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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第4章

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番外編89 和菓子を極めましょう


 顔をスリスリしてきた凛の頭を撫でていると、復活した鷹臣がよろけながら上体を起こした。


 「大丈夫ですか?」

 「大丈夫じゃない。ジュースになるところだった」

 「そんなこと起きませんよ」

 「そうです! 早矢様の前ではしません」

 凛のこの発言で、マジなのか冗談なのか分からなくなったのだった。


 「で、和菓子の件ですが、うちは本格的なものは作ったことないんですよね」

 作り方は知っている。見よう見まねで作ることはできる。

 だが、それが本格的な和菓子として通用するか確証がない。


 「そう……いえば……」

 「どうかしましたか?」

 鷹臣は楽な姿勢に座り直すと、顎に手をやり上を向きながら考え出した。


 「篠宮先生……」

 「篠宮先生がどうかしましたか?」

 にっこり微笑みながら返答した早矢。

 膝枕されている凛は早矢にお菓子を食べさせてもらっていた。

 それを見て、ロクサーヌが「ぐぐぐ……」と羨ましそうに見ていた。


 「確か、実家が和菓子屋さんだったなーって。うちでよく買ってきたお店がそうだったな、と」

 そこで、凛が上体を起こし、早矢の前に正座して、手を上げて言った。


 「『御菓子処 篠月堂』という名前です、早矢様」

 「そうそう。そんな名前だったな」

 「そこ、結構有名だよね」「うん。デパートにも入ってるよね」「へー、先生の家って凄かったんだー」

 鷹臣が頷きながら言うと、曜、暦、宇晴が続けて言った。


 そして、凛が珍しく有意義な情報も言った。

 「冴の実家も和菓子屋さんですよ。『菓子司 此花屋』って」

 「また有名店……」「支店いっぱいあるところじゃん」「江戸時代からある所じゃないか」

 曜、暦、鷹臣が呟いた。


 ロクサーヌと宇晴はスマホで検索していた。

 そして、自分のスマホを宇晴に渡すと、ロクサーヌは早矢の元へ近づいて言った。


 「早矢さん、うちの部活で和菓子作れませんか?」

 「篠宮先生、茶道部の顧問だからちょうどいいんじゃない?」

 「では、ちょっと聞いてみますね」


 そう言って、立ち上がろうとしたところで、曜と暦も手を上げた。

 お菓子を作りたいのだろうかと思ったら、どうやら違ったようだ。


 「わたしはそばが作りたい!」

 「あ、じゃあわたしはうどん!」

 「和菓子関係ないじゃないですか」

 「いや、噺のネタになるし、それにそばもうどんも伝統でしょ?」

 「そうそう。部活終わりに美味しいもの食べたいじゃん。部費で」

 曜と暦が満面の笑みを浮かべて言った。


 「あ、じゃあ宇晴は寿司がいいです」

 「あ、ではわたくしは天ぷらを」

 「俺はラーメンがいいかな」

 「今食べたいもの言ってます?」

 そうして、みんなは顔を見合わせてはにかんだ。『バレたか』。そういう顔をしていた。


           *


 「──という話をしたんですよ」

 「へぇー、いいじゃん」

 帰り道に一緒になった唯と話しながら歩いていた早矢は、先ほどのことを話した。


 「それで、一緒にやってみませんか?」

 「え、あーし?」

 「ええ」

 「なんで?」

 どうして自分なのか分からないと言った顔をする唯。


 「ふふ……。そんなの決まってるじゃないですか。一緒に和スイーツを作ったじゃないですか」

 「あ!」

 「和菓子も極めてみませんか?」

 「あー……でも、時間とかあんまり取れないよ?」

 「実は、先ほど篠宮先生に話を付けてきました」


 帰る直前に、篠宮先生に直接交渉してきた早矢。

 少し難儀したが、次回の部活動で行う約束を取り付けてきた。


 「随分と話が早いね」

 「ええ。善は急げと言いますからね」

 「それ合ってるの?」

 「まぁ、いいじゃないですか」


 そうして、翌日の放課後──

 まさか、昨日の今日で約束を取り決めてくるとは思わなかったらしい。

 参加者は全員、職人らしい格好をしていた。


 実は、篠宮先生の実家は少し前に兄が家を継いだらしいが、篠宮先生の方が腕は上なんだそうだ。

 実際、家でも手伝っており、和菓子を作るのは好きなんだそうだ。


 そして、早矢の熱意に心を動かされて、こうして部活動として活動することになったのだ。

 久しぶりの和菓子作りに嬉しさを隠しきれていなかった。


 なお、本日は初日とのことで、参加者は少ない。


 まず、早矢。発起人であり、和菓子を極めたいと思ったからだ。


 次に唯。和スイーツといえば、自分という自負があった。早矢に負けぬよう精進しようと参加したのだ。


 そして、寧々だ。料理やお菓子作りが好きなので、自然と参加したのだ。

 むしろ、誘ってくれなかったことに軽く憤ったほどである。

 早矢と唯曰く、洋菓子の方で忙しいだろうと配慮したのだが、逆効果だったようだ。


 他には、鷹臣だ。理由は言わずもがな。気になる彼女の実家が和菓子屋さんなのだ。自分も和菓子作りを極めたいと思うのは当然と言えた。


 朝比奈節子先生も参加していた。

 実際、和菓子にも興味があったが、なかなか機会がなかったのだ。これ幸いと参加したのだ。


 なお、星羅と静は後ろで座って眺めていた。

 作ったお菓子を評価すると、勝手に参加したのだった。


 ちなみに、食べる側として参加したのは、曜、暦、宇晴、ロクサーヌだ。


 冴は、これを聞いた星羅に無理矢理連れてこられたのだが、鷹臣を見て、顔を朱くして黙って眺めている。


 「しっかし、まさか参加するとはね」

 「ええ。意外です」

 「心外だな。俺は和菓子が世界で一番好きなんだ」


 そう言ったのは神崎先生だ。

 決して、篠宮先生がいるから、園芸部の活動をほっぽり出して、理由を星羅に問い詰められたからではない。


 なお、そんな神崎先生を見て、塩江先生も参加している。

 「お前は邪魔するなよ」

 「しないわよ!」


 まだ始まってないのに、第二調理室は和気藹々としていた。


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