。論理的に言えば、このお化け屋敷という環境は、光司の心拍数を期待値以上に跳ね上げ、わたくしたちへの親密度を強制的に書き換える(オーバーライドする)ための、最高に効率的な実験場なのです。つまり、恐怖を理由に彼に密着することは、生存本能に基づいた極めて合理的な行動と言えます。存分に抱きついて問題ありませんよ。……いえ、むしろ抱きつくべきです」

 ……いつも以上に長いな。

 よくもまぁそんなに言えるもんだ。

 「抱きついてもいいんですね?」

 「ええ」

 寧々は最後の抱きつくの部分しか聞いてなかった可能性あるな。


 そこに星羅が静に肩で軽く小突いた。

 「あら、静もいいこと言うじゃない。じゃあ、わたくしも『吊り橋効果』の実証実験に混ざらせてもらおうかしら?」

 「ふふ。ですが、星羅さん。真のハッキングはその後に起こりますよ。出口の光が見え、生存を確信した瞬間、脳内には報酬系物質であるドーパミンが大量に分泌されます。これは安堵と快感のピークです。つまり……」

 「「「つまり?」」」

 三人が次の言葉をじっと待つ。


 「抱きつくことによって光司へのご褒美でもあるのです」

 「……理屈はわかったけど、結局俺がめちゃくちゃにされるだけじゃないか?」

 「いいじゃないですか。受け入れてくれるんでしょう?」

 「いや、それとこれとは……」

 「コージ、これは入るべきっしょ」

 「そうね。こんな合法的に抱きつくことができるアトラクションなんて最高ね」

 「うふふ…。ふふふふ…。光司さん、早く入りましょう」

 「お前らお化け屋敷をなんだと思ってるんだ……」

 三人に背中を押されながら中へと入っていった。



 「おほほ……っ! よ、よよよ…妖怪ごときが、わたくしを驚かそうなんてっ!」

 そう言いながら俺にしがみつく星羅。

 入る前はあんなに威勢のいいことを言っていたのに、俺を掴む手はかなり震えている。


 「にゃああああっ! コージ、あーしムリ。もうムリ!」

 俺を絶えず揺らすから歩きにくい。暗くて見づらいのに、これじゃあ歩きにくくてかなわん。


 「こ、光司さん……、あたしここに入って後悔してます。……まさかこんなに怖いなんて……」

 涙をポロポロ流しながら俺にしがみつく寧々。もう目を開けていないので、こけないように支えていかないと危ないな。


 それはそうと、ここにいる妖怪って本物じゃないよな?

 何人かガチなのがいたんだよなぁ。

 ……いやでも、流石に本物じゃないだろ。

 妙に生々しかった気もするが、気のせいということにしておこう。……うん。気のせいだ。

 その時、役場で聞いた言葉が、ふと浮かんだ。


 右にはユイ、左には寧々。後ろには星羅がしがみついているので歩きにくい。

 お化け屋敷を出ると静の姿だけ見えなかった。

 「そういえば、静の声だけしなかったが、まさか中に残ってるなんてことないよな?」

 「まさかぁ。静がそんなしおらしいわけないでしょ」

 「だよなぁ」

 しかし、暫く待っても出てくる気配がない。


 他のお客さんがどんどん出てくるのに、静だけ出てこない。

 ……遅い。

 これはおかしい。

 なので、入り口へ戻って店員さんに聞くと、そもそも入ってないとのこと。

 俺らが入ったのを見計らってどこかへ行ってしまったらしい。

 そんなに怖かったのだろうか? 意外だな。

 それから手分けして探していると、ユイが俺の肘に腕を通してきた。


 「なんだ、どうしたんだ?」

 「静っちみつけたよ」

 別に腕を通す必要はないと思うのだが、まぁユイがいいならいいか。

 ユイに案内されて到着した場所は猫カフェのような場所だった。

 「ほらあそこ」

 そこには猫に囲まれて嬉しそうにしている静がいた。

 「にゃうにゃうにゃー」

 『にゃあ』『なーう』『ふにゃあ』『……なー』

 あんな顔出来るんだな。

 静は四匹の猫と戯れていた。一方的に話しかけているが、流石は猫。自由気ままだ。

 「にゃ、にゃってー」


 「「……」」

 俺とユイは互いに顔を見合わせた。

 「……しばらく、あのままにしておいてやるか」

 「……そ、そうだねー」

 しかし、よくチケット取れたな。というか、あんなに長々と講釈垂れていたのに、自分だけ逃げ出したんだな。

 だが、これが理由なら責められん。

 責められないが、せめて一言くらいは欲しかったな。

 

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