番外編88 お茶請けは和菓子で
それは部活動が終わり、みんなでゆっくりと寛いでいた時だった。
天唐和早矢は着物姿でお茶を点てていた。
別に茶道部の活動ではない。
それぞれが部活動を頑張った後の労い的なものとして早矢がお茶を点てていたのだ。
なので、みんなそれぞれ思い思いに過ごしていた。
もっとも、寧々にもらったお菓子を抱えていたら、声をかけられてこうしてお茶を点てるに至ったのだが。
そんな早矢を見て華道部員の東雲・フルール・ロクサーヌはうっとりとした顔で言った。
「やはり、早矢さんは着物姿が似合いますね」
「ロクサーヌさんもお似合いですよ」
「えへへ……。ありがとうございます」
早矢もロクサーヌの方を見て、にっこりと目を細めて言った。
早矢に言われると嬉しかったのか、受け取った器で顔を隠していた。
「しかし、こうして上手にお茶を点てるのはいいのですが……」
みんなの視線はお菓子へと注がれた。
「まぁ、これはこれで悪くないよね」
「実際美味しいんだよ」
「ただ、茶道には不向きだよね」
そう言ったのは華道部員の黄宇晴と落語研究会の朝倉曜と朝比奈暦だ。
三人とも、お茶よりもお菓子を頬張っていた。
むしろお菓子ばっかり食べていた。
抹茶味のフィナンシェ、抹茶クッキー、抹茶チョコ、抹茶のゴーフレット、薄焼きロールせんべい。
今日は珍しく、全て抹茶づくしであり、おかーさん部で作ったものだった。
みんなは「美味しい美味しい」と言いながら、手が止まることなく食べていた。
確かに美味しい。美味しすぎるのだ。
ただ、煎茶ならいいのだが、抹茶では少し合わないと、みんなは思っていた。
それでも用意されたお菓子はほとんどみんなのお腹の中へ吸い込まれていった。
「普通にお茶を淹れたほうが良かったですかね?」
「でもお茶を点てる早矢さんも見たかったので」
「そ、そうですか?」
早矢はロクサーヌにそう言われて、悪い気はしなかった。
「これ抹茶ラテにしたら完璧だったかも」
宇晴がそんなことを言うと、肯定とも否定とも判断のつかない顔をみんなはしたのだった。
「これ、おかーさん部では和菓子って作らないんですかね?」
「うちのお母さんも和菓子はあんまり作ったことないから難しいんじゃないかな。材料は使ったとしても……」
「寧々さんでも無理ですかね」
「うーん……」
ロクサーヌが疑問を口にすると、暦が自分の母親である家庭科教師朝比奈節子のことを話した。
そして、寧々なら可能なのかと口にすると、今度は早矢が困った顔をしてしまった。
そんな時、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
そして、四つん這いで駆け寄り、飛びつこうとしたのは剣道部員の白鷺凛だった。
もちろん、そんなワンちゃんのようなことはしない。
入り口から四つん這いの姿勢で跳びかかっただけなのだ。
そんな凛の襟を掴んで止めたのは、同じく剣道部員の米沢鷹臣だった。
「落ち着け」
「ちょ、いいではないですか」
「お前、腕はいいのに、礼節だけが欠けているぞ」
「…………むぅ」
そう言われては従わざるを得なかった。
凛といえど、礼節を破るワケにはいかなかった。
早矢の前に正座して座る二人。
「凛さんはいつも通りですが、鷹臣さんは珍しいですね」
「そうか? いや、いつも部活中にここのことを言っていたからな。ちょっと気になって来てみたんだ」
英愛学園の剣道部はきつくない。むしろゆるい方だ。
練習中だけは鬼気迫る感じで竹刀を打ち合うが、それが終わればほんわかと和やかモードになる。
変に威張った者もいなければ、意味のないしごきを強要する者もいない。
そんな者がいれば、即座に叩き出されている。
剣の道と礼節だけを追い求めるのだ。そこに変な理屈やプライドが介在する余地はない。
そのお陰かは不明だが、都大会ではいつもベスト4には必ず進んでいる。
早矢がお茶を点てている間、凛は嬉しそうにしていた。
ちゃんと正座しており、手は軽く握って膝の上だ。ただ……。
「おい凛、尻尾が見えてるぞ」
「それくらい、この時間を待ち望んでいたのです」
「凛さんらしいですね」
凛の前に器を置くと、凛はそれを持ち、器を回して一息に飲み干した。
鷹臣は苦笑しながら、置かれたお菓子を見た。
「こういうのって和菓子なんじゃないのか?」
「あ、みんなでその話してたんだよー」
宇晴が鷹臣に言った。
「そうか」
「ええ。まぁ、本来ならそうすべきなんでしょうが、予算にも限りがありますからね。毎回買うワケにもいきませんし……」
茶道がお金がかかるため、敬遠されていた。
もっとも今は茶道部の時間ではないのだが、それでも用意はしたいと早矢は思っていた。
「でも、うまいよなこれ」
「ええ。とっても美味しいです」
鷹臣と凛はお菓子を美味しそうに頬張った。
部活動でいっぱい動いた後は甘いものが欲しくなるらしい。
二人とも、シャワーを浴びて着替えて来てはいるのだが、よほど楽しみだったのだろう。
少し髪の毛が濡れていた。
仕方なく、早矢が凛の髪の毛を拭くと、嬉しそうにしていた。
まるでペットだなと誰もが思っていた。
「それで、和菓子なんだが、早矢が作ってみたらいいんじゃないか?」
「え?」
「いや、前に家に行った時に唯と一緒に和スイーツ作ってたじゃないか。だったら和菓子も出来……あだっ! あだだだだだっ!」
話している途中で凛が鷹臣の頭を掴んだ。
「どうしてあなたが早矢様のお家に行っているんですか!」
「ちがっ! 俺は光司さんに用があったんだ。それに他にもいたぞ? 紫音とか麗華とかぁああっ!」
「むむむむむっ!」
「頼むから離してくれ」
そして、興味をなくしたように離すと、その場に倒れ伏した鷹臣。
そして、「今度はわたくしも行きますからね!!!」と早矢の元へ駆け寄った凛。
そんな様子をいつも通りだなとみんなは眺めていた。
早矢は凛に抱きつかれながら、一人考えていたのだった。




