番外編85 静編集長
「編集長確認お願いします」
そう言って両手で原稿を手渡してきたのは、クリエイティ部創造部内漫画部の部員朝霞愛花だ。
統合にあたり、部に昇格している。
「わたくしは編集長ではないのですが」
そう言って両手で原稿を受け取ると、どこからかメガネと赤ペンを取り出した。
そして、修正箇所を次々と指摘していく。
そして眼鏡を外し、小さく息を吐くと、愛花の顔を見て言った。
「愛花さんは勢い先行型といいますか、間とか行間とかもう少し、丁寧に描くといいでしょう。どうしても描きたいことがあると、そこを感情的に描いてしまい、ご都合主義になりがちで整合性が取れなくなってしまっています」
「で、でもほら、好きって大事じゃない?」
すかさず反論する愛花。
「まぁ、そうですけど、内容が破綻しているのはいかがなものかと」
「うう……」
愛花は「描きたい」が優先されて、どうしても内容が疎かになってしまう。
他の誰かと一緒に作品を作れば、いいものができるのではないかと、静は考えて、室内を見回す。
いくつかの小規模な部活が、こうして一つの部屋に集まって活動している。
絵の上手い人。文章の上手い人。シナリオの上手い人。アイデア出しの上手い人。様々だ。
愛花は絵はそこそこ上手い。
そこでふと気付いたことを聞いてみる。
「このキャラクターですが、わたくしに似ていますね。わたくしへの当てつけですか?」
「そ、そそそそそ……そ、そんなこと……にゃいわよ……」
「そうですか? やたら美化されていて神格化されているんですが」
「そー……………………でもないわよ」
「そうですか」
愛花はほぼ真っ赤になった原稿を持って席へと戻った。
次に来たのは文芸部の昼飯遥風だ。
「小生の原稿の確認もお願いします、編集長」
「だから編集長ではないと……もういいです」
早速編集長モードへ移行すると、赤ペンで間断なく訂正箇所を記入していく。
原稿に赤が増えるごとに遥風の顔は青くなっていく。
「そ、そんなに直すところある?」
そう言われると、手を止めて顔を上げた。
「このキャラクターの話し言葉ならいいですが、ら抜き言葉は地の文としてNGです」
「ここは誤字ですね。確定です」
「ここは少しわかりづらいですね。こうすると自然です」
「こちらは読者が一瞬迷うので、こうすると明瞭です」
「ここはこれでもいいですが、こっちの方がいいですね。ただここは好みですね」
「ここも文章を少し整理したいですね」
「ここは句点追加」
「ここは少し硬いのでこうした方がいいですね」
「ここは同じ言葉が続くので、…………くらいが自然です」
「ここも自然ですが、少しだけ整えるなら……でも読みやすいですね。現状でも通ります」
「ここは表記を揃えるなら……ですね」
「一般的な表記ならこちらですね」
「ここはいいですね。残してください」
スラスラと訂正箇所を言っていく。
だが、そこで遥風は他にも書かれているものを見つけた。
「なんでツッコミ入れてるの?」
「すいません。これは癖です」
「あ、いいよいいよ。反応あると嬉しいし、編集長が最初の読者だし」
「では、もう少し入れてもよろしいですか?」
「うん!」
満面の笑みで頷く遥風。
訂正箇所が少なくても赤字でツッコミがたくさん書かれていった。
「あと、ここは説明しない方がいいですね」
「え、でも分かりづらくない?」
「分からせすぎると、せっかく読者が考えられる余地まで消えてしまいます。ここは残しましょう」
遥風はなるほどと頷いていた。
「そういえば、タイトルは?」
「まだです」
「では最後に考えましょう」
遥風は手渡された原稿を見て、ニッコリしながら戻っていった。
「じゃ、じゃあ次はわらわの番だな」
八重歯がチラッと見える笑顔で原稿用紙の束を持ってきたのは演劇部シナリオ部門の夕永紗月だ。
演劇部は一応は独立しているが、その一部はクリエイティ部に所属している。
そうして、全て読み終えた静は赤ペンを持たずに言った。
「主題が不明瞭です」
「え?」
「いろんな要素を詰め込みすぎです」
「で、でも……」
「分かります。やりたいことは分かります」
「だったら……」
「散らかりすぎていますので、整理しましょう。まずここから……」
そうして隣に座らせて、一つ一つ指摘していく。
「あっ! そうか……」
そうして、最後の用紙を捲る頃には、紗月はいつものドヤ顔に戻っていた。
「書き直してくるよ」
「ええ。次も両手で受け取りますよ」
席へ戻ると、早速書き始めた紗月。
今の時代にパソコンではなく手書きで書く珍しい人物だった。
そんな様子を腕組みしながら見ていたのは、静の横に座る人物だ。
彼女はこのクリエイティ部創造部副部長の夜見吹雪だ。
元々はイラスト部に所属していたが、その味のある絵は評価が分かれた。
だが、その誰にも発想し得ないアイデアは誰にも真似できなかった。
よくそんなにポンポンと次から次へとアイデアが泉のように湧いてくるものだと、静も一目置いていた。
そんな吹雪は、他の部員から相談されるたび、何通りものアイデアを提供していた。
「しかし、本当によくそんなに思いつきますね」
「まぁ、妄想するのは楽しいしね」
「それでも普通は偏るものです」
「まぁ、わっちの場合は地図や僅かな単語から、いくらでも膨らませられるからねー」
「羨ましいです」
「いやいや。わっちからしたら静さんの方が羨ましいよ」
慌てて向き直ると、手を振りながら言った。
「そうですか?」
「うん。わっちは思いつくけど、整合性とかまでは考えてないからね」
静は少し困った顔をした。
それも本当は出来るのではないかと思っていたからだ。
でも、飽きっぽい彼女ならばそれもあるだろうと、変な納得の仕方をしてしまった。
そして、静は思った。この四人が組めば面白いものを作れるのではないかと。
そう思ったところで、また別の部員が制作物を持ってきた。
静は眼鏡をかけて、それを両手で受け取った。




