番外編83 お菓子大好き四天王
それはとある日の放課後だった。
『おかーさん部』では、毎日何かしらやっていた。
もちろんそこは、『おかーさん』になるための活動もほんの少し入っているが、その命名の由来は『学園のおかーさん』である寧々を部活に引っ張り込む為の方便であった。
調理部や裁縫部などの活動も行われているが、今日は製菓部の方の活動が行われていた。
4グループに分かれてフィナンシェを焼いていた。
寧々の横には製菓部顧問の朝比奈節子先生がおり、寧々と一緒に教えていた。
そして調理室内はお菓子の匂いで包まれていた。
本来ならば、ここでお茶なりコーヒーなりを淹れて実食となるのだが、やはり自分たちだけでは評価が甘くなるというもの。
寧々は優しいので、厳しい評価はなかなかしてくれない。
もっとも、危ないことやふざけていたりしたら容赦なく叱ってくるのだ。
では、誰が評価するのか。
調理室の後方に、お茶会場所が作られている。
そこに当然と言った顔で座るのは静と早矢である。
ちょっとした息抜きのつもりが、ついついお菓子を焼く日には来てしまうのだ。
ただし、二人は楽しみに来ているだけである。
では誰が評価するのか。
それはこの学園で、お菓子に関しては確かな舌を持っていると自負している五人の生徒である。
静に見つけられて連れてこられたのは内緒である。
もっとも五人はこの時間をとても楽しみにしていた。
他に用事があっても、すべてキャンセルか延期するほどに。
一人目は、平城一郎。
生徒会庶務で、三年生である。安奈の兄で、安奈と同様に、とても身長が低く、たまに静に抱っこされたまま連れてこられてしまう。
二人目は、平安奈。
一年四組四天王のリーダーで、城一郎の妹である。彼女も背が低く、よく紫音に抱っこされたまま家に持ち帰られることがある。
三人目は藤原陽与子。
一年一組にいる藤原陽菜の姉である二年生だ。妹と違って背が低いがバスケ部である。走るのも好きである。
四人目は源元基。
彼は三年生であるが、城一郎同様背が低く、城一郎のライバルである。どっちが整列した時の先頭に立ちたくないかで争っている。
五人目は橘達也。
一年生の情報を担当する橘智也先生の弟である。なぜか背が低く、同じ二年生である陽与子より少し背が低い。毎日牛乳や小魚を食べているのに伸びないのだ。
そんなお菓子大好き四天王が、評価するのである。
もう何度も審査をしており、その正確さに、誰もが信頼を寄せていた。
そして、それぞれの前にお菓子が置かれていく。
寧々もどうしてこんなことになっているのか、未だに理解できないでいた。
(いつから審査方式に移行したのでしょうか)
静と早矢も紅茶を飲んで澄ました顔をしているが、どうしてこうなってしまったのかと心の中で突っ込んでいた。
(どうしてみんな審査したがるんでしょうか)
(ただお菓子を食べに来ているだけなんですけどね)
なお、今回プレーン以外は別の味を焼いている。
Aグループはプレーン、ココア、ごま
Bグループはプレーン、抹茶、バナナ
Cグループはプレーン、いちご、紅茶
Dグループはプレーン、チーズ、ほうじ茶
そして、Aグループからお菓子を置いていく。
「うん。プレーンは完璧」「ココアはしっとりしすぎてない?」「わたしはこれ好きよ」「ごまとは意外なものを選んだね。ただ、少し焼きすぎだ」「プレーンが完璧なだけに他二つが惜しいね」
と、見た目は子供。評価は大人顔負けの辛辣さである。
だが、その評価は公正で忖度なし。逆に褒める時はちゃんと褒めるのだ。
そんな感じで残り三グループも食べて評価していく。
彼らにとっては、ただ食べて感想を言い合っているだけなのだが。
その恐ろしく的確な評価に寧々、静、早矢も舌を巻く。
「抹茶のフレーバーが抜けちゃってるね」「バナナはもう少しまんべんなく混ざるようにした方が焼きムラが減るね」「いちごはいいんだけど、やっぱり香りと色がね」「紅茶は完璧だね」「チーズは焼くとパサるんだけど、やっぱり少し違和感が残るね」「ほうじ茶は香りが残ってるね」
両手で食べて、両手でマグカップを持って飲む。
そんな様子を見られるのは、ここだけなのである。
そして、今回の感想をフィードバックして次に繋げるのだ。
どこか背伸びしている子供にしか見えないが、味覚だけは正確だ。
「今日もありがとねー」「いつも食べてくれてありがとねー」「次も頑張るよー」
みんなでわしゃわしゃと頭を撫でながら感謝を言っていく。
終わる頃には髪の毛は鳥の巣のようになっている。
そんな中で城一郎が疑問を口にした。
「明日はお菓子焼かないのか?」
「明日は調理部の方の活動ですねー」
寧々がそう言うと、五人は顔を見合わせた。
「何を作るんだー?」
「明日は、ビリヤニですかね」
「「「「びりやに?」」」」
「それはカレーじゃないのか?」
「違いますねー。でも食べてみれば分かるかもしれませんが」
城一郎がそう言うと、寧々は苦笑した。どう言ったものか難しかったのだ。
「分かった」
「え?」
「明日も来る」「わたしも来るの」「わたしも部活を早めに切り上げてきます」「俺も気になるから来るよ」「じゃあ僕も」
それぞれが頷くと、この日の部活はお開きになった。




