↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

233/241

番外編86 編集長、商業へ


 「ねぇ」

 朝霞愛花の母親である理花子が愛花の書いた漫画を読んでいた。


 そして、ここ最近メキメキと実力を上げていることを知っていた。

 だが、あまりにも急すぎる。

 前は、お世辞にも面白いとは思えなかった。

 絵は上手いのだ。だが、ストーリーや構成が追いついていなかった。


 それがどうしたことだろうか。

 英愛学園に入学したての頃は、ストーリーに少し変化が訪れたくらいだ。

 なのに、梅雨に入ろうという時期に、それは訪れた。


 商業作家である朝霞理花子。

 よく、担当編集と内容についてかなり揉める。

 自分の描きたいことと、掲載できる内容は違うと。

 愛花も自分の描きたいこと優先なので、その悩みは分かる。


 それなのに、掲載できる内容と自分の描きたいことを両立しながら、うまく完成させている。

 これは、次回のコミケでは遂に売り切れるんじゃないか。そう思っていた。


 しかし、どう考えても、この急激な向上はありえないと。別人レベルだと。

 そう思って、声をかけたのだった。


 「どしたのー」

 「ねぇ愛花……、最近漫画がうまくなっているけど、どうしたの?」

 「うん? 部活で書いてるだけだよ」


 そんな訳はないと思った。

 部活で書いただけでこんなに上達するはずがない。

 自分だってそうだったのだから。


 もっとも、高校生の時には、それなりに名の知れた同人サークルで描いていたので、今の愛花よりは上だったという自負があった。


 考えられるとすれば、愛花に助言をした者か、ライバルが現れたか。あるいは盗作しているかだろう。


 「ねぇ、お母さんちょっとその人と会ってみたいんだけど」

 「え、静に?」

 静……さん。聞いたことがある。愛花のクラスメイトでとても仲のいい子だと。


 ……なるほど。友達ができると、上達するのか。

 ……わたし、相談できる友達いなかったなぁ。

 いるにはいたけど、あれは友達というよりライバル。……って、今はそんなことはいいわ。

 一人で思い出し、つっこんでいた。


 「じゃあ、明日連れてきてくれない?」

 「え、明日!?」

 「早ければ早いほどいいでしょう?」

 「分かったわ。ちょっと聞いてみる」


 愛花はスマホでやり取りしている。しかし、すぐに結果を教えてくれることはなかった。

 何やら話が盛り上がっているようだ。

 頼んだ手前、聞きにくい。


 「あ、愛花?」

 「ん? ああ、ごめんごめん。いいって」

 愛花はそれだけ言うと、またぞろスマホをいじり出してしまった。


 翌日。愛花の実家である喫茶店愛花夢。

 そこの二階で、件の人見静は朝霞母娘と相対していた。

 なぜか、来て早々に裏手へ連れて行かれて、そのまま自宅スペースへと案内されたのだった。

 さすがの静も戸惑い、身構えてしまった。


 それというのも、理花子、愛花両名の前には原稿用紙が置かれていたからだ。

 「えっと、これは一体……」

 「愛花話してないの?」

 「パフェ食べに来ない? って言ったけど」

 「はい。奢ってくれると聞きまして」

 「分かったわ。でも、その前に聞きたいことがあるの」


 静は身構えた。一体何を言われるのか、と。

 愛花からは、『うちに遊びに来ない?』としか言われていない。


 その後は、愛花の作品について、いろいろと意見交換していただけだ。

 愛花の母親に呼ばれる理由が思い至らない。


 「えっと、愛花の母親の理花子です」

 「愛花さんと仲良くさせていただいております。人見静と申します」


 それは綺麗な所作だった。

 思わずのけ反り、目を細めながら片手で遮った。それくらい眩しかった。

 愛花も同様の仕草をした。流石は母娘といったところか。


 「そ、それでわたしね少女漫画で連載を持っていて……あ、RIKAKOって名前でやってるの」

 「存じております。すべて拝読しております」


 デビュー作から同人誌時代の作品まで、タイトルを列挙した。

 今では手に入らないと言われた作品まであった。胸がジーンとした。


 「じゃあ、話が早いわね」

 愛花を差し置いて、原稿を手渡した。

 両手で受け取った静は首を傾げるでもなく、そのまま静かに読んだ。

 そして、読み終わると、丁寧にテーブルへ置いた。


 「これは新連載する予定のものですか?」

 「ええ」

 「どうして、わたくしに読ませてくれたのでしょうか」


 真摯な目つきで見据えるので、正直に言った。

 担当編集と折り合いがつかないこと。これを出したいが、毛色が違うから反対される。

 でも、どうしてもこの路線でいきたいと。


 どうしてこんなことを娘の友人に話しているのか、自分でも分からなかった。

 でも、どうしても読んで、意見を聞いてもらいたかったのだ。


 「そうでしたか」


 それは、女神のような微笑みだった。

 そして静は、残したいところ、避けた方がいいところ、変えた方がいいところを指摘した。


 言われてハッとした。

 それは自分のやりたいことを肯定しつつ、よりよい方向へとブラッシュアップしてあったからだ。


 「ねぇ、わたしの担当編集になってくれないかしら?」

 「すいません。まだ学生なもので」

 「ね、すごいでしょう?」


 愛花が胸を張って、ドヤ顔していたが、確かにこれはドヤ顔したくなるのも納得だった。

 そして、この時の作品が後にアニメ化され、映画版まで制作されることになるのだが、それはまた別の話。


 「ほ、報酬なんだけど、うちのパフェでいいかしら?」

 「ええ。それはもう願ったり叶ったりです」


 静はただ見て、修正箇所を指摘し、方向性を導き出し、可能性を広げただけだ。

 それなのに、有名店のパフェを報酬としてもらえる。こんな美味しい話はなかった。


 続いて愛花のコミケ用原稿も見てもらうと、理花子は目を大きく見開いて驚いていた。


 「この主人公、三ページ前で気づけますね」

 「ここで告白させると弱いです」

 「愛花さん、このコマは残しましょう」


 これは売れる。部数を増やすよう提案した方がいい。そう思った。


 だがしかし、一つだけ気になることがあった。

 「これは何かしら?」

 赤ペンで描かれた謎の生物の絵。理花子は猫を描いたつもりだが、まさか猫ではあるまいな、と。


 「猫さんです」

 「え?」「え?」

 「何か?」

 理花子と愛花が困惑する。試しに他の絵も描かせてみたが、どれも下手だった。


 「ま、まぁ得手不得手ってあるしね」

 「うん。うちの副部長もあんまり上手くないしね」


 それからは、原稿ができると、パソコンで原稿をやり取りしたり、直接店へ向かったりするようになった。

 静は、このやり取りのためにパソコンを買ったくらいだ。


 そして、静は一人納得がいっていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。