番外編91 NEXT BREAKOUT 女装男子
それは、薫が琹織に告白して、少し経った後のことである。
薫が女子の制服を着て登校してきた。
それに女子だけでなく男子も色めき立っていた。
そんな状況にも慣れたある日の放課後。
一組の教室では十数人の女子生徒が集まっていた。
みんな部活や他の用事をキャンセルして集まっていた。
どうしても集まれない者もいたが、大体は集まっていた。
不参加組は麗華、凛、小春、エレナ、ティノだ。
なお、唯、寧々、星羅、静、早矢は部活があり、この五人を入れるとこの集まり自体を解散させられそうとの判断で五人には知らされていなかった。
もし、五人が知っていれば、建設的な意見を出してもらえただろうことは想像に難くないのだが、その判断を鈍らせたのは、本日の議題が原因だ。
教卓の前には、進行役として小此木冴がいた。
本来なら朝霞愛花がやりたかったのだろうが、好きが先行して話にならず、まとまりもせず、解決もしなかっただろう。
今もうずうずしながら横揺れしていた。
そして、冴の後ろの黒板には、学園漫画の教師が書いたような感じで、『NEXT BREAKOUT 女装男子!!!』と書かれていた。
そう。薫の次に続く女装男子を1組の中から発掘しようというのだ。
早速、冴は真ん中の部分を消して、名前を書いていった。
1組の男子は他のクラスに比べて少ない。それにも関わらず、書かれた名前は意図してか無意識的にかは分からないが、七人分しか書かれていなかった。
佐藤桃李、市田柊真、狭山悠真、聖護院正親、満願寺匤人、関隼人、明石・エルヴィン・湊。
「ねー、なんで鷹臣くんの名前書いてないのー?」
蓮が手を真直ぐに上げて言った。
「そこは察してあげよーよ」
操がニヤニヤしながら言った。
「そうね。まぁ、どっちにしろ、鷹臣くんはどうあっても無理だけどね」
優華が苦笑いしながら言った。
「まぁ、しょうがない」「確かに鷹臣くんは似合わないね」「それな」
みんな一様に頷くと、冴はホッと胸をなでおろした。
そうして、みんなは思い思いに意見を言い合っていた。
「隼人くんは、家が美容クリニックだから、肌綺麗だけど、なんか違うよね」「分かる! すごいマメだけど、女の子の格好は合わないよね」「それな」「綺麗な男の人にしか見えないもんね」
そうして、隼人の名前のところに線が引かれた。
「そうしたら、湊くんもダメね」「だねー。ペルソ○4のクマみたいにはならないわよね」「髪の毛長くても見えないって、結構レアよね」
そうして、湊のところにも線が引かれた。
「逆に匤人と正親はアリじゃね?」「あ、分かる。なんかウィッグ被せたらハリウッド女優みたいになりそう」「あ、分かる!」「でもなぁ……」
そこで全員がトーンダウンした。
「あの二人、どっちかと言うと……」「うん……」「男の方が好きだよね」「まぁ、人それぞれだから」「でも、似合いそうなんだよなぁ」「それなぁ……」
匤人と正親の部分には丸がつけられていた。
そして、残る三人の名前を見て、全員がにっこり微笑むと頷いた。
冴は何も言わずに二重三重に丸をつけた。
「まぁ、桃李くんは中性的な顔立ちだしね。アイドルグループの端っこにいても違和感ないし」「それ褒めてないよ」
桃李に関しては、みんな同じような意見だった。
中性的故、違和感はない。よく言えば、整っている。悪く言えば中途半端だと。
しかし、みんなの顔が険しくなったのは残り二人になってからだ。
柊真と悠真。どっちも似合うのだ。
故に、もう誰が似合うかの話ではないのだ。
──どっちが可愛いのか──
議論のレベルは更に一段階上がっていった。
しかし、議論は逆に膠着してしまった。
会議は踊る、されど進まずといった状態になった。
ある者は頭を抱え、ある者は腕を組んで上を凝視していた。
ある者は謎の言葉を発し始め、ある者は頭を振っていた。
そんな時、燈がいつものようにキッカケになることを言った。
「そういえばー、柊真くんってー、なーんか姿勢いいよねー」
「いや、姿勢がいいくらいでそんな……」「そうだよ。別に何かやってるわけじゃ」
操と愛花が違和感を覚えながら否定する。
「柊真くんってー、4組の逢佳さんとー、家がー、隣同士だよねー」
もう既に答えを知っているようなそぶりで言った燈。終始ニコニコしていた。
「で、悠真くんはー、最近バイト始めたよねー」
何故か愛花の方を見ながら言った。
愛花はよく分からずに首を傾げた。
そんな中、柚がぽつりと言った。
「逢佳さんって……家が神社ですよね」
そう言った瞬間に、陽菜と蓮が扉を開けて、勢いよく走っていった。
そして、ものの数分で逢佳が連れてこられた。
弓道部員である逢佳は道着のまま、弓を持ったまま連れてこられた。
「な、なんですか一体……」
「と、柊真くんと幼馴染ってほんと?」「家が神社だけど、何か関係があるの?」「もしかして、家の手伝いしてもらってる感じ?」
そんなことを矢継ぎ早に言うのにも関わらず、のほほんとした逢佳はスマホを取り出して写真を見せた。
そこには巫女装束を着た逢佳と柊真ともう一人の三人が写っていた。
「あれ……この人、この前遠足で会った人じゃ……」
美琴が言うと、優華も横から覗いて頷いた。
「そうよ。このアホ毛見間違えないわよ」
「でも、男の人が巫女さんやる?」
冴がもっともなことを言った。
そして、みんなが操の頭頂部を見て頷いた。
「なんでわたし見たの?」
一人だけ理解していなかった。
「これ、副生徒会長じゃない?」「いや、この前の人だよ」
結論は二分された。
そこで、逢佳にこの写真の理由を聞いた。
「柊真くんは幼馴染なんで、手伝ってもらってるんです」
みんな、「なるほど」と頷いた。
でももう、柊真どうこうの話ではなくなっていた。
「じゃ、この男性は?」
美羽が聞くと、逢佳は不思議そうな顔をした。
「その方は女性ですよ?」
「何を当たり前のことを」と言った顔をした逢佳。
そして、これは副生徒会長であると結論づけられた。
そんな中、操と愛花は複雑だった。
「今回は黙ってた方がいいね。お兄ちゃんに怒られちゃうし」
「まさか、巫女さんもやっていたとは思いませんでした」
そんな様子を燈は楽しそうに眺めていた。
「なんか楽しそうだね」
愛が気づいてそんなことを言った。
「うん。楽しい! 次は他のクラスの人ともやりたいね」
その言葉をきっかけに、本人たちが知らぬまま、2組、3組、4組と交えて話されることになるのだった。
「いつしか、全員女子の制服着て来たりしてね」
誰が言ったか分からないが、それを聞いて全員がその場で夢想したのだった。
そんな学校があれば面白いな、と。




