番外編79 農業ガチ勢は怖い
そんなことを断定したころに、母屋の方から菊乃が出てきた。
菊乃だけではなく、莉奈、志依莉、伊里愛もいた。
星羅以外の園芸部員がいたが、そういった話は星羅から聞いていなかったので、彼女たちも何らかの理由で来たのだろう。
全員、同じような作業着を着ていた。
どこか疲れ切った顔をしていた。
菊乃以外の三人は土まみれだった。
恐らく、莉奈と伊里愛が野菜を育てたいと言ったからだろう。
休日もこうして農作業をやっているとは、趣味にかける熱意がすごいなと唯と静は思った。
「ガチだね」「本気の度合いが窺えますね」
唯も静も気がつかなかった。寧々もすでに着替えていたことに。
やはり、忍者部を傘下に持つと違うなと唯と静は思った。
「これを星羅さんが見たら歓喜するでしょうね」
「だねー」
ここに来たら、速攻で農作業をし始めたかも知しないと思った。
そして、縁側に座ってお茶でも飲みながら収穫されるのを待つものとばかり思っていた二人。
「じゃあ、唯さん、静さんはこっちに」
寧々がニコニコしながら手を引くので、ついていくと、同じ作業着を渡された。
唯と静は首を傾げた。
「これは?」
静が言うと、寧々は言った。
「収穫のお手伝いをするんですよね?」
有無を言わせぬ圧力に二人はただただ頷くしかなかった。
こんな話だとは聞いていなかった。
しかし、怒らせてメロンを貰えないのは嫌だと考えて、唯と静は目を合わせると、ぎこちなく頷いた。
そして、菊乃と寧々主導で、今日の収穫予定のものを採っていく。
伊里愛は菊乃に見張られながら、ナスを手入れしていた。
莉奈と志依莉は新じゃがを掘っていた。
じゃがいもならばミスはしないだろうと。
唯は星羅の手伝いもしているからか、難なくスナップエンドウや絹さやを収穫していた。
「あの……寧々さん。どうしてこんなことに?」
未だ不満を言うのは静だ。
「え、手伝いに来たんじゃないんですか?」
「いや……」
静の中では、件の農さんに会って、旬のフルーツを大量にもらってくるだけだと思っていた。
唯もそう思っていたはずなのに、既に不満を口には出さずに手伝いをしていた。
しかも、手際がいい。
「君、素質あるよー」
「え、マジでー? なっはっはっははー」
二人とも軽い調子で話していた。
一方、寧々と静はそんな様子を見ながら、アスパラガスの収穫をしていた。
「あっ、静さんもっと下です」「ハサミを使ってください」「それはまだ早いです」「そうです。上手です」「……いつも思いますけど、慣れるの早いですね」「あたしよりうまくありませんか?」
だんだんと寧々が不機嫌になっていく。
そうして、かなりの野菜が収穫されていった。
「ガチ農家だね」「そうですね」
唯と静は体力があるのか、腰に両手を当てて立っている。息も荒くない。
菊乃と寧々は、体力が有り余っているのか、検品作業をしていた。
莉奈と志依莉と伊里愛は地面に倒れて、荒く息を吐いていた。
今日はまだ一度も声を聞いていない。
「みんな、なんかごめんね」
「いいんですよ。あたしたちが好きでやっているんですから」
「そうですよ。収穫は時間勝負。早く採って卸す。それに今日は種類も多かったですからね」
「いつもすまないねぇ」
農が頭を下げると、寧々と菊乃が朗らかな顔で言った。
そして、それを軽トラに積むと、農は菊乃と一緒に一度お店へ卸しに行った。
そして寧々は勝手知ったる我が家といった感じで、縁側から上がると、お茶の準備をしていた。
莉奈、志依莉、伊里愛がゾンビ映画のようにズルズルと登っていく。
「あ、そのまま上がっちゃダメですよ。脱いでください。土が家の中に入っちゃいますので」
「そ、そうね」「そうですよね」「マジか……」
三人とも、のそのそともたつきながら作業着を脱いだ。中に着ていたシャツはぐっしょりと濡れていた。
「これ、ダイエットにいいんじゃない?」
「一理ある」
莉奈と伊里愛がそう言って、自分の二の腕やお腹を摘まんだ。
大して変わっていないように思えるが、二人の口角は上がっていた。
志依莉は気だるそうに箪笥に背中を預けて座っていた。自称メイドとは……。
「じゃあ、あーしらも上がろっか」
「そうですね」
軽く手で払ってから上がると、寧々が氷の入ったほうじ茶を持ってきた。
お茶請けも合わせて出した。
ナスとカブときゅうりの漬物。割れせんべい。謎のカラフルなゼリー。甘納豆。
「しぶい」「まさにおばあちゃん家ですね」
少しぺたんこな座布団に座って、お茶を飲む二人。
「へぇ」「ほぅ」
二人ともほうじ茶の香ばしさに感心していた。
莉奈、伊里愛は速攻で飲みきって、お代わりを寧々に入れてもらっていた。
志依莉はゆっくりと飲んで、背中を預けていた。相当疲れているらしい。
そして、唯、静、莉奈、伊里愛はつまようじで漬物を頬張っていく。
すぐに無くなった。
謎のゼリーを手に取って、そのまま固まった。
「オブラート……」「粉砂糖……」
「フルーツの味はしませんけどね」
「でもなんか懐かしい」
そんな感じでしばらくお茶をして休んでいた。
誰も疑問に思わなかった。この家の家主が寧々っぽく見えたことに。
それくらいニコニコと笑顔で座っていたのだ。
やがて、二人が戻ってくる。
「お疲れ様です」
「いやー、ほんと悪いねぇ」
「いいんですよ。農作業したかったらしいですから」
「こんなキツイなんて思わなかったわ」「そうそう」
莉奈と伊里愛が抗議するが、菊乃は一笑に付した。
「何を言っているんです? ここまで育てるのが大変なのです」
「うっ!」「ううっ!」
「そうですね。次回はうちの農園の手伝いにしましょうか」
「やめて!」「勘弁してください」
二人はその場で土下座したが、菊乃は聞く耳を持っていなかった。
なお、志依莉はずっとぐたーっとしていた。
「まぁまぁ、そんな厳しくしたら嫌いになっちゃうよ?」
「ですが」
「わたしの時も厳しかったけど、ここまでじゃなかったし」
「むぅ。農業人口を減らすのは本望ではありませんからね。少し優しくしてあげましょう」
そんな様子を苦笑いで農、寧々、唯、静は見ていた。




