番外編81 早矢、ハーブを育てる
時は少し遡る──
「星羅さん、少しよろしいですか?」
それは星羅主催のガーデンパーティが終わった後だった。
片付けが終わり、みんなで「お疲れー」と解散してすぐだった。
「どうしたの? もしかして早矢も園芸部に入りたい感じ?」
「ちょっと、違いますね」
「?」
家でも星羅は庭を作っていた。
寧々は畑を作っていた。
唯はどちらも手伝っていた。
静は盆栽を地植えにしてそのままにしており、別途購入したパッションフルーツだけ、水やりをしていた。
そして、早矢は思った。
自分も自宅の庭で何かを育てたいと。
しかし、すでに木も花も野菜も果物もある。
残るのは果樹くらいだが、光司が大家さんである伊勢貝さんから押し付けられる形で植えた、グミとビワとさくらんぼの三種類があった。
どれもあまり育ってほしくないのか、根を張ってほしくないのか、大きな鉢植えにしてある。
それでもかなり枝を伸ばしている。
そこで早矢は星羅に相談したのだ。
「なるほどねぇ」
カフェでフルーツ紅茶を飲みながらそんな話をした。
「分かったわ。任せなさい」
比喩ではなく、本当に胸を叩いて言った。
「ありがとうございます。で、どうするんですか?」
「今度の休日に蘭子先輩のお店に行きましょう」
「確か、園芸店でしたよね」
「そうなの。多分都内で一番取り扱い量が多いかもしれないわね」
「そうなんですか?」
「うん。東京ドーム一個分くらいあるんじゃないかしら?」
早矢は冗談だと思った。
外から見るとそんなでもないが、なぜか店内に入るとかなり歩くんだそうだ。
それぞれ植物ごとにエリアが分けられているらしい。
そうして期待しながら行ってみると、どこにでもありそうな店だった。
いや、台風が来たら飛ばされてしまうのではないだろうか。
そんな感じの店構えだった。
「ここ……ですか?」
「そうよ。光司たちと一緒に来たのが最初ね」
よく区役所から建物について文句を言われないなと思いながら中に入ると、内側は綺麗だった。
いや、外と中で全然違った。
いろんな色とりどりの植物があるからというのもあるが、壁や柱はちゃんとしていた。
なんなら地震対策も施工済みだった。
「いらっしゃい」
入ると外国風の男の人が出てきた。
「おや、星羅さんじゃないか」
「どもどもー」
「あら、いらっしゃーい」
今度はほんわかした女の人が出てきた。ひとまとめにした髪の毛を前に垂らしていた。
「あ、どうもー」
どうやらかなりの頻度で来ているらしい。
「あ、今日はね、うちの早矢が何か育てたいって言うんで連れてきたのよ」
「あら、そうなの?」「おや、そうなのかい?」
「ど、どうも」
早矢が恐縮しながら頭を下げた。
「こちら店主の亜蘭さんと奥さんの若菜さん」
「どうも」「どうもー」
そうして案内され、店内を見ていく。
比喩でもなんでもなく、本当に広い。
おかしい。両隣はそこまで高くないがビルで、奥にもビルが見えたはず。
その中を通っているとも思えないし、地下に入った様子もない。
だが、本当にいろんな種類があって目移りしてしまった。
しかし、どれを植えたらいいのか、逆に分からなくなってしまった。
「いらっしゃいませー」「いらっしゃーい」
若菜さんに似た男の子と女の子がお店の手伝いをしていた。
「あら、蘭丸くんと蘭香ちゃんもお手伝い? 偉いわねー」
「ふふん」「えへへ」
星羅に頭を撫でられると、目を細めて嬉しそうにしていた。
一体どれだけここに通えばそこまで親密になれるのだろうかと、早矢は思った。
「その人はー?」
「わたしの家族で早矢って言うのよ」
「初めまして、薬師丸蘭丸です」「蘭香でーす」
和やかな雰囲気でどれがいいかをおすすめしてもらったが、どれも花である。
星羅の担当らしく、星羅がカゴに入れていた。
そして、奥へ行くとなぜか魔女の家が出現した。
そこだけ寄せ植えがしてあったり、大きな木が生えていたりと不思議だった。
早矢はいい方向に考えた。
『きっと寄せ植えの見本なんだろう』と。
しかし、そう思ったのも束の間。中からおばあちゃんが出てきた。
強いておかしいところを言えば、魔女みたいな外套ととんがり帽子を身につけていたことくらいだろうか。
そして、蘭子も一緒に出てきた。
「あっれ、星羅ちゃんじゃないだすか、どうしたんだす?」
「早矢の育てたいものを探しにね」
「へぇー」
「園江おばあちゃんも久しぶりね」
「星羅ちゃんだべかー。ひっさしぶりだなぁ」
早矢は思った。蘭子先輩の訛りはおばあちゃんっ子だからなんだと。
「そういえば、園江おばあちゃんはハーブ詳しいわよね」
「んだ。詳しいだで」
もうどこの方言か分からなかった。
そして、見たことのないハーブをいろいろと見繕ってくれた。
「これ何のハーブなんですかね?」
「修司のとこで見たけど、レアもんのハーブらしいわ」
「へぇ、そうなんですね」
「わたしも手伝うから」
「はい。お願いしますね」
そうしてたくさんのハーブを買ったが、どうやって持ち帰ろうか悩んでいたら、亜蘭さんが車を出してくれた。
カングーにはかなりの荷物を載せられたが、さすがにレンガと土までは載せきれなかったので、奥さんがハイゼットに積んで一緒に運んでくれた。
家に帰り、星羅と早矢が普通に土とレンガを運んだのを見て驚いていたが、園芸好きならと納得していた。
そうして、庭の北側の空いているところにハーブ園を作った。
それは、ハーブ園というより、もう一つのフラワーガーデンといった感じだ。
心なしか、全体的に光を放っているようにも見えた。そのくらい綺麗だった。
「どう?」
「やはり、星羅さんのセンスはいいですね」
「そんなことないわ。早矢もいいセンスしてるわよ」
無事に植え終わり、水もあげ終わった。
着替えようと玄関を開けたら唯、寧々、静が玄関で仰向けで寝転がっていた。
「こんなとこで寝て何やってんのよ」
星羅が呆れ混じりに言った。
「それにしてもすごい量ですね」
早矢が驚き混じりに言った。
三人の頭上には袋に入った大量の果物が置きっぱなしになっていた。




