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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第4章

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番外編90 練り切りを作りましょう


 そんな感じで始まった和菓子部。

 本日は初日にもかかわらず、作るお菓子は『練り切り』だ。


 篠宮先生は基本の『梅』と言っていたが、初心者がやるものではない。

 だが、参加者は全員真剣だった。


 「ではまず求肥からですね」

 まず、材料作りから始まった。

 「「え……」」

 できたものを細工するもんだとばっかり思っていた神崎先生と塩江先生。

 既に少しトーンダウンしていた。


 しかし、流石にあんこ作りはなかったので、そこはホッと胸をなで下ろしていた。

 小豆を浸す所から始まったら、匙を投げていただろう。

 もっとも、今後の活動ではそこから始まることになるのだが、それは別の話である。


 早矢、唯、寧々、鷹臣は真剣そのものだった。

 朝比奈先生は普段と勝手が違うのか、それでも家庭科の教師としてのプライドか、必死に食いついていた。


 神崎先生と塩江先生は、互いに顔を見合わせて言った。

 「これ魔法なら一発よね」

 「そんな身も蓋もないこと言うなよ」

 そう言いつつも、生徒が頑張っているので、一応手は動かしていた。


 そんな様子を生徒たちは、先に篠宮先生が用意していたお菓子とお茶をいただきながら眺めていた。


 「これは……美味しいですね」

 「ほーんと。なんで先生やってるのかしらね」

 「どうしよう……美味しすぎて、もうなくなっちゃった」

 「わたしもー。ねー、静ーそれちょーだい」

 「ダメです。大事に大事に食べているのです」


 暦が皿を持ってしょんぼりとしていた。

 そして曜が、ちょびちょび食べていた静に提案したのだが、目線を合わせることなく却下した。


 「じゃあ星羅ー」

 そう言われた瞬間に星羅は残りを一口で食べきった。


 「あー!」

 「そこ、うるさい!」

 ピシッと、普段の篠宮先生のように注意されると、全員の背筋が伸びた。

 神崎先生と塩江先生もビシッと直立不動になった。


 そんな様子を一切気にすることなく、早矢、唯、寧々、鷹臣は黙々と作業していた。


 求肥を作り、白あんと練り合わせて生地にする。

その生地を着色し、あん玉を包んで形を整えていった。

 そして、それを篠宮先生の見本通りに切り込みを入れて形作っていった。

 最後に黄色く染めた生地をくぼみに置いて完成した。


 「おー、できたっしょ」

 「意外と簡単でしたね」

 「これなら毎回できそうですね」

 「上手く……できたな……」


 四人は完成した『梅』の練り切りを眺めて嬉しそうに目を細めていた。


 「上手に出来ましたね」

 篠宮先生が拍手しながら褒めていた。


 「ねー、これまだ生地とかあるじゃん。他のも作ってみたいんだけど」

 「あ、それうちも思ってました」

 「あたしも、もっと難しいの作ってみたいです」

 唯がそう言うと、早矢と寧々も両拳を上げて言った。


 「いいですよ。では、こんなのがあるんですが──」


 自分が身につけてきた技術を受け継いでくれることほど、嬉しいものはなかった。

 実家の和菓子屋は兄が継いだ。

 篠宮先生は、それとは関係なく教師を志した。


 だが、時折職人になったらどうだったのだろうかと思うことがあった。

 それが、こうして二つの立場で教えるとなると、感無量だった。


 初日からそこそこ難しいものを選んだ自覚はあった。それでも、こうして上手に作ってくれる姿を見ると嬉しい。これからも教えていきたいと、篠宮先生は思った。


 朝比奈先生は娘の暦へ、鷹臣は冴へ、最初に自分の作った練り切りを持っていった。


 暦はそれを二口で食べて、がっかりさせていた。

 「なんでそんなあっという間に食べるの?」

 「いいじゃん。美味しければ……。あ、面白そうな噺一つ思いついた」

 そう言ってスマホに入力していた。


 冴は丁寧に受け取り、鷹臣と見つめ合い、甘い雰囲気になっていた。

 あの状態で食べれば、きっと味なんて分からないだろうとみんなは思った。


 その後、みんなが作ったものを、食べて感想を言い合っていた。

 そして、ここまでずっと黙って見ていたロクサーヌと宇晴は、早速篠宮先生のところへ行って教えを請うたのだった。


           *


 そして、その日の夜──

 夕食を済ませ、食後のお茶を楽しんでいた時、光司の前には三種類の練り切りが置かれていた。


 部活で作った『梅』ではない。

 その後に作ったものだ。もっとも、その時作った練り切りは全部食べられてしまったのだ。


 そして、残ったのが、この三種類なのだ。

 『山茶花』『秋桜』『牡丹』

 これを作った時、篠宮先生は少し顔が引きつっていた。


 「今日、あたしと早矢さんと唯さんで作ったんです」

 「これを? 三人が? マジで?」

 光司は目を大きく見開いて、皿を持ち上げていろんな角度から眺めていた。

 その驚き方は信じられないものを見るようだった。


 「それでですね、どれを誰が作ったか当てて欲しいんですが」

 「これを……」

 早矢がそう言うと、光司は震える手で、皿をテーブルに丁寧に置いて、練り切りに顔を近づけて言った。


 「そうだよー。コージならラクショーだよね」

 「いやぁ……」

 プレッシャーで押しつぶされそうになっていた。


 そんな様子を静と星羅はラフな格好で棒アイスを食べながら眺めていた。

 「まぁ、光司なら余裕ですよね」

 「そうそう。猫の絵を当てたんだもの。ラクショーよねぇ」

 静はニヤリと、星羅はニマニマしながら眺めていた。


 光司はプレッシャーでテーブルに押し付けられそうになっていた。

 そして、テーブルに手をついた光司は言った。


 「俺の……負けだ……」

 最初から勝負などしていないのだが、さすがの光司も当てられなかったのだ。

 どれも完璧だった。そして、そこまで練り切りに詳しくない光司はあっさりと諦めたのだった。


 「ちょ……」

 早矢は苦笑しながら突っ込んだが、寧々と唯は互いに顔を見合わせた。


 「やりましたね」

 「やったっしょ」

 そして、当てられず、悔しい思いをした光司が練り切りにハマりだすのは、そんなに時間がかからないのだった。


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