35 ようこそ、ゲーム研究会へ
「ユーイー、ユイユイ、ユーイー」
「一体何回あーしの名前呼ぶし」
翌日、唯が体験入部すると聞いて、2組の部員である兒玉響が、廊下の端まで聞こえる音量で呼んだ。
そのどこまでも通る声で、全員が振り向いたので、唯は少し恥ずかしくなり、響の手を引いて柱の陰に隠れた。
「もう、学園内で唯のこと知らない人なんていないのに今更じゃん?」
「いや、それでも恥ずかしいんだけど」
知名度と公共の場で大声で呼ばれるのとでは訳が違う。
「まぁいいや。で、どしたん?」
「愛に聞いたよー。体験入部してくれるんでしょ?」
「あ、響もゲーム研究会だっけ?」
「そうだよー」
やはり声が大きい。絶対に声楽部とか演劇部とかに入った方がいいんじゃないかと思っている唯。
「でもまだ三時間目の前だよ?」
「知ってる。居ても立ってもいられなくてさー」
豪快に笑うその姿はとても堂に入っている。金髪のポニーテールと胸が揺れる。
「まぁ、その確認でね。じゃあ放課後迎えに行くからねー」
ほぼ会話がそこにいた生徒たちに聞こえていた。
やはりボーカルとか司会の方が向いているんじゃないかと改めて唯は思った。
放課後──
「じゃあ行こうか」
「行くよー唯」
クラスメイトの操と愛が早速、唯の席へ来た。
操も昨日の話を改めて聞かされており、こうして来たのだ。
そして……。
「ユイー! お待たせー! 行くよー!」
走って来たのか、一瞬通り過ぎた響。
そして、入り口へ手をかけて声をかけた。
全員が振り返る。
唯は恥ずかしくなって顔を赤くしてしまった。
「ちょ、もう。声デカイって」
愛が嗜めると、「いやぁ、ごめんごめん」と頭を掻きながら入って来た。
「じゃあ行こっか」
いつもちょこまかと動いている操が急に落ち着いて見えるほど、慌ただしかった。
「じゃあ、行ってくるねー」
「はい。あたしも部活ありますしね」
「わたしも今日は野菜の手入れね」
「わたくしは愛花さんの原稿チェックを」
「うちはロクサーヌさんとお茶の準備ですね」
唯は寧々、星羅、静、早矢に軽く目配せすると、カバンを持って三人と一緒に出て行った。
そして、そのまま部室棟のある方へ行くのかと思ったら、そこへは行かなかった。
特別棟のある方へ歩いていく。
「こっちじゃないの?」
「ゲーム研究会はこっちなんだ」
「そうなんだ」
特別棟は家庭科室、調理室、実験室、パソコン室、音楽室などがある場所だ。
一部の部活もここで行われている。
てっきり、部室でやるものだと思っていた。
そうして二階へ上がり、パソコン室の横の部屋である準備室の前についた。
そして操がノックしながら中へ入る。
「なんで返事を待たずに入るの?」
「え? そういうもんじゃないの?」
なんのためのノックなのかと唯は思った。
もしかして、チャイムとか鳴らしても、返事を待たずに入るんじゃないか、唯の勘は合っているのだが、それを聞くことはできなかった。
というのも、愛も響も気にせず後に続いたからだった。
ゲームをしているのだから、ノックは必要じゃないのかと思った。
そして、三人に続いて、部屋の中へ入ると、準備室の割には広かった。
私立校なので、準備室もそれなりの広さがあるのだろう。
だが、両サイドにはアイアンラックが天井近くまで置かれ、棚にはゲーム機はもちろん、ルーターがいくつも置かれている。使われていないパソコンやモニターも置かれている。
一番異質なのは、サーバーがあることだろう。
そのせいで、居住空間は真ん中しかないのだが、その中央には簡素な長テーブルがあり、その上には、それぞれがカスタマイズしたであろうパソコンが置かれていた。
椅子は全員がゲーミングチェアであり、八脚あった。
奥の隅にはパソコン室へ繋がる扉があるが、その前にも小さな机があり、一目で異質なパソコンがあった。
「ようこそ、ゲーム研究会へ」
そう言ったのは、一番奥の左側に座る男子生徒だ。
立ち上がり、場に似つかわしくない爽やかな笑顔で言った。
「や、あーしは体験で……」
「知ってるよ」
嫌な顔一つせずに席を促した。
「自分は入江朔。このゲーム研究会の部長だよ」
「じゃあ、つぎはわたしだね。宇慶操! 副部長、以上!」
唯の横で満面の笑顔でそう言った。
それに倣って、唯の横の愛と響が自己紹介した。
「松本愛だよー」
「兒玉響ー」
なんとも締まらない挨拶だった。
続いて、部長である朔の隣にいた人物が口を開いた。
「細川実。どうぞよろしく」
マッシュルームカットの男子生徒だ。髪型さえまともならイケメンだった。
「前野咲。いやぁ、唯が入ってくれたらサイキョーなんだけどなぁ」
続いて名乗ったのは、ミディアムヘアでおでこを出した女子生徒だった。少し危なっかしい雰囲気がした。
「これで全員?」
巡がいないなと思ったら、後ろから全速力で走ってくる音が聞こえた。
「ごめんごめん。先生に呼び出されてて……って、みんな揃ってるじゃん!」
巡が荒く息を吐きながら言った。
「まだ時間前だから大丈夫だ。自己紹介していたところだしな」
「あっ、そうなん? じゃあー、一番の大役? 秋山巡! よろしくー」
最後に元気いっぱいに答えると、唯が戸惑いながらも胸の前で手を合わせて、小さく頭を下げた。
「み、御坂唯です」
やはり見た目だけで、ギャルらしくないお辞儀だった。
「よろしくー」「よろしくね」「よろしくっしょ」
それぞれが唯を歓迎していた。




